第16話 波乱の幕開け

「う〜ん」


なんだか気怠い感じで目が覚める。


「!?」


何故か隣でおばさんが寝ていた。


「なっなっなっなっ…………」


「あら、優太おはよう」


「なんでおばさんいるんだよ!母さんと一緒に寝たはずだろ!?」


「あんたね、酔っ払った真理と一緒に寝れると思う?」


無理だ…………


頭をその言葉が過った。


「てかなんでまだ家にいるんだよ!?」


「あんなヘベレケな状態でまともに家に帰れる訳ないじゃない。それに泊まってけっていったのあんたよ?」


「…………それは、確かにそうだけど」


あれだけ呑んでなんでそこを覚えているのか、不思議でしょうがない。


「…………それより、ちゃんと服を着てくれ!」


ヘソが見え、少しはだけた姿で目のやり場に困る。


「あら、なに優太。もしかして朝から…………」


「んな訳無いだろ!ややこしいことになる前に着直してくれ」


「アハハハ〜。そういうとこは変わらないのね。安心したわ」


「〜〜〜」


とりあえず部屋を出る。母さんはまだ寝てるみたいだ。


軽く溜息をつき、母さんを起こしに行く。


「!?」


中途半端に着たパジャマ姿が視線に入る。


(やっぱり母さんには酒は呑ませられないな)


普段の母さんならあり得ない無防備な姿。起こしたいがこんな姿を恐らく見られたくないであろう母さんの心情を察すると、足が竦んだ。


「ほら真理!いつまで寝てんのよ!!」


「!?」


後ろからおばさんが何食わぬ顔で入ってくる。


「ふぇ〜」


「あんた遅刻するわよ」


「……………あぁぁ〜いけない!こんな時間!?…………優太起こさなきゃ」


「俺は起きてるよ母さん」


「あらそう!良かった……………優太!ちょっと部屋出てて!?」


「うっ、うん」


案の定。自分の状態に気がついた母さんは恥ずかしそうにドアを閉めた。



「それじゃあ、行ってきます〜」


急いでドアを開ける母さん。


「あっ、お母さんおはようございます!」


「!?」


「おはよう〜優美ちゃん〜」


既に優美ちゃんが来ていた。


(マズい!?いくらある程度事情を知ってる優美ちゃんだとしても、この状態は…………)


「あら?その声は新垣……………」


特に着替えもしてないおばさんはそのまま玄関に向かおうとする。背後から玄関に向かおうとするおばさんを足止めする。


「ムグ!ちょっと優太!!あんたなにすんのよ!!!」


「ちょっと黙って大人しくしててくれ!」


「いいじゃない。私達の仲を知らない訳じゃないんだし〜」


「よくない!大人しくしててくれ!!」


「……………しょうがないわね」


おばさんが引き下がる。


(あれ?おばさんってこんなに聞き分け良かったっけ?)


「おはよう優太くん!」


「おはよう。ゴメン優美ちゃん、まだ用意出来てないんだ。先に行っててくれない?後で追いつくから」


「そっか、わかった」


特に怪しむことも無く、優美ちゃんはその場を後にした。


「……………先に行くから、戸締りよろしくね。おばさん」


「ハイハーイ。行ってらっしゃ〜い」


(…………そういえば『おばさん』に反応しないのか?)


微妙な変化を気にしながらも、俺は優美ちゃんの後を追いかけた。



「そうなんだ。雪子さんと仲直り出来たんだ」


「うん」


「良かったね!本当に良かった・・・・・」


「優美ちゃん・・・・・・」


自分の事のように涙を流してくれる優美ちゃん。


「・・・・・ねえ優太くん」


「なに?」


「これからも誘ったら私の家に来てくれる?」


「えっ!?」


なにを言い出すのか・・・・・正直そう思ったが、よくよく考えれば優美ちゃんの家にお世話になっていた根本的理由は解決に向かうだろう。当たり前のように答えるはずだったその問にその思考が過った瞬間。俺は答えに詰まってしまった。


「どうしたの突然?」


「~~~!!ほっほら!?家のパパもママも優太くん来てくれると凄く喜ぶしさ、なんか寂しくなっちゃうな~って」


無難な逃げの答えを優美ちゃんはどう受け止めたのだろう・・・・・自分をぶん殴りたくなる。


少し気まずい空間をぶち壊したのはやはりあの人だった。


キーーー


愛車で思いっ切りドリフトを決めると優雅に何食わぬ顔で車から降りる。


「おっはよ〜」


一気に注目の的になる。


毎朝門前に立つ先生に挨拶するだけだった生徒達はその光景に興奮し歓喜する。


「だぁーー高野先生!」


鎮静化を図ろうと門前に立つ先生はおばさんに注意をするが、聞き手の顔はあっけからんとしていた。


「はーい。皆席につきなさい」


教壇に立つおばさん。クラスメイトは登校時の出来事に興味しんしんだった。


「なによ、あれくらいで騒いで。社会に出れば私みたいなのはゴマンといるわよ?」


当たり前のように言い放つおばさんを前にクラスメイト達は、何かを崇めているかのような目で見ている。


無理もない。殆どの生徒の家庭で1千万円はするであろう車を乗り回す親はいない。ましてや親の次に見かけることの多い教師でそのような人は存在しなかった。


一緒に居たことのある俺とおばさんを知る優美ちゃん以外にとって、おばさんは未知の存在だ。


(おばさんみたいに成功する人もそういないと思うけどな…………)


「先生!どうやったら先生みたいになれますか?」


何気なくクラスメイトの1人が尋ねると、おばさんの目が輝いた。


(あの目はマズい…………)


「あら知りたい?このクラスは偉いわね〜。ちゃんとあたしが担任する価値がわかってるみたい」


「?」


「正直。本格的に授業が始まるのは来週って聞いてるけど、1周間も学級活動って時間の無駄だと思ってたのよね~」


「えっ?」


クラスがザワつく。こういう時の生徒の悪いカンはよく当たるものだ。


「決めたわ!このクラスは明日から授業を始めるわよ!!」


「え〜〜〜〜〜!?」


こうして俺のクラスは他のクラスより1週間フライングして授業が始まった。

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