第24話 変化

おばさんが剣道部の顧問になってから、部の雰囲気は目まぐるしく変わった。


「面〜〜〜」


「浅井!発声が審査員に届かなかったら意味無いでしょうが!!腹から声出せ!!!」


ブン…………ブン…………


「岩永!まだ30だぞ!!それくらいでへばるな!!!」


他の部員達が剣持先輩をひと目見る隙が無い程におばさんは1人1人に細かく指示を出す。


「凄いな高野先生は。顧問になられて3日で皆のことを的確に見ておられる」


「大企業の社長は伊達じゃないって感じですかね」


「大企業?…………そうか。聞いたことのある名だと思っていたが『タカノクリニック』の元社長か。確か4年前に会長となって世間に姿を見せなくなっていたが、高野先生が当人なのか」


「そうみたいですね」


「だが神谷。なぜそれを貴様が知っている?」


「えっ」


「『タカノクリニック』は女性向けの商品が多い美容会社だ。貴様そんなに『タカノクリニック』愛用してたのか?」


剣持先輩の指摘に俺は戸惑った。


「母が愛用してるから知ってたのかもしれないです」


「なるほどな」


その場しのぎの理由付けに剣持先輩が納得したのかは怪しい。


「剣持!神谷!!サボってる暇はないわよ!!!」


おばさんの鋭い視線がこちらに飛ぶ、俺達は稽古を再開した。



「お疲れさまでしたー」


自主的な稽古を終え、帰路につく俺達。


「なかなかハードでしたね」


「うむ。だがこんなにも充実した稽古は久しぶりだ」


「そうなんですか?」


「・・・・・貴様もわかっているとは思うが、貴様が入部するまで剣道部は私以外のモチベーションが低かったからな。なかなか苦労した」


「そうでしたか」


「だが、貴様と特に高野先生が参加されてから3日間で他の部員の姿勢が見違えるように変わった。ありがとう神谷」


初めて見る剣持先輩の笑顔に俺は思わず俯く。


「どうした?」


「いえ、なんでもありません」


「そうだな。せっかくの機会だ家に来ないか?」


「はい?」


「嫌か?」


「そんなことはないですけど・・・・・またどうして?」


「剣道部の活気が戻り始めていることに父が喜んでいてな、是非その立役者の1人である貴様を紹介したい」


「立役者だなんてそんな・・・・・」


「謙遜するな、間違いなく貴様の熱意も要因の1つだ」


「そうですか、ならお言葉に甘えて」


剣持先輩に招待され辿り着いたのは、周囲に圧倒的な存在感を与える巨大な門とTVでしか見たことのない巨大な木造の家だった。

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