season3

第36話 彼女の親友

ヤツとの決着から2年。俺は優美ちゃんと一緒にいる時間を選んだ。


因縁にケリをつけ、襲いかかる火の粉を振り払えるだけの力をつけたことで剣道に拘る必要は無くなった。


「おーい神谷。この後どうする?」


「ゴメン。用事あるんだ」


「…………なにが用事だ。新垣とデートだろ」


「!?」


「なに照れることがあんだよ。お前達の関係知らないやつなんてこの学年にいねーよ」


「関係って、俺達はそんな……………」


「わかったわかった、じゃあ明日惚気話楽しみにしてるから!」


そう言い先に帰るクラスメイト。俺はそのクラスメイトが教室から出た後で彼女の教室に向かう。


優美ちゃんは、クラスメイトと談笑中のようだ。


「…………ってなんだお前らか」


「誰かと思えばまた神谷か〜」


「悪いね。優美借りてるよ」


「優太くん。お疲れ様」


声をかけてきたのが俺だとわかり残念がったのは『夏目波留(なつめはる)』。ニヤつきながら声をかけてきたのは『佐藤聡美(さとうさとみ)』2人とも中学からの付き合いで優美ちゃんと仲が良い。俺が剣道に打ち込んでいた頃はよく3人で遊んでいたそうだ。


「なにしてんだ?」


「なんで神谷に教えなきゃ…………」


「テスト勉強だよ」


「ちょっ!聡美!!」


秘密にしたかったのか佐藤がバラしたことにふてくされる夏目。


「ほら、期末テストも近いでしょ?だから2人と勉強してたの」


「あー」


「かぁー毎回学年トップ10に入る男は面構えが違うね〜」


憎たらしい口調で夏目が俺をおちょくる。


「別に余裕じゃないけど」


「よく言うよ各教科90点とか連発するくせに」


「あたし前回の中間やばかったんだよねー」


佐藤のヤバいのトーンから危機感を感じない。


「だからこんなかで一番頭良い優美に助けてもらってるのよ!」


「そんな、頭良いだなんて………」


「でも優美もだいたい80点くらい平均してとれるじゃん」


照れる優美ちゃん。


「…………てか神谷に教えてもらえばいいんじゃん」


突拍子もないことを佐藤が言い出す。


「!?」


「ハァー!?」


「いや帰りたいんだけど…………」


「誰と〜〜」


見透かしていると言わんばかりにニヤつく夏目。


「少しだけ優太くん。お願い」


優美ちゃんのお願いを無下にも出来ず、少し3人の勉強を手伝うこととなった。



「いゃー疲れた」


一通り終わると夏目が背を伸ばす。


「ありがとう優太くん」


「うん」


「教えるの上手いな神谷。高野先生思い出したわー」


佐藤のトーンは本心がわかりにくい。


「わかるー懐かしい〜。あの人の授業メチャわかり易かった」


「でも教師辞めたんでしょ?勿体ないなー」


「あれでしょ?『タカノクリニック』に戻ったんじゃない?」


「あー。創業者にして会長だもんね。でもなんでわざわざ中学の先生やろうと思ったんだろうー」


「さぁ〜?どした神谷?」


「いや、なんでもない」


「…………そういえば神谷。高野先生と仲良かったよな!剣道部の顧問だったし。もしかして高野先生の事好きだったとか?」


夏目はまたニヤリと笑いながら俺を誂う。


「別にそんなんじゃねーよ」


「顔赤くなってんぞー」


「夏目お前!」


俺は逃げる夏目を追いかける。そんな俺達を優美ちゃんと佐藤はまた始まったと呆れつつも笑っている。これが今の俺の日常だった。


「ったくなんでお前らついてくんだよ」


「あのね、私達も帰り道は一緒なんですけど」


「邪魔して悪いねーお2人さん」


「だから!そんなんじゃ」


「じゃあお前らどういう関係なんだよ?」


「……………」


どういう関係……………思えばそんなことを俺は考えた事がなかった。小学生の頃から優美ちゃんとは家族ぐるみの付き合いで一緒にいることが当たり前になっていた。


心なしか優美ちゃんもこちらをじっと見ている気がする。


「どうって言われても…………」


「わっ、私達ずっと小さい頃から一緒だから家族みたいな!ねっ!!優太くん!!!」


「まぁ、そんな感じだよね」


「……………あっ、そう」


「なんだよ夏目聞いといてその反応」


「べっつにー。あっ私と聡美あっちだから、優美また明日〜」


「またね!波瑠。聡美!!」


いつものように帰る俺達。


「夏目のやつなんか様子おかしくなかった?」


「そうだね」


「優美ちゃん?」


なんとなく元気が無くなっている。そんな気がした。


「なに?」


「どうかした?」


「なんでもないよ!あっ私用事あるから優太くんまた明日!!」


「うっうん。また明日」


小走りで帰る優美ちゃん。その後ろ姿を目で追う俺の心は何故かザワついていた。

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