第4話 地球での暮らし ーテレビ編ー

  

 ちゅうじんとの衝撃的すぎる出会いから一夜明け、六時を迎えた瞬間、目覚ましのアラームが鳴った。布団の中から手を伸ばして、目覚まし時計を止める多田。彼が勤める会社は休日なのにもかかわらず仕事があるので、日曜日も出勤しなければならない。昨日は結局三時に寝たので、まだ眠い多田は仕方なくベッドから起き上がる。


「あ゛ー、眠っ」


 ぼんやりとした頭で着替えていると、リビングの方から何やら物音が聞こえてきた。なんだと思いながら、着替えを済ませて物音の方に向かうと、多田は目の前の惨状に驚く。


「なんだこれは⁉︎」


 多田の目の前にはスナック菓子の袋や本といったものから、電化製品に至るまで様々なものが浮いていた。


「あ、オータ。起きたのか」


 ソファに寝っ転がりながら本を読んでいたちゅうじんが、起きてきた多田に向かって声をかけてきた。どうやら昨日半壊した家は全て直したようで、壊れた形跡も消えている。が、その代わりに部屋のあちこちでものが浮いており、スナック菓子の残骸も床に溢れていた。


「起きたのかじゃねえよ! 家を直してくれるのは有難いんだが、なんだよこの状況は⁉︎」

「あー、直すついでにオータの家の中を調査してたらこうなった」

「……はっ? にしても汚れ過ぎだろ!」


 この惨状の目にして朝から心労が絶えない多田。そんな彼を他所にちゅうじんは、黙々と漫画の続きを読んでいる。取り敢えず、このリビング以外に被害が出ていないか見て回るために、ちゅうじんの部屋を後にした多田は洗面所の方に向かう。


「いや、ちゅうじんお前何したんだよ⁉︎」


 多田が洗面所の方で大声を出していると、なんだなんだとちゅうじんがやってきた。


「どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもねえよ! 一体何したらこんな状態になるんだ⁉︎」

「えっと、なんか珍しい機械があったから、適当にボタン押していったらこうなったンダ。下手に掃除してもあれだなと思ったから放置してた」


 目の前には昨日、多田が寝る前に回していた洗濯機から服と大量の泡が漏れ出している。これでは洗濯物が干せないどころか、この場を掃除をしてからもう一度やり直さなくてはならない。

 多田はちゅうじんのあまりのアホさ加減に声も出なくなっていた。取り敢えず、この場を収めなければオチオチ仕事にもいけないので、朝から掃除をし始める多田。それを見たちゅうじんは自分も何か手伝った方が良いのでは? と声をかけようとするも、


「お前はもう何もしなくて良いからリビングの方でじっとしてろ!」

「ア、ハイ……」


 と、雑巾で床についた泡を拭きとっている多田に言われたので、仕方なくリビングの方に戻ることに。



 それから一時間して、洗面所とリビングの掃除をし終えた多田。ちゅうじんが変に触ったせいか炊飯器も壊れているので朝ごはんも食べずに、情報収集がしたいんならテレビでも見とけ、と言葉を残して多田は家から出ていった。



 そして時は流れて、時刻は午後十一時。今日は早く帰って来れたと内心思いながら玄関の扉を開ける多田。


「ただいまー」

「おかえり。やっと帰ってきたのか遅いぞ」

「仕方ないだろ。うちはただでさえ人員不足だから、その分仕事しなきゃ駄目なんだよ」


 そうは言いながらも、今までは一人暮らしで家に帰っても誰もいなかったので、誰かがこうして迎え入れてくれるのは良いものだと思う多田。靴を脱いでリビングに向かう道すがら、洗面所やバストイレを見て回るも、特に異常は見受けられないのでホッと一安心する。

 ところが、リビングに入ると同時にまたしても朝と同じような光景を目にしてしまい、帰って早々怒りを覚えてしまう。


「おい、ちゅうじん。大人しくしとけって言ったよな?」

「いやだって、テレビ見てるだけだと手持ち無沙汰だし、何か他にないかな〜と思って」

「……まあ、そうだよな」

「うんうん!」


 まあ朝よりは幾分かマシだし、怒ってばかりいても仕方ない。と内心思いながら怒りを収める多田。そんなことも知らずに、ちゅうじんは機嫌よく返事をしながら、スナック菓子を頬張っている。


 いや、人が頑張って怒りを鎮めてる中で食うか普通。


 ちゅうじんを見て少しばかりイラつき始めた多田は、さっさと手を洗いに向かった。何やら焦げ臭い匂いが多田の鼻を掠めるも、このキテレツ荘の住人の誰かが焼き魚でも焼いているのだろうと思い、手を洗ってリビングに戻る。

 多田はソファに寝転がりながら、漫画を読み進めているちゅうじんに声をかけた。


「そういや、ちゅうじん。地球はお前から見てどう見える?」

「ん? そうだな。面白いものやかっこいいものがたくさんある。文明的にはワタシの星よりも劣ってはいるが、その反面テレビや本と言った娯楽は自分の星にはないから新鮮だ! 特に昼ドラなるものは面白い!」

「え? まさかの昼ドラ⁉︎」


 ちゅうじんのチョイスに驚く多田に対して、ちゅうじんは嬉しそうに語り始めた。


「ああ。生命同士の関係が深く知れて勉強になるし、話が思わぬ方向に飛んでいくから見ていて面白いぞ!」

「そ、そっか……。ちゅうじんが楽しんでいるようで何より……」


 昼ドラなんてドロドロしたものが大半なんだが、それを面白いと思うちゅうじんの感性はすごいな……。


 と引きつった顔で内心思っていると、ちゅうじんがあっ! と何かを思いだしたような声を上げる。


「なあ、オータ」

「ん? なんだ?」

「これってどうすれば良いンダ?」

「……え?」


 ちゅうじんが指差した方向はキッチンだった。一瞬、反応が遅れる多田。まさかと思い恐る恐るキッチンに近づくと、ガスコンロの方でボーボー火が上がっているのが見えた。

 以前、このリビングの火災報知器は壊れているから注意してね! と大家が言っていたのを思い出す。そのため気づくのが遅れたのだ。それにしてもだ。


 あの焦げ臭い匂いは焼き魚じゃなくて、これだったのかよ⁉︎


 そう思いながら、まだ火が大きくないことに気づくとすぐさま消化器を取りに向かう多田。一分もしないうちに戻ってくると、消化器の安全栓を引き抜いてから消化をし始めた。


「全く何やってんだよ⁉︎ てか、そういうことはもっと早く言え……‼︎」


 多田はやらかしたちゅうじんに向かって怒鳴りながら、火を消していく。その間、ちゅうじんは悪びれる様子もなく、漫画の続きを読んでいたのだった。

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