第11話 ご近所さんと一緒! ー川島編ー (前編)
例のお花見から二週間が経った。ちゅうじんはあれからキテレツ荘の面々とすっかり仲良くなったようで、今日は恵美の子どもが多田の家に遊びに来る日なのだ。朝からご機嫌なちゅうじんは、まだ五時だというのに多田を起こしに行っていた。バンッ! と思いっきり多田の部屋の扉を開くと、すやすや寝入っている多田の姿が見える。
「起きろーー‼︎」
何故か多田の部屋に拡声器があったので、それの音量を最大にして起こしてみると、多田から朝からうるさいと言われてしまった。お前が起きないんだから仕方ないだろ、とツッコミを入れるちゅうじん。どうやら、寝起きというのはいつものツッコミとボケが反対になってしまうようだ。
「なんで今日はそんなに起こすのが早いんだよ。ちゅうじんは地球外生命体だから寝なくてもいいんだろうが、人間はそうもいかないんだ」
「今日は恵美のところの子供がうちに遊びにくる日ダロ?」
「遊びに来るんじゃなくて、恵美さんが子供をうちに預けにくる日だろ。言っとくが、今日のそれは遊びじゃないんだぞ」
「そんなことぐらい分かってるゾ」
そう、今日は多田たちの隣に住む川島恵美が、七歳になる子供を預けにくる日となっている。どうにも、恵美が仕事で日帰り出張らしく、生憎今日は小学校もお休みらしい。
加えて恵美の祖母も今日は用事があるらしく、こうして暇な――いや、面倒を見てくれそうなちゅうじんに白羽の矢が立ったというわけなのだ。
「子供がうちに来るなんて滅多にないことだから興奮するのは分かるが、ちゃんと部屋とかリビングとか片付けたんだろうな?」
「あ、ヤベっ……今、爆速で終わらせてくる!」
「おーおー、いってら。そんじゃあ俺はもう一眠り」
多田に指摘を受けたちゅうじんは部屋を片付けていないことを思い出したのか、爆速で部屋を出ていった。
ちゅうじんが部屋を出たことを良いことにもう一眠りしようと布団に潜り込む多田だったが、先に部屋に行ったと思っていたちゅうじんに布団をガバッ! と剥がされてしまう。
「多田も手伝えよ」
「……はいはい」
仕方ないと多田も布団から出て、着替えを済ませる。それが終わると、自分の部屋の整理を始めるのだった。
◇◆◇◆
部屋を片付け終わった多田とちゅうじんはその後、川島親子と合流した。多田は仕事に行くついでにと仕事用の鞄を手にぶら下げている。一方のちゅうじんも、花見会場の時と同様に人間・うーたんの格好をしていた。
「今日はよろしくお願いします。ほら、
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくな武尊。うーたんお兄ちゃんと呼んでも良いんだぞ」
「嫌だね」
恵美が挨拶するように言うと、武尊は少し緊張気味にちゅうじんに挨拶した。ただ緊張しているというわけでは無いだろう。きっと、母親の圧が強すぎるせいだ。
普段は優しいのに怒るとこんなに怖いのかと思いながら、ちゅうじんは武尊に挨拶をする。しかし、武尊の返しにムカついたのか、ちゅうじんは思わずイラっとした表情を一瞬浮かべてしまう。
「こら! 人様に向かってそんな口聞くんじゃないよ」
「ちぇっ!」
「いや、良いんですよ。こいつも大概生意気なので、仲良くやれそうです」
「おい、それは無いだろ」
多田に生意気だと言われてすぐさま否定するちゅうじんだが、多田に実際に家での行動思い出してみろと、小声で言われてしまいぐうの音も出なくなってしまった。そうこうしているうちに、恵美と多田は仕事の時間のようなので、キテレツ荘を出ていく。二人がいなくなったのを確認すると、ちゅうじんは武尊を家に入れた。
「おお〜! 部屋の大きさとかは一緒だけど、なんか新鮮な感じがする!」
「そうだろ? さっそくリビングに案内してやろう!」
「うん!」
意気揚々とちゅうじんがリビングに案内すると、武尊はさっそくソファを占領する。そんなソファを占領されたぐらいで怒ってはいけないと自制しつつ、予め調べて入手しておいた遊び道具を部屋に取りに行く。
どんなものがいいだろうか。そう思いながら、事前にネット通販で取り寄せていたレゴやらボードゲームやら子供向けのDVDをかき集め、ワクワクしながら両手いっぱいに持っていく。
リビングに着くと、武尊が異物を見るような目でちゅうじんの方を見てきた。なんなんだその目はと思いながら、ちゅうじんはテーブルに持ってきたおもちゃを広げる。
「家にあるおもちゃを持ってきたんだけど、どれやりたいとかあるか?」
「……いや、どれもやりたくない。てか、今どきの子供はこんな古臭い遊びよりも、こういうのをやるんだけど……」
そう言いながら持ってきたリュックを背中から下ろして、その中をゴソゴソと漁る。何が出てくるのだろうとちゅうじんが待っていると、なんとリュックの中からタブレットが出てきたのだ。どうやら、ちゅうじんが調べてネット通販で取り寄せていたものは、一昔前のおもちゃだったらしい。
それはともかく、七歳児のリュックから、タブレットなんてものが出てくるとは思ってもいなかったちゅうじんは、思わずえっ? と声を漏らしてしまう。
「え、何? どしたの?」
「あ、いや、まだ子供なのにそんなもの持ってるんだなーって思って」
「は? そんな高価なもの僕みたいな子供が持てるわけ無いじゃん。これはお母さんから借りたものだよ」
「そ、そうだよな」
そんな高価なもの子供が持っているわけがない。そう心の中で復唱すると、先ほどまでの動揺が落ちついてきた。チラリと子供の方を見ると、何やら動画を見ているらしい。音がタブレットから出ている効果音を聞いてみるに、これはいわゆるロボットアニメというやつだろう。今どきの子供はこんなものを見るのかと、遠い目をしながら思うちゅうじんだった。
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