season2

第13話 黒船襲来

「優太~遅刻するわよ!!」


「わかってるよ!母さん!!」


いつもと変わらぬ日常。母さんが俺より先に職場に向かう。


「ごめんね優太。晴れの日なのに」


「しょうがないよ。仕事なんだし」


「どうして優太の晴れの年に限って、そういう学年の担任なのかしら?」


「・・・・・ホラホラ、ぼやいてると遅刻するよ!」


「あっ!いけない行ってきます!!」


「行ってらっしゃい」


母さんがドアを開けると


「あら、優美ちゃん。おめでとう」


「おばさん。ありがとうございます。優太くんいますか?」


「えぇ。優太~優美ちゃんが来てるわよ~」


「!?」


急いで支度をする。


「じゃあ、優太のことよろしくね」


「お気をつけて」



「待たせたね」


「ううん。全然」


「方向的に俺が迎えに行ったのに」


「なんだか習慣になっちゃってるみたい」


「そっか、・・・・行こう」


「うん」


2人で新しい環境への1歩を踏み出す。


「優太くん。・・・・・どうかな?」


「どうって?」


「・・・・・なっなんでもない」


優美ちゃんが少し不機嫌になった気がした。


「一緒のクラスだといいね」


「!!うん、そうだね!!!」


優美ちゃんの心情がよくわからない。


「優美ちゃんのお母さんは来るの?」


「うん。・・・・・優太くんは残念だね」


「まあ、前からよくあることだし。それが母さんの仕事だししょうがないよ」


「優太くん・・・・・・あの人は来ないの?」


「・・・・・・」


「あっ、この話はダメだったね」


「あっ、ゴメン。・・・・・ダメだな~また顔に出てたのか~」


あの日以来。あの人は一度も顔をみせていない。


あの日以降家はバタバタした。お母さんはあの人が突然いなくなった原因が自分にあるんじゃないかと責めて、その年はショックのあまり最終的に休職した。俺も今でこそ無いが、独りが辛くなり母さんに当たることが度々あった。しなかった喧嘩も沢山してようやくこの1,2年落ち着き始めた。


でも・・・・・何か物足りない感じは俺はもちろん。母さんも恐らく感じていた。けれどお互いそれを口には決して出さなかった。


正直今のあの人に対する感情がわからない。それくらい複数の感情をあの人に抱いていた。


「あ~!クラス同じだよ!!優太くん!!!」


「ホントだ!今年もよろしくね優美ちゃん。」


「うん」


嬉しそうな優美ちゃんを横目に親と一緒に門をくぐる同級生を思わずジッと見てしまった。


「優美~。優太くん~」


門を眺めていると、優美ちゃんのお母さんが手を振っていた。


「ママ~。優太くんと一緒のクラスだった」


「良かったわね。優太くんうちの子よろしくね。」


「いえいえおばさん。お世話になってるのは僕の方ですよ」


「お母様は・・・・・」


「今年も当たっちゃいました」


「そう・・・・・」


「そんな顔しないでくださいよ。多くの人の為に私情を挟まず職務に満身する母は僕の誇りですから」


「優太くん・・・・・」


「優美ちゃん。教室行こう!」


「うん!じゃあ後でねママ~」


「あとでね。・・・・・・」


僕は逃げるように教室を求めた。



「なげーよ、校長の話」


「まだ卒業式の方がマシだったな~」


「あれはあれで辛かったけどね~」


俺の周囲から雑音が聞こえる。雑音ではあるが中身には共感していた。


(ずっと校長の話目を見て聞いてる・・・・・流石は優美ちゃん。真面目だな~)


長いお話しから開放された式場の重い空気が和らぐ、副校長が粛々と進行する。


「次に今年度から着任される先生の・・・・・・」


式も終盤に差し掛かり、周りの集中力が途切れてくる。


「1人目は・・・・・」


(あ~ようやく終わる・・・・・いくらなんでも話すぎだろ校長どんだけ時間使ってんだよ!)


「2人目は・・・・・」


(部活どうしようかな・・・・・家に帰っても1人だし。程よく時間潰せそうな部活ないかな・・・・・)


「3人目ですが、今年度から教師になられる。新任の先生になります」


(優美ちゃんは部活入るんだろうか・・・・・入らないなら別に、一緒に帰って、母さんが帰るまでお邪魔しててもいいよな~)


「え~。1年生の理科を担当されます。高野雪子先生です」


(高野雪子・・・・・あの人もそんな名前だったよな・・・・・)


周りが騒がしい。


(あの人は美容会社の社長だもんな、とんだ同姓同名がいたもんだ)


「えっ、チョー美人なんだけど」


「あれあの人どこかで見たことあるかも・・・・・」


「始めまして。今年度より1年生の理科を担当させていただきます」


「!?」


その声を身体が覚えていない訳が無かった。8年間毎日のように聞いていた、なにかやらかすんじゃないかとヒヤヒヤする魅惑の美声。そしてなにより散々迷惑を被った記憶・・・・・それらが一瞬で俺に核心を持たせた。


「高野雪子です。皆よろしく~」


黒船来航のような衝撃が俺の脳内に走った。

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