第22話 新生活の危機
「行って来ます!」
剣道部に入部して俺は母さんよりも早く家を出ることが多くなった。
「気を付けてね」
「わかってる!」
駆け足で階段を下りる。一瞬エレベーターに乗るおばさんを見た気がしたが、気にせず学校へ向かう。
「おはよー真理」
「雪子おはよう」
「もう行くの?」
「ううん。丁度優太を見送ったところ」
「なに、朝練なわけ?」
「うん。生き生きした優太を見れるのは嬉しいんだけど・・・・・」
「どうしたのよ?」
「最近。優美ちゃんの話を全然しなくなったのよね」
「・・・・・」
「そりゃあ、優太も部活に入って一緒にいる時間が減ったのはあるんだろうけど心配なのよ」
「なにが?」
「あの2人自分の思い込みでお互いの様子を伺うところあるから、悪い方向にいかなければいいんだけど・・・・・」
「・・・・・まあそうなったらそうなったよ」
「そんな無責任な!」
「それこそあの2人がこれからも仲睦まじくずっといるなんてあんた達のエゴよ」
「それは!」
「どう選択しようがあの子達が自分で決めたこと。あたし達が介入していくのは野暮よ・・・・・まあ久しぶりの2人で乗り越える壁なのは間違いないわね」
「頼むわね・・・・・雪子」
「あくまで見守るしか出来ないわ。今のあたし達にはね」
「うん」
前回よりも30分早く到着したが、先客がいた。
「先輩。おはようございます」
「うん?神谷か早いな」
剣持先輩が座禅を組んでいた。
「先輩がそれいいます?」
「私は主将だからな、常にお前達の規範であらねばいかん」
「だとしてもまだ6時ですよ?朝練まで1時間あるのにもう胴着ですし」
「…………剣道はもはや私の一部だからな。気にするな。そういう貴様の方こそ早いな?」
「途中入部なんで、周りより遅れてる分こうして取り戻さないとって思うんです」
「…………そうか。貴様の姿勢を他の部員も見習ってほしいものだ」
「ありがとう御座います。先輩折角なんで今日も朝練まで稽古つけてください!」
「よかろう。徹底的にシゴイてやるからな」
「…………程々で頼みます」
こうして今日も剣持先輩に徹底的にシゴかれた。
「おはよう神谷!…………今日も随分シゴかれたんだな」
クラスメイトの1人が座席についた俺に声をかける。
「あぁ、キツかった」
「朝からよくやるよ。なんでそんなにやるんだ?」
「あんな想いをもうしたくないからな」
「ふ〜ん。まぁ程々にな」
「わかってる」
クラスメイトが離れると一瞬視線を感じたが、視線を感じた先にいた人達は誰も俺を見ていなかった。
「は〜い。皆おはよう〜、HR始めるわよ」
席について直ぐにおばさんが入ってくる。
「……………なんか汗臭いわね」
「先生〜!神谷のせいだと思います!!」
「なっ!?」
「ちょっと神谷。最低限のエチケットくらいしなさいよ〜」
「ッッ!ちゃんとやってますよ!!」
クラスが笑い声に包まれる。剣道を始めて以降こうしたやり取りが日常になっていった。
そんなある日
「えっ!立浪先生が!?」
「うむ。体調不良で暫く休職されるようだ」
顧問の先生が突如休職してしまった。
「…………どうなるんですか?」
「顧問の先生が見つからなければ、剣道部は休部だな。…………先生の休まれる期間によっては廃部もあり得る」
「そうですか…………」
「これは致し方ないことだ。誰か代わりの先生が直ぐに見つけられればいいのだが…………」
元々、柔道部に比べると大会での実績も無く知名度も高いとは言えずさらに剣道を理解している先生もいない。その為先生はなかなか見つからなかった。
他の部員は休部になることを知っても大した関心をみせない。
理由は入部してすぐにわかった。
部員の大半は凛凛しく美人な剣持先輩が目当てだ。露骨にアピールする者もいれば、ハッキリとアピールしないものの下心が見える者………·…違いはあれど共通していたのは剣持先輩がいるから剣道部に所属している。
それが剣道部に蔓延していた空気だ。
剣道部の存続の為に動く俺と剣持先輩。
俺は正直やろうと思えば竹刀を振るうことが出来る。ただ
剣道はもはや私の一部だからな
俺よりも剣道に向き合う剣持先輩の居場所が失くなるのは嫌だ。まだ短い付き合いだけれどそんな気持ちが芽生えていた。
成果も出ぬまま半月が過ぎる。
(……………只でさえ先輩が部にいる期間は限られてるのにこのままじゃ!?)
俺のなかで焦りが生まれていた時転機が訪れた。
朝練の時間。自主的にやっていた事もあり顧問の先生はいなくても剣道部として唯一活動出来る時間となっていた。
「先輩。おはよう…………」
いつもなら座禅をしている剣持先輩がいない。
(そんな!?なんで…………)
俺は慌てて剣持先輩を探そうと格技場を出ようとする。
ドン!
誰かとぶつかった。ぶつかった衝撃で転倒する。
「痛てー」
「神谷か。相変わらず早いな」
おデコを抑える剣持先輩が立っていた。
「すみません先輩。おはようございます」
「喜ぶがいい神谷!ようやく新しい顧問の先生が決まったぞ!!」
「本当ですか!?…………!!」
嫌な予感がした。一通りの先生に顧問の依頼をしたが唯一頼んで無い先生が1人いた。
「あの剣持先輩。もしかしてですけど…………」
「うん。なんだ?」
「その先生って……………」
「何よ神谷!あたしに声をかけないなんて水臭いわね!!」
「!?」
剣持先輩の後ろから、颯爽と現れたのはやはりおばさんだった。
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