第3話 初めての気持ち
「そう。気をつけて遊んでらっしゃい」
その日の朝はいつもと少し違った。
「いいの?」
「なに言ってるのよ。同級生のお友達と放課後遊びに行くなんてなにもおかしなこと無いわよ。楽しんでらっしゃい。雪子にも伝えておかないとね!」
前日から友達と遊ぶ約束をしていた僕はそのことをお母さんに伝えた。
どちらかというと僕は活発に外へ遊びに行くタイプでは無い。久しぶりに友達と遊ぶことを伝えたら、お母さんはとても嬉しそうだった。
いつも通りお母さんがドアを開けたタイミングでおばさんがやってくる。
「おはよう〜真理」
「おはよう雪子。今日は優太、友達と出掛けるみたいだから貴女も自由に過ごして!」
「…………あらそう。わかったわ、折角子守から開放されるなら。私も羽根伸ばすわね」
「うん。じゃあ行ってきます!」
お母さんの足取りも心なしか軽い。
「…………デート?」
お母さんを見送り、暫く沈黙ののちおばさんが尋ねてきた。
「ちっ、違うよ!」
「あら、なに〜照れること無いじゃない〜」
「ホントに違うったら!」
「そんなに必死になって否定することじゃないわよ」
腕を組みながらクスクスと笑うおばさん。
「〜〜〜!行ってきます!!」
「行ってらっしゃ〜い」
僕の反応を楽しむようにおばさんはニヤニヤと手を振り続けていた。
「優太!ボール行ったぞ!!」
放課後、数人の友達と公園で遊んでいた。
「よし優太!シュートだ!!」
力一杯足を振り抜く。ボールはゴールに見立てたコーンとコーンの間を通らず、それていった
「だぁーーーー。絶好のチャンスだったのに!」
「ゴメン。」
「おらこんなんで落ち込むな!!逆転するんだろ?」
「うん!」
「初心者かかけえ大変だな〜ハンデやろうか?」
「うるせー!いらねーよ!!行くぞ優太。再開だ!!」
意気揚々と前を向く友達に申し訳無さが募る。
「そういえばアイツ戻って来ないな」
ボールをとりに行った友達が一向に帰ってくる気配が無い。
「いくら優太のノーコンシュートでもそんな変な方向は飛んでないだろ?」
「ったくよ!探そうぜ!!」
僕を含めた5人は戻ってこない1人を探し始める。
「あっ!なにしてるの?皆探してるよ」
少しして、僕はその友達を見つける。その友達はジッと遠くを見ていた。
「ねぇってば!…………!?」
友達の視線の先には、キャップを被り黄色いボールを左手に持ったラケットで華麗に打ち返すおばさんだった。
(なっ!なんでおばさんがこんな所に!?)
「あの人…………綺麗だな」
ジッと眺める友達が呟いた言葉に、自分がドキッとしたのを感じた。
「どっちの人?」
「あの帽子被った人だよ。」
「!?」
「あんな綺麗な人…………いるんだな…………」
「そう…………だね」
おばさんが綺麗なのは勿論知っている。けどその時僕はすぐに言葉を返せなかった。
「行こ!皆探してるよ!」
「………ハッ!そうだよな!!ゴメンゴメン…………痛っ!!」
友達の頭に黄色いボールが直撃する。
「ちょっと!どこ飛ばしてるのよー」
「すみません〜」
「ったく」
(もしかして!?)
こちらに飛んできたボールをおばさんが探しに来る。すると…………
「なにしてるのさ!?」
「なにって、あのお姉さん達のだから返しに行くんだよ」
「置いておこうよ〜…………あっ!」
その友達はおばさんに駆け寄る。
「これ?お姉さんの?」
「そうよ!あり…………」
一瞬。おばさんと目が合った気がした。次の瞬間。
「!?」
「!?」
「きゃあー!ありがとう坊や!!ワザワザ拾って持って来てくれたの〜?」
おばさんは友達を力一杯抱き締めた。
「うっ、うん…………」
「ありがとね〜。助かったわ〜」
そう言っておばさんは連れの人が待つコートに走って行った。
友達は我心ここにあらずと言わんばかりに惚けた顔で戻ってくる。
「…………いい香りした」
生まれて初めておばさんにモヤモヤした感情を抱いた。
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