第38話 知らない一面
テストも終わり夏の休みをどう過ごすか考えていたある日。
「あれ神谷1人か?」
下駄箱で運動着を着た『夏目波留(なつめはる)』に遭遇する。
「そうだよ」
「優美は?」
「俺は用事だから今日は別行動」
「用事ってなんだよ?」
「なんでわざわざお前に言わなきゃ…………」
「なんだ〜。いかがわしいことか?」
やたら絡みにくる夏目に面倒くささを感じ始めた。
「道場だ」
「道場?……………あれ剣道って辞めたんじゃ」
「部活はやってないけど、続けてはいる」
「ふ〜ん」
何故かニヤつく夏目。
「お前こんなとこで油売ってていいのか?」
「…………ハッ!いいわけねーよ!!神谷に余計な事聞いて時間無駄にしたー」
「自分で話しかけといて勝手なヤツだな!」
「帰宅部のクセに私の貴重な時間を台無しにしやがってー!」
「なんでだよ!俺も用事あるんだよ!!」
「責任取れよ!!」
「ハア!?なんでそうなる」
下駄箱での口喧嘩に徐々に視線が集まる。
(注目されるのは後々面倒くさいことになるな)
「神谷!?」
俺は夏目の右手首を掴み強引に下駄箱から離れた。
「なにすんだよ!!」
途中で夏目が力強く手首を振りほどく。
「あそこでいらね噂が立ったらお互い迷惑だろ」
「…………確かに」
「じゃあ、俺は用事があるから」
「あっ待って!」
自分から振り払っておきながら夏目が俺の右手首を掴む。睨みを利かしながら自分のカバンを漁る夏目。
「……………カメラ?」
「あんたが撮って神谷」
「なんで俺が?」
「聡美に頼むつもりだったけど、あの子今日休んでるでしょ?」
「そういえば」
「代わりにフォームチェックの撮影をお願いしたいのよ」
「別に俺がやらなくても部でも撮ってるだろ?」
「あらゆる角度から確認したいの!」
「はぁ…………俺は用事が…………」
「いいから付き合え!!」
強引に陸上グランドのフェンス裏まで連れて来られ、夏目はさっさとグランドに戻る。
(やっぱり部でもカメラでモーション撮影してるじゃないか。なんでわざわざコソコソと…………)
スタートラインで背伸びをする夏目。身体をリラックスさせる為だろう手首足首を揺らす。
スターティングブロックに両足を乗せ前に屈む夏目の表情は、いつもの夏目とは全く別の表情だ。
顧問の吹いた笛の音で力強くスターティングブロックを蹴り、スピードに乗る夏目。ものの数秒で一連の出来事は終わった。
「夏目。自己ベスト更新だ」
どうやら良い結果を残せたようだ。周りに部員が集まり夏目を囲む。
俺達と居る時の笑顔とはまた違う清々しい表情。
カメラ越しに見る夏目の姿に見入っている自分がいた。
「おっす、波留昨日はごめんな」
翌日。前日は休んでいた佐藤はいつもの合流場所にやってきていつも通り4人で登校する。
「気にすんなよ、いつでも出来るし」
「なにかあったの?」
「昨日さ、部活でフォームチェックしようと思って聡美にグランド外から撮影頼んでたんだけどオジャンになってさ」
「ほんとスマン」
「だから気にすんなって〜」
楽しそうに話しながら歩く3人から一歩引いて歩く。
「あっ!」
前を歩く夏目が急に止まる、俺はぶつかりそうになった。
「急に止まるなよ」
「靴紐ほどけたんだよ」
屈む夏目を待つ俺達。その姿を見て待っていると夏目が後ろの俺に手招きしていた。
(昨日のカメラ返して)
(はぁ?今?)
(カバン開けてあるからさり気なく入れて)
靴紐を結び直した夏目が立ち上がると同時に昨日渡されたカメラをカバンに入れる。
一瞬夏目がカバンに視線を向けると、笑った気がした。
「波瑠。なんかあった?」
「全然〜」
そう言った夏目の表情はより明るくなった気がした。
僕は母さんの親友に振り回されています ザイン @zain555
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