第9話 パーティー
「えっ、僕が?」
世の中が迫る聖者の生誕祭に賑わい始めた頃、僕はクラスメイトにパーティーへ招待された。
「どうかな神谷くん?」
「ありがとう。参加しよっかな」
「わかった。じゃあ今週末優美の家にね!」
「えっ!?」
「どうしたの?」
「あっ………いや、新垣さん家の場所知らないんだ」
「そっかじゃあ…………大杉公園に16時に来て!」
「……………わかった」
新垣さんとは、ショッピングモールの出来事以降気まずい空気が流れる。
一瞬新垣さんと目が合うが、すぐに視線が外れた。
(行かないって言った方がよかったかな…………)
「へぇ~クリスマスパーティーみたいな催しするのかしらね?」
家に帰って事前にお母さんにことわりを入れておいた。
「楽しそうね。楽しんでらっしゃい」
「…………うん」
「どうしたの?」
あの時の出来事をお母さんに話した。
「そう。あの一瞬にそんな事が…·……」
「誘われた事が嬉しくて参加するって言っちゃったんだけど、…………断った方がよかったかな?」
「そうね…………よかったんじゃない?」
「よかった?」
「あれは事故みたいなものだし、それに聞いてる限りその子は優太に負い目を感じてるんじゃないかしら?」
「なんで?」
「まさか自分の母親が初対面の同級生にいきなり抱きつくとは思わないわ。そんな突然の出来事にその子もパニックになったと思うし、恥ずかし気持ちやなにより優太に迷惑かけてしまったと思ってるんじゃないかな?」
「…………なるほど」
「それにそんなこと学校じゃ謝れないだろうし、これを機に優太が気にしてないことをしっかり伝えれば、その子の負い目も無くなるんじゃないかな?」
「そっか…………わかった!」
「…………それにしても雪子は!とうとう実験で私達以外に被害を出したわね!!もっと厳しく注意しとかなくちゃ」
「ハハハハ…………」
お母さんのお陰で僕的にも気持ちの整理がつき、パーティーへの参加意欲が湧いていた。
「…………新垣さん?」
「神谷くん!?」
当日。待ち合わせ場所で待っていたのは、新垣さんだった。
「最後の1人って神谷くんだったんだ!」
「最後の1人?」
「うん。由香(ゆか)から1人私の家がわからない人がいるから迎えに行ってとは言われてたんだけど」
「どうやら、僕みたいだね…………」
「そうなんだね…………じっ、じゃあついてきて神谷くん」
「うっ、うん」
道中。元々接点が無かった上にあの件以来更に気まずくなっていた為だろう。空気が重い…………
(優太が気にしてないことをしっかり伝えれば、その子の負い目も無くなるんじゃないかな?)
「あのさ、新垣さん」
突然声をかけてしまったからだろう。新垣さんの身体がビクッとなる。
「なっ、なに?」
「その…………気にしないで」
「えっ?」
「あの時さ、お母さんの知り合いの人の会社が作った香水をしてたんだ」
「香水?」
「うん。なんでも異性を魅了する成分を含んだ香水だったみたいで」
「……………」
「新垣さんのお母さん以外にも大勢の人が香水の匂いにつられて僕に近寄って来てたんだ。僕のお母さんもつけてたんだけど、知らない男の人にいっぱい言い寄られてた」
「……………」
「だから、あれは新垣さんお母さんが突然おかしくなったんじゃなくて、その知り合いのせいなんだ!だから…………あっ、新垣さん!?」
新垣さんの目元には、今にも溢れ出しそうな涙が溜まっていた。
「良かった…………お母さんがおかしくなったんじゃないんだ……………」
「うん。凄く迷惑かけちゃったよね。ごめんね」
「……………ヨガっだよ〜。ウワワーーーン」
緊張の糸が途切れたように新垣さんの目元のダムが決壊する。
「お母さん…………あれ以来凄く自分を責めてて、そんなお母さんを私もお母さんがおかしくなったと思ってたから避けちゃって。神谷くんに謝らなきゃと思ってたのに、学校であんな事言えなくて〜〜〜」
「そうだよね。僕がすぐに大丈夫だって言えばよかったのに…………ごめんね新垣さん」
「そんな事無いよ〜神谷くん。私達もごめんなさい〜〜」
止まらない新垣さんを落ち着かせてから、新垣さんの家にお邪魔した。
「優太くん。あの時は本当にごめんなさい」
楽しいパーティーが終わった帰り際、新垣さんと新垣さんのお母さんに呼び止められ、改めて謝罪を受けた。
「そんな!僕の方こそごめんなさい。ちゃんと否定すればよかったのに、新垣さんに全然話せなくて、2人に凄く辛い思いをさせちゃって」
「そんな優太くん。貴方はなにも悪くないわ」
「そうだよ優太くん!優太くんは何も悪くないよ!!」
「そうよ。なんであんたが謝ってるのよ、優太」
振り向くと何故かおばさんがいた。
「おっ、おばさん!?」
「……………」
「あっ、ごめ…………」
おばさんは僕を素通りすると新垣さん達の前に立った。
(おばさん、なにをする気だ?)
「貴女はあの時の」
新垣さんは彼女のお母さんの後ろに隠れる。
「私。こういう者です」
おばさんは小さなな紙を取り出すと新垣さんのお母さんにそれを渡した。
「もしかして、貴女が優太くんの言っていた」
「間違い無いでしょう。それは私です」
「……………!?」
おばさんは綺麗に頭を下げた。
「この度は新垣様のご家族に多大なるご迷惑をお掛けし、大変申し訳御座いませんでした」
「あっあの………そんな高野さん…………」
「あれは試作途中の代物であり。本来公共の場所で使うのはまだ控えた方がいい品物でした。それを私の独断で公共の場でテストしたことが、事の発端で御座います」
「おばさん……………」
「こんな事を本来加害者である私から言うべきでは御座いませんが、新垣様のお望み通りの賠償金をお支払い致します。この度は誠に申し訳御座いませんでした」
「顔をお上げください。高野さん」
ゆっくりと頭を上げるおばさん。
「もしかして、今話題沸騰中のあの香水は…………」
「はい。恐れながら、あの時の試験で得た結果を元に改良し販売した物です」
「そうですか…………ならお支払いは望みません」
「新垣様……………」
「あの件のお陰で、多くの方が喜ぶ形で商品が世に出回ったのであれば、それは結果的に私達がお役にたったと言うことです」
「ですが、新垣様。それとこれは…………」
「私。高野さんの会社の製品。よく好んで使わせてもらってるんです」
「……………」
「他社の美容品と比較しても、とてもユーザー目線で作られているのを実感しています」
「新垣様…………」
「そんな御社の新しい流行商品の開発に思いがけなく協力していた。………·私はとても嬉しいです。高野さんの誠意も充分伝わっていますし、大丈夫です。これからも素晴らしい製品を作り続けてください。期待しています」
「ありがとう…………御座います」
扉が閉まり佇むおばさん。
「……………!優太」
おばさんの手を繋ぎたかった。
「帰ろう?おばさん」
「……………」
おばさんにしては珍しく静かな帰り道。
「おばさん…………カッコよかったよ」
「……………当然じゃない」
今まで見たことの無かったおばさんの一面。その姿に僕は改めておばさんの凄さを見た気がした。
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