第8話 知り合い

それは楽しかった夏休みが終わり、お母さんと過ごす時間がまた減ってしまったことに寂しさを感じていた神無月のある日のこと。


おばさんが得意だと自負するゲームで賭け勝負して勝った僕は、お母さんが休日出勤で仕事に行った日に動物園に連れて行ってもらうことになった。


「ハァ〜。なんでこのあたしが動物園なんかに…………」


「勝った方が負けた方の言うこと聞くって言い出したのはおばさんでしょ?約束はちゃんと守らないと」


「だとしても、なんで動物園なのよ」


「ライオンの赤ちゃんと触れ合えるなんてそんな貴重な体験そうそう出来ないでしょ!?」


「そんなのアフリカに行けば…………」


「どうやって行くのさ!?」


「そんなのあんたが1周間くらい学校休めば連れてってあげるわよ」


「お母さん認めないよ流石に!」


「まぁ、そうでしょうね」


「ねぇー、だから貴重な体験なんだよきっと!!」


「動物園にそんなに目を輝かせないでよね〜」


「あれ?もしかして高野じゃないか?」


動物園に向かう道中、見知らぬ男に声をかけられた。


「…………誰?おっ、お姉さん?」


「さぁ?」


「おいおい、冗談キツいぜ高野!俺だよ俺!!平井!!!」


「夢破れて三流の不動産会社に勤める奴なんて、あたしの交友リストには入ってないんだけど」


「…………交友リストに入ってない割りに随分お詳しいですね高飛車な御嬢さん?」


「……………」


「……………」


「あっ…………あの〜、えっ!?」


ガッシリと肩を組み合う2人。


「まだくたばって無かったのね!平井!!」


「相変わらず好調だな高野の会社!」


「まぁ、あたしが社長だもの当然よ」


「言い返せないのがまた腹立たしいな~チクショー。…………ってか高野。お前いつの間に結婚したんだ?」


「この子は、真理の子よ」


「真理ちゃんの…………そっか…………始めまして、君のお母さんとこのお姉さんと学生の頃から友人の平井健司(ひらいけんじ)だ。よろしくね」


「神谷………優太です」


「優太くんか…………いい名前だ。お母さん元気?」


ついおばさんの後ろに隠れてしまった。


「なに照れてんのよ優太。こんなポンコツ、生意気に当たるくらいが丁度良いわよ」


「親友の子どもに変な教育してんじゃねーよ!………ってか何してんだ高野達は?」


「優太がどうしても動物園に行きたいって言うから、連れて行く途中よ」


「動物園?」


「なんでも、ライオンの赤ちゃんと触れ合えるからってさー。あたしがアフリカのサバンナに連れてあげるって言ってるのにさ〜駄々こねるのよ」


(わざわざアフリカ行かなくても、サファリパークで良くないか?)


「ふーん。…………俺も行っていいか?」


「ハァーーー?なんで?」


露骨に不機嫌になるおばさん。


「暇でふらついてたからさ!いいじゃん!なっ!!!なっ!!!!!」


「ウザ〜〜」


結局。平井さんも交えて動物園に向かうことになった。



平井さんはとても面白くて、なんかお母さんやおばさんとは同い年に思えないくらいパワフルで陽気な人だ。初めて会う僕を、まるで自分の弟かのように相手をしてくれた。


僕が楽しみにしていたライオンの触れ合いコーナーは、ライオン以外にも数多くの動物の赤ちゃんと触れ合えるコーナーだった。楽しむ僕を2人は柵越しに見守ってくれている。


「…………あの日以来か、俺達が会うの」


「……………」


「まだ真理ちゃんの腕の中に収まるくらいだった子がこんなに大きくなって……………聞いてる限りだと、真理ちゃんも高野も元気そうで良かったよ」


「……………」


「まだ…………続けてるのか?真理ちゃんの支援」


「…………だからこうして優太の面倒を見てるわ」


「そっか…………そうだよな。…………なぁ高野。お前…………辛くないのか?」


「……………」


「いくら親友の真理ちゃんの子だって言ったってあの子は……………」


「あたしにとって一番大切なモノは今も昔も真理よ。そして真理にとって一番大切な存在である優太。…………それはこれからも変わることは無いわ。…………絶対に」


「高野…………」


「健司お兄さーん!おばさんー」


「優太〜。なんでコイツがお兄さんで、あたしはおばさんなのかしら〜?」


「あっ………」


「ブァハハハ!!高野がおばさんか〜!?子どもの前じゃ高飛車才女のお嬢様も型無しだな!!」


「あんた達…………死刑!!!」


「ごっごめんなさい〜」


「ウォーー高野!!動物園で暴れるな〜」


僕達はこの後しっかりとお仕置きを受けた。



「余程楽しかったんだな、優太」


「あたしが面倒見てるんだもの。当然よ」


「今日面倒見てたのは殆ど俺だけどな」


「雪子!優太の面倒見てくれてありがと〜!!」


お母さんの声が聞こえて目が覚める。


「おっ、起きたか優太」


「あれ?健司お兄さん………」


「母ちゃん待ってるぞ」


健司お兄さんの背中から降ろしてもらい、お母さんに駆け寄る。


「おかえり優太」


「ただいまお母さん!」


「…………ってもしかして健司くん!?」


「よっ、真理ちゃん!久しぶり!!元気そうだね!!!」


「うん…………お陰様で」


「2人に動物園連れてってもらったよ!」


「そっか。良かったね優太。雪子いつもありがとね。健司くんもありがとう」


「な〜に暇してたところにたまたま高野を見かけたからお邪魔しただけさ。むしろ暇潰しさせてくれてありがとうって言いたいくらいさ」


「相変わらず耳元でギャーギャー騒ぐからうるさいったらありゃしなかったわ」


「うるせー。常にエネルギッシュなのが俺様ってもんよ!」


「ウザー」


「じゃあそろそろおいとまするわ!2人とも困った事あれば遠慮せずに俺に相談してくれよー」


「ありがとう健司くん」


「あたしがあんたの世話になるなんて天地がひっくり返っても無いわよ」


「うるせー!…………またな優太!」


「ありがとう健司お兄さん!またね!!」


健司お兄さんとの出会い。それは僕の中の歯車を1つ動かす事になるとても大切な出会いとなった。


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