第19話 足りないもの

中学生活にも慣れ始めたある日。俺はいつものように優美ちゃんと帰路についていた。


「それでさ、パパったらベロベロで帰って来て。しょうがないわねっていつもの如く感じでママが介抱してたんだけど、パパがママに戻しちゃって。もうママカンカンでさ~」


「おじさん変わらず酒癖悪そうだね」


「流石にパパも酔いが冷めたんだけど、今日の朝の空気と言ったらもう最悪で、帰るの少し憂鬱なんだよね~」


「優美ちゃんが悪いわけじゃないし、気にしなくてもいいんじゃない?」


「ママきっとまだ機嫌悪いよ~。優太くんお願い。少しでいいから家来て!」


「わかった」


「ありがとう!!」


何気ない会話で盛り上がっていた時だった。


「なあ、俺達と遊びにいかないか?」


優美ちゃんの肩を突然後ろから叩く見知らぬ男。


「だっ、誰ですか!?」


あまりの突然のことに身構える優美ちゃん。


「やだな~。俺達は君と同じ学校の先輩だよ?」


「こっ、こんにちは・・・・・・」


数人のガラの悪い男達に囲まれる。


「こんな優男とじゃなくてさ、俺達と遊ぼうぜ?」


「えっ遠慮します!」


「まあそう言わずにさ~」


優美ちゃんに触れそうな汚い右腕を俺は掴む。


「やめろよ」


「あっ、んだテメー」


即座に左拳が俺の頬を直撃する。


「優太くん!!」


「こいつ邪魔だな、おい先にコイツを叩きのめすぞ!!」


様子見していた他の奴らが俺に一斉に襲い掛かる。


「ぐっ、ブグ・・・・・」


「やめて!もうやめて!!優太くん!!!」


一瞬男が優美ちゃんに触れそうになるのが目に入る。


「大人しくしてれば、そこの優男は解放してあげるからな・・・・・ブフォ!」


「・・・・・彼女に・・・・・触れるな」


「テメーー---!!」


男の右拳が俺の腹に入る。


「がはっ・・・・・」


「優太くん!!!」


「ヒーロー気取るからそうなるんだよ。相手を弁えろ、相手をな」


再び近づこうとする男。他の奴らも俺が動けないと判断したのか優美ちゃんに近づく。・・・・・・情けないことに足に力が入らない。


「優美ちゃん・・・・・・」


「優太くん!!!」


その刹那。俺達に声をかけてきた男が棒状の何かにぶん殴られる。


「えっ」


「なんの騒ぎかと思えば、見苦しいな貴様ら。1人相手に複数で寄ってかかるとは」


「お前は・・・・・」


優美ちゃんと男達の間に竹刀を持って黒髪を後ろに結んだ女が立っていた。


「・・・・・こんな屑共と同い年というのが、残念でならん」


「やべー・・・・・逃げるぞ!!」


男達は一目散にその場を去る。


「あっ、あの、ありがとうございました。」


優美ちゃんはその女に深々とお辞儀をすると俺の方に駆け寄る。


「優太くん!しっかりして!!優太くん!!!」


「私が来るまでこの娘を守りきったのは立派だ少年。だがあの程度の奴らにボコボコにされているようでは、次は・・・・・無いぞ」


「優太くん!!!」


薄れゆく意識の中で女の言葉が重くのしかかった。

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