第23話 助っ人

「なんで…………」


俺の困惑した表情を剣持先輩は不思議そうに見つめる。


「どうした神谷?…………そうか確か高野先生は貴様の担任だったな」


「えぇ、まぁ」


「つれないわね神谷。困ってるならあたしに相談すればいいのに」


何食わぬ顔で話し出すおばさん。


「いや、先生剣道というよりスポーツ嫌いなのかなって思ってたんで」


「はぁ?なんで?」


「汗臭いのは嫌だってよく言ってるし…………」


「それはエチケットをしっかり守らない神谷が悪いのよ」


「だからそれは…………」


「それに別に趣味でテニスとかやるしスポーツ嫌いって訳じゃないわよ」


ふといつかの記憶が蘇る。


「ッッ!!」


「……………なに神谷〜。教師に欲情?」


「そんなんじゃないです!」


「想像力豊かなのは結構だが、まだまだ精神力の鍛錬が必要だな神谷」


「先輩鵜呑みにしないで!」


表情を崩さずに真面目にボケる剣持先輩。


「それより先生。剣道の知識あるんですか?」


「失礼ね。あるわよ!学生の頃友達の応援にも行ったわ」


(知らなかった。…………母さんが剣道やってたのか?)


「ということだ神谷。今日から立浪先生が復帰されるまでは高野先生に剣道部の顧問をやってもらう」


目立った変化は無いが、剣持先輩の声は自然と上がっていた。



早速その日の放課後。剣道部員に集合がかかりおばさんが顧問につくことが発表された。


「皆よろしく〜」


着任当初から何かと話題の種になるおばさんの顧問就任に他の部員達は歓喜する。


「剣持。人数はこれで全員?」


「はい。私を含め計7人が剣道部員です」


「ふ〜ん…………」


一通り部員を見渡すおばさん。


「計算出来そうなのは剣持くらいね」


戦力として換算されなかったのには多少ショックを受けたがそれよりも他の部員が反発した。


「なっ!?先生どういうことですか!」


「俺達はこう見えて県大会に…………」


「はぁ?野球やサッカーならまだしも。中学生の剣道で県大会って意味あると思ってんの?」


「どういう意味ですか?」


「中学生の剣道の人口比率なら全国行けるくらいじゃなきゃ半人前よ。この学校の剣道部団体戦で全国行ったことあるの?この直近10年以内に?」


「……………」


「女子は剣持1人だから団体戦は無理ね。あんた個人成績は?」


「去年はなんとか全国のベスト16です」


「まぁ、悪くないわ。今年最後なんだし。テッペン目指しなさい」


「はい!」


「問題は男子ね…………学校の部活って個人よりも団体の方が評価されがちなのよね」


「そうですか?」


「まぁ剣道は個人の部があるからそこまで影響されないけど、部活の有名度って結局学校名になるものよ」


(そういうものなのか?)


「県大会までもう半月も無いわね。あんた達男子はこれからみっちり鍛えるわ。団体戦は全国出場が最低限。個人は団体戦出場メンバーから2名だけ登録するわ」


「えっ!?団体戦はまだしも個人は全員出場…………」


「悪いわね。前任者の方針は知らないけど、あたしはやるからには結果も求めるわ。ハナからアテにならない人に御情けで出場機会なんて与える気は毛頭ないから。個人戦出たかったらこの残り半月で結果で見せて頂戴」


「……………」


「わかった?」


「ハイ」


「皆。残された時間は残り僅かだが、皆なら出来ると私は信じている。皆のこれまでの鍛錬の成果を見せてくれ」


「ハイ!!」


剣持先輩の発破で空気がもとに戻ったが、またひと嵐来るなと何故だか俺は予感していた。




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