第7話 夏の定番

たくさんの思い出が出来た夏休みも今日で最後。


そう思ったら自然といつもより早く目が覚めた。


「おはよう優太」


それでもお母さんは僕より早く起きて朝食を作ってくれている。


「!!どうしたの優太?」


「……………」


お母さんの足にしがみつき暫く離れたくない気分だった。


「朝ご飯。作れないよ?」


ただ邪魔でしかしていないのは、自分でもわかっている。お母さんはそれでも優しく声をかけてくれた。


「おはよう〜真理!!…………ってあらあら、朝から元気なことで」


おばさんも普段より早く家に入ってきた。思わずお母さんから離れる。


「雪子。茶化さないで」


「あら、ごめんなさい。さぁ今日で夢のような時間が終わって現実に連れ戻される訳だけど、あんた達予定は?」


「そうね…………特には」


「優太。あんたは?」


「…………ないよ」


「じゃあ、決定♪」


強引におばさんの車に乗せられる。


「どこ行くのよ!?」


「折角の夏休みなのに私達まだやり忘れてることがあんのよ」


やり忘れたことが僕達は全くわからなかった。


「着いたわ!」


そこは僕達の住む町から少し離れた別の町


河川敷沿いにたくさんの骨組みが組み立てられていた。


「これは?」


「夏といえばやっぱり祭りでしょ!」


おばさんの目は生き生きとしていた。


「そういえば、もう何年も行って無かったわね」


「浴衣着て、屋台回って、最後は花火よ!」


「私達、浴衣なんて持ってないわよ?」


「あのね真理。私を誰だと思ってる訳?」


おばさんがトランクを開けるとそこには浴衣が置いてあった。


「わざわざ用意したの?」


「有り難く思いなさい!」


「おばさん!?」


突然おばさんは服を脱ぎ始めようとする。


「真理!?脱衣出来る場所探しましょ!?」


「えぇ〜。いいわよ面倒くさいし、別に減るものじゃないんだから」


「よくなーい!!!」


お母さんの必死の静止でなんとか服を着替える場所を探し始めた。



「ワァー〜〜」


浴衣に着替えたお母さんとおばさんは、普段とはまた違う気品な雰囲気を醸し出していた。


「用意された浴衣がピッタリってのも、落ち着かないわね」


「あんたのスリーサイズくらい、付き合い長いんだからわかるわよ」


「〜〜〜」


「どうよ優太。普段と一味違うあたし達は」


「……………」


「優太?」


「どうやらイチコロのようね」


「変なこと言わないで!ねぇ、優太」


「でも、2人とも凄く綺麗だよ…………」


「あらそう?ありがと優太」


目線を合わせて感謝の言葉を口にするお母さんにドキッとした。



辺りも暗くなり昼間は骨組みだけだった河川敷は屋台で埋め尽くされていた。


「ワァー〜〜〜凄い数の人にお店」


「祭りに来たって感じがするわね〜」


「そうね。懐かしいわ」


「さぁ優太!どっちがたくさん屋台の食べ物食べれるか勝負よ!!」


「ちょっと!小学生相手になにしようとしてるのよ!?」


「負けないよ!!」


「優太!?」


「さぁ行くわよ優太!」


「ちょっと〜2人とも待って〜」


お互いの食い意地をかけたグルメ巡りが始まった。


イカ串、焼きそば、綿あめ、リンゴ飴………おばさんの食べたいものを食べ尽くし、お腹の小休憩がてら射的や金魚掬いで遊ぶ。お母さんと一緒に盆踊りを踊りそして…………


「凄〜〜〜い」


夜空に上がる花を特等席で眺める。


「綺麗ね…………」


「うん!凄く綺麗!!」


「頑張んなさいよ。真理」


「えっ?」


なにかおばさんが呟いた気がしたが、僕には聞こえなかった。


「…………」


「ありがとう。雪子…………」


最後の花が打ち上がるのを見届けて、僕達は普段の日常に戻っていった。

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