第12話 見知らぬ墓標で

春の陽気に包まれようとしたある日。僕達はおばさんに連れられて車の中にいた。どことなく空気が重い


「どこ行くのおばさん?」


「あんたは久しぶりかもね、真理はそうでもないとは思うけど」


どことなくおばさんの口調がいつもより厳しい。


「この景色って・・・・・・」


お母さんはどこに行くのかわかったみたいだった。




「悪いわね。折角の休みに」


目的地に着くと、そこには名前が書かれた石が沢山並んでいた。


「うんうん。丁度行こうと思ってたし」


「よく言うわよ。毎月1人で来てる癖に」


「あっ、お花買ってないわ!」


「用意はしてるわ」


「雪子?」


お母さんもいつもと様子の違うおばさんに不安な表情を見せていた。


(そっか・・・・・おばさんがわざわざ黒い服を指定したのは)


まばらではあったが、名前の書かれた石の前で手を合わせる人がいる


「雪子も・・・・・まだ来てくれてるの?」


「当然でしょ?あんた達と長い付き合いなんだし。まぁあんた程頻繁には来てないけどね」


「そっか、ありがと」


とある名前の書かれた石の前に立つ。そこには僕と同じ苗字の名前が書いてあった。


「優太はいつぶり?」


「そうね・・・・・毎年1回は一緒に来てるわね」


「そう・・・・・優太。このお墓は誰のお墓か知ってる?」


「うっ、うん」


それはこの目で見たことも、声も聞いたこともない僕のお父さんの眠る場所。それくらいの認識は、僕にもあった。


「悪い悪い、遅くなった!」


重苦しい空気を変えてくれる人が現れる。


「健司お兄さん!」


「おー久しぶりだな優太!!元気だったか?」


「うん!」


「遅いわよ!ポンコツ!!」


「待ち合わせには遅れてないぞ高飛車女!」


「どうしたの健司くん!?」


「どうしたも、こうしたも、高野から突然電話がかかったきたと思ったらここに来い!だから驚いたぜ全く」


「雪子!貴女なに考えてるのよ?」


「・・・・・・」


「雪子!!」


「まあまあ、真理ちゃん落ち着いて。2人が自分の墓標の前で喧嘩なんて、あいつが悲しむぜ」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・ここでお別れよ、真理」


「えっ」


「明日以降私はあんた達の家に行かないわ」


「ちょっと、どうしたのよ?突然??」


お母さんは突然のおばさんの発言に混乱している。


「高野、なに言い出すんだよ?こんなところで」


流石に健司お兄さんも予想外だったようで困惑していた。


「これまでどおりあのマンションに住んでもらって構わないわ、けど私はもうお邪魔することはしないわ」


「別にいつでも来てくれていいわよ!どうしたのよ突然!!」


「・・・・・・これから優太も良い年になるし、そろそろ付き合い方を考えないとって思ってね」


3人のやりとりに僕はついていけなかった。


「それってどういう・・・・・」


「いつまでも、甘えん坊じゃ・・・・・・ダメなのよ」


「おばさん?」


おばさんは僕の視線に目を合わせると頭を撫でる。・・・・・・静かに風が吹く。


「良い男になるのよ?優太」


そういうとおばさんは立ち去り1人で自分の車を走らせた。


「どういうことよ雪子!説明してよ!!雪子!!!」


お母さんの悲痛な叫びが静寂な地に響く。それっきりおばさんが顔を見せることは無かった。

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