第17話 この先の不安
中学生活が始まって1ヶ月。俺達のクラスはある問題に悩まされていた。
「〜〜であるからして……………」
黒板に今日の授業内容を書く先生。
しかし、近くの席の友達と話しをする者。こっそり早めの昼食を摂る者。堂々と寝る者。挙句の果てに教室以外の学校の何処かで授業が終わるのを待つ者……………。
とても新しい環境で初々しく授業を受けているとは思えない散々な状況が目の前に広がっていた。
問題はそこではない。
「森田!ここの答えを言ってみろ!!」
痺れを切らした先生が、クラスメイトの1人を指名する。
「X−1です」
「……………座っていいぞ」
授業がつまらない。それがこのクラスの共通認識となっている。
おばさんが1週間俺達に叩き込んだお陰で。ほぼ全ての生徒が今受けている授業の内容を理解している。
その為、この50分を無駄だと感じていている者が非常に多いのだ。
先生も自分の授業を聞いていない生徒がしっかりと解答出来ているからか強くは言えない。中には態度について指摘する人もいるが
「なら先生は私達が聞く価値があると思える授業をされてはどうでしょうか?」
真面目に聞いている小テストで常に満点をとるとうな生徒にこんな返しをされ、自信を打ち砕かれてしまう。
悔しくて定期テスト並の範囲の小テストを突然やりだす先生もいた。
しかし平均点90点…………返す言葉も無くなってしまった。
「貴女早速盛大にやってるみたいね」
とある晩。久しぶりに3人で食卓を囲んでいると母さんは溜息混じりに呟いた。
「うん?なにを?」
「近隣だからとはいえ、私の学校にまで飛んできてるわよ噂」
「あら、そう」
心配そうに話す母さんを余所に食を進めるおばさん。
「別に悪い事はしてないわよ。ねえ優太」
「・・・・・ある意味悪影響が出てると思うよ」
「どこが~?職員室で話題の持ち切りなのよ!私達のクラス出来過ぎて恐ろしいって」
「出来過ぎる?」
「これもあたしが他の連中に合わせず1週間みっちり授業したおかげよ!」
「優太・・・・・どういう事?」
俺は母さんに全てを話す。
「雪子!?人には人の成長スピードがあるのよ!貴女のペースで教育しないで!?」
「あら。クラスの大半は1年生で習う事をこの1ヶ月でほぼ習得したのよ。どこがいけないのよ?」
「詰め込み式の教育はその後の知識として根ずきにくいのよ。丁寧に教えないと!」
「安心しなさい。そんなことないよう徹底して叩き込んだから」
「あのね~貴女のペースで皆が皆学習出来るわけじゃないの!?」
「大丈夫よ、この前他の先生が小テストを中間テストの範囲で抜き打ちでやっても平均点90点だったらしいから」
「嘘・・・・・」
母さんの開いた口が塞がらない。母さんの視線が俺に事実確認を求めている。首を縦に振る。
「それより優太。なによあの点数」
「?」
「そのテスト89点だそうじゃない!」
「なんで知ってんだよ!?」
「あんた、あたしが見ないうちに勉強サボってたわね!あれくらいのテスト95点が及第点よ!!」
(定期試験の範囲で89点は悪くないと思うけど…………)
「おばさんの基準が高いだけだろ!?」
「ならせめてクラス平均は取りなさいよ」
「うっ…………でっでもよ!そのお陰でここ最近の授業はハチャメチャなんだぞ!!」
「どういうこと?」
母さんが眉をひそめる。
「授業全く聞いてさいヤツいるし、堂々と寝てるヤツもいるし…………他の先生の授業をまともに受けてるヤツがいないんだよ」
「そりゃあ〜理解してる事を教科書通りに教えてるだけじゃ受ける方は退屈よ」
授業風景になんの違和感を持たないおばさん。
「なによそれ!?ちょっと雪子!!」
「たとえ理解している内容だとしても教え方が上手ければそんな事は起きないのよ。だから教科担任が悪いわ!注意しないと」
「まずはクラスの生徒を注意しなさ〜い!」
先輩からの延々と続く説教を軽く受け流す後輩。その光景に俺は学校生活の不安を余所に懐かしさを感じていた。
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