第4話 お出掛け
「あ〜この時期がやって来てしまったわ〜」
僕達にとって待ちに待った長い休み。海やプール。祭りや花火…………とやりたいことはたくさんある。
なにより…………お母さんと一緒に過ごせる時間が増える。それがなにより嬉しい。
でもお母さんは長い休みを何故か嫌がる。
「どうして?この時期お母さん家で休めること多いじゃん?」
「…………問題は別よ」
「問題?」
ガチャガチャ…………バーン!!
勢いよく開く玄関の扉
「真理!優太!!行くわよ〜」
生き生きとしたおばさんの声が聞こえてくる。
「…………始まったわ」
「あっ……………」
そういえば去年もそうだ。おばさんはほぼ毎日家に遊びに来た。僕は色々な場所に連れて行ってもらえて喜んだ記憶があるが、お母さんは仕事から帰って来る時より疲れた表情で家に戻ることが多かった。
「ちょっと!人の家に勝手に入って来ないでよ!!」
「あら?息子の面倒をほぼ毎日見てくれるマンションのオーナーにそんなこと言っちゃう?」
「うっ…………ごめんなさい。」
僕達の住むマンションの管理人とはいえ何食わぬ顔で家に入るおばさんもどうかとは思うが、おばさんのお陰で僕とお母さんは、世間の片親家庭の中では豊かな暮らしが出来ているんだと思う。
だからお母さんは余程の出来事で無いとおばさんにはグーの音も出ない。
「それで…………今日はどこ行くのよ?」
「まだ夏は始まったばかりよ!今日はうちの試作品を試してもらうわ!!」
「!?」
お母さんの顔が更に曇る。
「試作品?」
(雪子おばさんが美容品の社長ってことは知ってるわよね?)
(うん)
(お母さんね。よく試作品の被験者にされられるのよ〜)
「エェッ〜〜〜〜〜〜!!」
「なによ優太、突然大声出して?」
おばさんが不思議がる隙に、お母さんとおばさんの間に直ぐ様入り腕を精一杯広げる。
「おばさん!お母さんを実験台にしないで!!」
「……………」
「あっ、ごめんなさいお姉さ………」
「いゃあね〜優太。誤解よ誤解。試作品といっても8割方完成してる未発表の新作を真理に試してもらってるだけよ」
「ホントに?」
「当たり前じゃない〜。未完成品を人間で試すことはしないわよ。例えば………去年世間に注目された美顔パック覚えてる?」
「10歳若返る美顔パックってやつ?」
「そうそう!あれも真理が協力してくれたお陰で完成したようなものよ」
「1週間顔がむくんだげどね!」
「なによ。そのお陰であんたナンパさせること増えたじゃない。それに一昨年の日焼け止め!紫外線カット率99%を維持して美肌効果も得られるあの日焼け止めもその前年に真理の協力してもらったお陰よ!!」
「暫く肌が日焼けしたみたいに赤くなって大変だったけどね!あの暑い中長袖着なきゃいけないのはなかなかの地獄だったわ」
「それも1周間程度でしょ?その後肌の調子が良くなったって喜んでたじゃない」
「それはそうだけど…………」
「それに真理。あんたその後割りと気にいったやつの正規品を使ってるわよね?」
「うっ…………」
「一般ユーザーより一足先に使わせて挙げてるんだから、感謝して欲しいくらいよ」
言い負かされたお母さんは、崩れ落ちるように机に伏せた。
「じゃあ今日はなにを持ってきたの?」
「ふぅ〜ん。優太が先に食い付くか…………まぁいいわ。今回試してもらうのはコレよ!」
「…………なにコレ?」
小さな小瓶の中にピンクの液体が入っていた。
「優太にはまだ早いわよ。それは香水っていうの。それを外に出る前に手首や首元みたいなちょっとした部分に振っておくと、振った香水の香りが暫く自分からするのよ。エチケットマナーの1つってところよ」
お母さんがおばさんが取り出したモノを確認して教えてくれた。
「あんたが心配するリスク………こういうものなら大丈夫だと思わない?」
「う〜ん。私そもそも香水しないし、それに児童の前でそういうのつけられないのよね…………」
「なら丁度いいじゃない!試しに使ってみなさいよ!!気分転換にもなるし」
「う〜ん…………」
2人のやり取りを横で聞いてると、おばさんがこっちを見る。ニャっと怪しい表情を見せると
「優太。あんたつけてみる?」
まさかの提案に僕は勿論、お母さんも驚く。
「えっ、香水って女の人がするものじゃないの?」
「そんなことないわ。町中のサラリーマンでもしてる人はゴマンといるわよ」
「ちょっと雪子!変なこと教えないで!?」
「事実じゃない」
「優太にはそういうのはまだ早いわ!」
「それは優太が決めることよ。それに折角真理に試してもらおうと思ったのに、検証出来ませんでしたってなったら、まだ社外秘の試作品を社長権限で持ち出した私の顔が立たないのよね」
「被験者にだって受けるか受けないかの選択権は…………」
「いいよおばさん。僕使ってみる」
「優太!?」
「あら、流石は優太。話しがわかるわね」
「雪子、貴女ね〜」
「被験者にも選択権があるんでしょ?これは被験者候補の優太が自分の意志で決めたのよ」
「うっ…………」
「でもおばさん。1つお願いがあるな〜」
「お願い?」
随分と時間をかけてお母さんを説得し、3人で近所の大型ショッピングモールにやって来た。
「凄いカッコいいね!おばさんの車!!」
「でしょ優太!あんたはやっぱり話しがわかるわね!!」
「それにしても、車内凄い匂いだったわね」
「まぁ、3人ともあの香水つけたからね。しょうがないわ」
「ねぇお母さん!早く早く!!」
初めてやって来たショッピングモールに僕はとても興奮していた。
「優太!待って〜」
ショッピングモール内に入ると突き抜けた空間を囲むように様々なお店が並んでいる。
「凄〜〜い」
「優太。折角の機会だしお母さんにいっぱい欲しい物買ってもらいなさい」
「やったー!!」
「ちょっと雪子!なに勝手な事………」
「…………」
「…………少しだけだからね?」
「うん!」
僕はショッピングモール内を走り抜けた。
「優太!危ないから走らないで!…………で、貴女はなにやってるのよずっとスマホいじって」
「なにって、調査よ」
「調査?」
「一応社長だからね。強引に社外秘の物持ち出したんだから、仕事はしないとね」
「ふーん」
ショッピングモール内を散策する3人。そのうちお母さんが違和感に気がつく。
「ねぇ…………私達、凄く視線を感じるのは気のせい?」
「うん。なんか女の人の視線を凄く感じる」
「女の人?男の人じゃない?」
「……………」
「ねぇ、雪子。これって…………」
「試験は成功ってところかしらね」
「えっ?」
「この香水には、異性を魅了するフェロモンを刺激する作用があるわ。そしてそれは香水の効果で倍増してるのよ」
「えぇ〜〜〜」「えぇ〜〜〜」
香水の効果につられて徐々に人が僕達に近づいてくる。
「ねぇ、流石にちょっと効き過ぎじゃない?」
「そうね…………こんなに広範囲に及ぶのは予定外よ」
「どうするのよ!?」
気がつけばお姉さんやおばさんが好奇な目で僕を見ていた。お母さん達がいなかったらと思うとゾッとする。
「ねえねえ、お姉さん達俺達とお茶しない?」
一方お母さん達は見知らぬ男達に声をかけられていた。
「ごめんなさいね。息子と一緒なの」
「そっちのお姉さんは?どう?俺達と遊びに行かない?」
「悪いわね。あたしは自分より能力値の低い人間に興味無いの」
「いやー厳しいこと言ってくれるね〜」
2人がしつこく絡まれている。
「あれ、神谷くん?」
声をかけられた方を振り向くとクラスメイトの女の子だった。
「新垣(あらがき)さん?」
「こんにちは!初めてだね。学校以外で会うの」
「そっ、そうだね」
「神谷くんもお母さんと一緒?」
「うん。」
「側にいないの?」
「えっ!?」
いつの間にかお母さん達と逸れていた。
「優美(ゆみ)ー。あら、どうしたのその子?」
「ママ!同じクラスの子なの、お母さんと逸れちゃったみたい」
「あらあら大変ね。一緒に探して…………」
「…………ママ?」
新垣さんのお母さんが急に黙りこむと、僕を見る視線が変わる。
(まさか……………)
「それにしても、可愛らしい子ね。僕ちょっとだけおばさんとショッピングモール巡らない〜?」
「!?」
「ママ??………あっ神谷くん?」
「ゴメン新垣さん、ありがとう!また学校で!!」
「うっ、うん…………ってママ!?」
なんと駆け足でその場を去ろうとする僕を、新垣さんのお母さんが捕まえた。
「えっ、あの…………」
「ねっ、いいでしょ〜」
「ママ!?なにしてるの〜」
お母さん達に負けない豊満な胸に包まれる僕。
「あっ、あの〜おばさん。落ち着いて…………」
「いやー、可愛い〜〜」
「なにやってるのよママ!ママってば!!」
(…………それにしてもなんで新垣さんはいつも通りなんだ?)
「わっ!?」
力強く腕を引っ張られる。視線の先にはおばさんがいた。
「貴女。なにするのよ」
「悪いわね。この子には先約がいるの」
「あっ!」
「ごめんねお嬢ちゃん。この子貰ってくわね〜」
おばさんに勢い良く引っ張られる。母親の異変に泣きじゃくる新垣さんの声が遠のく
「あんた、どこいってたのよ!?」
「気がついたらおばさん達と逸れてた」
「ここまで魅了の効果が出るとは計算外だったわ」
「そっ、そうだね」
「急いで真理のところに戻らないと」
「えっ」
「逸れてたあんた探す為に、置いてきたのよ!」
「えぇ~〜」
「あっ!優太。無事で良かった。雪子〜〜、どうにかして〜〜」
合流するとお母さんは10人近い異性に言い寄られていた。
「やむを得ないわね」
おばさんはそう言って懐から香水と似た小瓶を取り出す。
それをお母さんに噴射した。
「きゃあー」
「お母さん!?」
「…………あれ、俺なにしてんだろ」
「なんで見ず知らずのおばさんにアプローチしてんだ!?」
お母さんに言い寄っていた男達が我に還り離れて行く
その小瓶のモノを自分と僕にも噴射したおばさん。
すると変な視線を感じ無くなった。
「今日の試験はここまでよ」
「そうしてちょうだい」
「うん………」
結局折角のショッピングモールをしっかり楽しめないまま、とてつもない疲労感をお土産にその日は帰宅した。
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