第6話 地球での暮らし ースマホ・ネット通販編ー (後編)
後輩が会社で起こしたトラブルを片付けて帰ってくると、もう夕方の五時だった。休日にもかかわらず何故会社に出向かなければならないんだ、と怒る多田は玄関の扉を開ける。
すると、玄関に隙間がないほど置かれた大量のダンボールが多田に向かってなだれてきた。
「おい! 何なんだよこの大量のダンボールは⁉︎」
自分に覆い被さってきたダンボールを退けながら、リビングにいるであろうちゅうじんに向かって叫ぶ。ダンボールをよく見てみると、そこには通販大手のAmazanのロゴが。
「オータ、大丈夫か?」
「大丈夫なわけあるか……‼︎ 一体、何したらこんなことになるんだよ⁉︎」
廊下にも並べられているダンボールを避けつつ、玄関へと辿り着いたちゅうじんが心配するも、逆に多田はこの惨状を見てキレてしまう。
「ネット通販という便利そうなものがあったからナ。色々と買ってみた!」
「いや流石に買い過ぎだろ! 誰が払うと思ってんだ⁉︎」
「え、誰ダヨ?」
「俺だ俺」
嬉しそうに話すちゅうじんに対して、容赦なくツッコむ多田。買ったものを払うのが誰なのかさえ分かっていないちゅうじんに、多田は呆れる。
「そんなことも知らずに買ったのか?」
「ああ。後、カキンというやつもしたナ。ボタンを押すだけで、いろんなアイテムとかキャラが貰えるからすごいゾ!」
「おいちょっと待て。そんなの聞いてないぞ⁉︎」
自分の知らないうちにちゅうじんが課金に手を出していたという、まさかの事実に多田は驚きを隠せない。いつの間にそんなことをやったんだと思っていると、ちゅうじんが口を開いた。
「え、だってちょうどその時、オータはテレワークしに自分の部屋に向かってたダロ?」
「はあああ……なるほどあの時か」
合点のいった多田は、あの時上司から電話がかかってこなければ、と後悔する。一応いくら課金したのか、とちゅうじんに訊いてみる。
「えっと、一にゼロが四つついたボタンを十回ほど……」
ゼロが四つのボタンを十回って……。
内心でちゅうじんの言った金額を数える多田。
「十万円も課金したのかよ⁉︎ 何も知らなかったとはいえ流石に押し過ぎだっつーの!」
「いや、だってボタンがあれば誰だって押したくなるものダロ?」
「だとしても、そんなことをするのは廃課金者だけだ」
普段、課金しない多田から言わせれば十万は高い。想像以上の事態に、多田の胃と口座はとんでもないことになっていた。みるみるうちに心労が溜まっていく多田は、あることを思い出す。
「そういや、ダンボールはどうやって受け取ったんだ?」
「ん? ピンポーンって音が玄関の方から鳴ったから、そのまま出ていったゾ」
多田の問いにそう応えるちゅうじん。すると、多田の顔色がどんどん青ざめて、あんぐりと口が開いた状態になる。それを見たちゅうじんが、どうかしたか? と不思議そうに訊いた。
「どうしたもこうしたもねえよ‼︎ それヤバいじゃねえか!」
「え? なんで?」
多田が今まで以上に焦っているのに対して、ちゅうじんはまたしても不思議そうな顔をした。まだ分かっていない様子のちゅうじんに多田がこう説明する。
「お前の姿が宅配業者に見られたってことになるだろーが‼︎」
「それなら記憶操作で何とかしたから問題ないゾ」
「へ……?」
「まだ多田が家に帰ってくる前のことだ」
今度は逆に多田が不思議そうな顔をしている。そんな多田にちゅうじんは事のあらましを説明し始めるのだった。
◇◆◇◆
午後四時半。多田が会社に向かってから二時間半が経とうとしていた時、玄関の方からピンポーンという音がちゅうじんの耳に聞こえた。
突然のことに驚くも、何度も何度もその音が鳴り響くので仕方なく出ることに。
「はーい!」
「宅急便でーす。荷物を届けに参りました」
ちゅうじんが玄関の扉を開けると、そこには大きな荷物を抱えた人が。どうやら、ちゅうじんが頼んだ荷物を届けに来たようだ。
「あ、あの……あなたが多田さんですか……?」
恐る恐る尋ねる宅配業者の額には汗がダラダラと流れており、荷物を持つ手が震えていた。それもそのはず、家から出てきた人が宇宙人のような格好をしていたからだ。
「ん? ああソウダ」
受取人の名義は多田なので、ちゅうじんはそう呼ばれたことに一瞬、疑問に思うもすぐに肯定した。尚、ちゅうじんは自分の姿が宅配業者にとって、異質に見えていることにまだ気づいていないようだ。
「え、えっと……。頼んでもらった荷物があまりにも多いので、て、手伝ってもらってもよろしいでしょうか……‼︎」
「分かったゾ」
ちゅうじんが頼んだ荷物があまりにも多いようで、そう頭を下げる宅配業者。目の前のヒトがコスプレなのか、ガチの宇宙人なのかどっちか分からずに戸惑っているのか、宅配業者の語尾が少し強くなっている。
そんな宅配業者をよそに、手伝うことを了承したちゅうじんは、トラックの近くに行くと念力を使って荷物を家の中へと移動させた。
「え、ええー⁉︎」
そう叫びながら、目の前で起きている光景を見て宅配業者は腰を抜かしてしまう。
「あ、ヤベっ。忘れてた」
腰を抜かした宅配業者の姿を見て、多田との約束を思い出したのか、自分のしてしまったことに気がつくちゅうじん。
数秒考えてから、宅配業者の記憶を消すことにしたちゅうじんは、人差し指を腰を抜かしている宅配業者の青年の額にあてた。すると、気を失ってしまう。
ちゅうじんは家の横に彼を寝かせてから、全ての荷物を家の中に入れて扉を閉めた。
その十秒後、気を失っていた宅配業者は目を覚ます。
「あ、あれ? 何でこんなところで居眠りなんかしてんだ俺。なれない業務に疲れてたのかな……」
と、ちゅうじんを目撃してしまったことを忘れてトラックの方へと戻っていくのだった。
◇◆◇◆
「というわけだから、心配しなくても大丈夫だゾ」
「な、なるほど」
と、ちゅうじんの説明を聞いて妙に納得し、安心からかホッと息を吐いた多田。
その直後、多田のスマホに再び着信が来たらしく、カバンの中でそれが振動している。今度は何だと思った多田が通話に出ると、またしても上司からだった。
「はいもしもし。今度はなんですか上司」
『実は機械トラブルが発生してな。今から来れるよな?』
と、来ないことを許さないかのように言ってくる上司。
「はあ……。今すぐ行きますから待っててください」
そう言って通話を切ると、多田は盛大に息を吐いた。その様子に何かを感じたのか、恐る恐る声をかけてくるちゅうじん。
「どいつもこいつも俺をパシリやがって。俺は便利屋じゃねえんだぞ‼︎ てか、休日ってなんだよ⁉︎」
多田はそう大声で言った後、バタン! と玄関の扉を閉めて再度会社へと向かうのだった。
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