第11話 年明け新たに

「明けましておめでとう優太!」


年が明けた神谷家には、お母さんが腕によりをかけたおせち料理が並んでいた。


「あけましておめでとう・・・・・」


「もう・・・・・夜更かしはダメだってあれだけ注意したのに」


次の年を寝てこすなんて勿体ない・・・・・そんな想いがお母さんの忠告を妨げた。


「・・・・・お母さん。2人前にしては量多くない?」


「そんなこと無いわよ。きっとそのうち・・・・・」


ガチャガチャ・・・・バーン!


勢いよく扉が開く音が室内に響く。


「ハッピーニューイヤー!!」


「ちょっと!ドアが壊れるでしょ!?」


「なによ~ノリ悪いわね~。それにここはあたしが管理してるマンションよ。問題無いわよ」


「お金払って修理するのは私なんですけど!」


「それはそうね。・・・・・あけおめ優太」


「おめでとう。おば・・・・・痛い!?」


おばさんの拳がこめかみを襲う。


「誰がおばさんだ!」


「ちょっと!雪子!!なにしてるのよ!!!」


「あんたこそ、こんなに美人なお姉さんをおばさん呼ばわりさせるなんて、どういう教育してるのよ!」


「ごめんなさい。お姉さん!」


「・・・・・よし。」


罰から解かれる。年が変わってもそこは変わらないようだ。


「もう!新年早々やめてよね!」


「あら~腕振るったわね真理!優太、食べましょ!!」


「人の話を聞け~~~!!」


おばさんのマイペースぶりもどうやら変わる気配は無さそうだ。



「さあ、行きましょう!」


お節を食べ終わり、出かける支度をするおばさん。


「どこ行くのよ?」


「どこって、初詣に決まってるじゃない?ほらただでさえ混むんだから、さっさと行くわよ~」


「ちょっと待ってよ~」


おばさんの勢いのまま、僕達は外に出た。



「凄い人だね・・・・・」


おばさんの言う通り、人の波で溢れかえる近所の神社。


「もう!真理がもたもたするから」


「どこも一緒よ!!」


「あれ、優太くん?」


声をかけられた方を振り向くと、着物を着た新垣さんとお母さんがいた。


「明けましておめでとう!優太くん」


「おめでとう。新垣さん」


「高野さん。おめでとうございます。」


「・・・・・どうも」


「あれ雪子知り合いなの?」


「香水試した時にその場に居合わせちゃった人だよ、お母さん」


「あっ!そうなんですね!!優太の母の神谷真理と申します。先日は御宅のパーティーに優太も参加させていただいたようで、ありがとうございました。」


「あっ、優太くんのお母様でしたか。その節は大変ご迷惑をおかけしました」


「いえいえ、私達こそご迷惑をおかけしました。ほら雪子も・・・・・・」


「おばさんはその時に謝ってるよお母さん」


「えっ!そうなの!?へぇ~~~」


したり顔で見るお母さんから視線を外すおばさん。


「これからも優太をよろしくお願いします」


「こちらこそ、優美ったら優太くんのことを凄く嬉しそうに話すんです。これからも優美と仲良くしてあげてね優太くん」


「!?」


「ちょっとママ~~~」


新垣さんが凄く恥ずかしそうに新垣さんのお母さんに詰め寄る。その姿にドキッとした自分がいた。


新垣さん達と一緒に参拝することになり、出番が来る。


カランカランカラン・・・・・


僕と新垣さんで鈴を鳴らし、手を合わせる。


なんなく視線を皆に向けると嬉しそうに目を瞑る新垣さん、優しい表情で祈る新垣さんのお母さん。幸せそうな表情でいろいろ願い事をしていそうなおかあさん・・・・・それぞれが想いを祈りに乗せていた。


ただ・・・・・そんな中でおばさんは、手を合わせず、視線の先をジッと真っすぐ見据えていた。


「おば・・・・・」


「しっかりお祈りしときなさい」


「うっ、うん」


それは、あの時のおばさんなりの決意だったのかもしれない。珍しく真剣な面持ちのおばさんに僕は不安を抱いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る