第18話 2人きり

「どうだった?試験の結果は?」


優美ちゃんと帰っていたある日。その日は初めての定期試験が終わり、結果が全てわかった日だった。


「480点」


「流石優太くん!凄〜い!!私なんてギリギリ400点台だよ〜」


「それだけ取れてれば充分でしょ」


「…………なんか嫌だなその感じ」


「えっ?」


「なんか同情されてる感じ」


「そんなつもりは!?」


「なんてね!……………それにしても凄いね雪子さん」


「……………」


「クラス平均93点でうちの学年断トツ。そんな中理科に限っていえば平均81点。他の科目は軒並み90点くらい平均点あるみたいだけど。雪子さん結構難しい問題作ってたのかな?」


「内容はそれほどでもなかったけど、問題文が難しくて苦戦したかな」


「確かに〜。最初全然問題文の意味わからなかったもん」


文章の意味が分かればなんの変哲も無い中1レベルの問題。ただおばさんはその表現を複雑化し敢えて問題を解きにくくしていた。


「文章の意味がわからなくて解けなかった人とかもきっといたんだよね?」


「そうだと思う」


「なんで雪子さんわざわざそんなことしたんだろう?」


「さぁ…………」


おばさんの気まぐれ…………それが真っ先に思い浮かぶ。ただギリギリ平均点以上あった俺にとっては正直どうでもよかった。


暫く歩いて俺は異変に気づいた。


「優美ちゃん…………家の方向違わくない?」


「うん?なんか雪子さんに言われたよ?優太くんの家に来なさいって」


「えっ?」


なんで人の家に勝手に招待してるのかとは思ったが、悪い気はしなかった。


「お邪魔しま〜す…………って流石にいないね」


「うん」


優美ちゃんは何度か家に来たことがある。まぁ迎えに来てくれたりしていたわけだが、2人きりはなんだかんだで初めてだった。


「なに飲む?」


「えっ、あっ、お構いなく」


何故かよそよそしくなる。…………沈黙が支配する。


一度始まった沈黙を覆すのはなかなか難しい。俺は席を立ち彷徨く。すると懐かしい物が目に入る。


♪〜〜〜


「!?」


♪♪〜♪〜〜〜♪


いつぶりだろうか……………苦し紛れとはいえ久しぶりに弾く鍵盤を俺の身体は覚えていた。


「優太くん…………ピアノ弾けるんだ」


優美ちゃんが演奏を終えた俺を拍手で労ってくれる。


「ちょっとだけだけどね」


「凄く上手だった」


「そうかな?結構久しぶりに弾いたんだけどね」


「そうなんだ…………」


あの日から家の環境が激変したり、母さんと度々喧嘩をしていてすっかり弾かなくなっていた思い出の品に助けられた。


「カッコよかった」


優美ちゃんは照れながら褒めてくれた。


「ッッ!?そっそうかな〜」


「うん」


ジッとこちらを見る優美ちゃん。その視線に俺も吸い込まれる。


「……………」


「……………」


「あ〜2人とも悪かったわね呼び出しておいたのに」


突然仕事を終えたおばさんが家に入ってくる。


「!?」


「おばさん!?」


「あら…………お邪魔だったかしら?」


「そっそんなことねーよ!」


「おっお疲れ様です。雪子さん」


「もう仕事終わったの?」


「あったり前じゃない。なんで他の先生方が遅くまで残って働いているのか不思議なくらいよ。効率悪すぎ〜」


椅子に腰掛けると俺達を目の前に座らせるおばさん。


「…………っで、なんで優美ちゃんを勝手に呼んだんだよ?」


「そりゃあね〜」


俺達をチラチラ見るおばさん。もしおばさんが帰って来なかったらあの後どうなっただろう…………そう考えると自然と顔が赤くなる。


「あんた達。今回の理科のテスト何点?」


「…………はい?」


「何点かって聞いてるのよ!」


「82点」


「80点………です」


「散々叩き込んだのに平均点ギリギリじゃない!?新垣に至っては下回ってるし!?」


「いや!なんであんな理解しにくい問題の書き方にしたんだよ!?」


「あれくらい読解しなさいよ!社会に出たらもっと面倒くさい表現で記述されたりするんだから」


「そんな無茶苦茶な〜」


「ってことで!今から補習をします」


「えっ!?」


「ちょっと待って!?なんで平均点取れてるのに補習なのさ!?」


「あんな問題95点以上なければあたしからしたら赤点よ!」


「だからおばさん基準で語るな!!」


「うっさいわね!ほら始めるわよ!!」


机に積まれた沢山の参考集。結局おばさんが勢いに乗って5教科全てを補習更に予習するハメになり、全てが終わったのは途中で帰って来た母さんが、心配して迎えに来た優美ちゃんのお母さんに謝って強制的に終了するまで続いた


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