第32話 宣告
日が沈んだ格技場に竹刀の音が響く。誰もいないこの殺風景な場所で、俺は竹刀を振り続ける。
あの悔しさを糧に今日もひたすら竹刀を振るう
「イタっ!」
後頭部になにが投げつけられた。
「いつまでやりつもり?」
ドアにもたれかかるおばさん。
「おばっ…………高野先生」
振り返ると水の入ったペットボトルが転がっている。
「あんたがここにいたら、あたしが帰れないじゃない」
呆れた様子のおばさん。
「すみません」
「毎日毎日、こんな時間までよく飽きないわね」
「もっと強くならないといけないんで」
「……………闇雲にやったところで、あんたの為にはならないわ」
「!?」
おばさんのいつもの口調が俺のナニかを刺激した
「なにもやらないよりはマシでしょ」
「それが意味のあるものならね。今のアンタからはそれは全く感じないわ」
「ハァ!?」
自然と離れていた距離を詰めていた。
「あいつに勝つにはもっと力をつけなきゃいけないんだ!だったらひたすら振り続けるしかないだろ!!」
「あんたの身体じゃあの男の力任せなスタイルは無理よ」
「おばさんは端からしかみてないからわからないんだ!あいつは力だけじゃない!!」
「へぇ〜そうなの」
「あの手から全身が痺れるような感覚、あれはもっとこう……………」
「あんなのあんたの腕があの男の一撃に耐えられず反発して痺れただけでしょ?」
「!?それだけじゃない!!あの力強さからくる素早い剣筋は……………」
「あんなスピード上のレベルにいけばゴマンといるわ。あの男はあんたよりずっと前から剣道やってんじゃない?」
「!?」
俺の分析を尽く簡単な言葉で切り捨てるおばさん
「なに勘違いしてんのよ。始めて3ヶ月で全国いったくらいでなに強者顔しちゃって」
「俺はそんな!」
「如何にも専門家みたいな分析まで始めちゃってさ、笑っちゃうわよ」
「なにがおかしいんだよ!」
持っていた竹刀を投げ捨て俺はおばさんの胸倉を掴む。
「あんた達みたいなガキが【剣道】のナニがわかるっていうのよ?剣道の技術なんてそう簡単に身に付くものじゃないわよ」
「なっ!?」
「それに自分の一部である竹刀をそんな扱いするようなヤツがなにいっちょ前に剣道語ろうとしてんだって言ってんの!」
おばさんに掴み返された俺はなにも言葉を返せなかった。
「あんた剣持からなにを学んだ!」
おばさんの声に力が籠る。
「……………」
「……………ったくらしくないわね。あたしも」
おばさんは胸倉から手を離すと腕を組み、俺に背を向けた。
「優太。あんたは出禁よ」
「はっ?なんで?」
「今のあんたに主将なんて任せられないし、部にとっても迷惑」
「おばさん…………なに勝手に」
「1週間後にここにあたしへ答えを持って来なさい。その答えを持ってこられなかったら…………剣道なんてやめてしまいなさい」
こちらを見向きもせず格技場を後にするおばさん
突然突きつけられた宣告に俺はただ立ち尽くすしか出来なかった。
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