第5話 来てくれてうれしいよー、待ってたっ
「お、お邪魔します……」
―――叶先輩と買い物(デート?)から数日後。
俺は、本当に、先輩の家に来てしまっていた。
「奏くんだ、どうぞどうぞー! いらっしゃいませっ」
先輩が送ってくれた家の位置情報を頼りに、恐る恐るインターフォンを鳴らす。
鳴らした途端、まるで玄関で俺が来るのを待っていたかのようなスピードで、先輩が顔を出した。
まあ、そんなわけないんだけどね。
恐れ多くも、叶先輩が俺の到着を待ちわびて、玄関でずっと待っていてくれるなんて夢のようなシチュエーション、ないだろうけども。
「来てくれてうれしいよー、待ってたっ」
どき、とその言葉に不覚にも心臓が鳴る。
おい、未練がましいぞ俺、なに彼氏の気持ちになってんだ!
俺は謎に焦った気持ちのまま、玄関の扉を開けたまま外に出てきた先輩に視線を移し、そのかわいさに思わず息を呑んだ。
「えへへ……昨日、ワンピース買ってみたんだ。ま、前の私はこんな服、着なかったんだろね! クローゼット中探しても、スカート類が全くなかったんだー」
青空を映したような鮮やかな水色のワンピースの裾をつまみ、はにかむ叶先輩。
膝上のワンピースの裾から除く細い脚は、いつもは靴下で隠されているふくらはぎまでが見放題、露出し放題。……おっと、自制せねば。
腰元は、ブラウンの革製のベルトできゅっと締められていて、胸が浮き彫りに……自制、自制だ俺!
慌てて視線を上げると、照れたような叶先輩の顔が視界に入り、心拍数が一気に増加するのを感じる。
ボブヘアーは、一生懸命結ったのがわかる、多少ぼこぼこした、でもそれが最高にかわいい三つ編みスタイル。
頬はほんのりと火照っていて、俺の反応を窺うようにして俺を見つめている。
はぁ……先輩は今日も可愛い。
「……どう、かな」
「っ……かわいい、です」
「!! そ、そっかそっかあ……えへへへへ……」
目をそらしながらも伝えると、へにゃ、と先輩の声が緩んだのが聞こえた。
やばい、その声も可愛い。
録音して一日中流しておきたい。さすがにしないが。
「あっ、家に入れずにごめんねっ。どうぞ、いらっしゃいませ!」
叶先輩は、俺の横に並び、家の中へと誘導してくれる。
その時、さりげなく俺のパーカーの裾をつまんでいるところに、きゅんきゅんする。
「……あと、今日、親、いないからっ」
くい、と強く裾を引っ張られた後、そう囁かれて、俺は口をぱくぱくとさせた。
記憶を失った叶先輩は、積極的すぎる。
▲▽
「うお……」
叶先輩の部屋に入った瞬間、ふんわりと甘い香りが鼻をくすぐった。
香水だろうか。ザ、女子、のような、めっちゃ好みの香りだ。
部屋は白で統一されていて、でもくまのぬいぐるみなんかが何個か飾られていたりして、超絶に可愛い。萌えすぎる。
「何にもないお部屋で……ごめんね……こ、これでも片付けとか頑張ったんだけどっ」
「い、いえ、素敵です。最高です」
「!! よかったあっ」
とろけたような笑顔の先輩が、めちゃくちゃにかわいい。
実は、叶先輩の家にお邪魔するか、ぎりぎりまで本気で悩んでいた。
カップルでもなくなった俺らが同じ部屋で同じ時間を共有する、それは如何なものかと思ったからだ。
さらに、相手は叶先輩。
俺が叶先輩の家に入っていったところを目撃されてしまったら一巻の終わりだ。
俺なんかと噂になって、いいことは何一つないのだからな。
しかし、メッセージアプリで、
『私、奏くんがうちに来てくれたら、すごくうれしい』
『なんだか、おうちデートみたいで、どきどきしちゃうねっ』
そう送られてきた時、俺の天秤は傾いた。
ここまで叶先輩に言われちゃあ、男が廃るってもんだ。当然、行かないわけにはいかない。
ちなみに、これまでの叶先輩とのメッセージのやり取りは、俺が全部消しておいた。
付き合ってたことがぎりぎり分かる会話が残ってたりしたからな。
嘘を突き通すと決めたからには、隅々まで地道な努力を怠ってはならないのだ。
「喉乾いたりしてない? 私、紅茶入れてくるからっ、待ってて!」
「あ、わざわざありがとうございます」
「う、ううんっ、気にしないで大丈夫だよっ! ……礼儀正しい奏くんもかっこいい、やだ好き」
言葉の最後に、何やら叶先輩が言った気がし、聞き返そうとする。
が、その前に先輩は部屋を出ていってしまったため、仕方なく俺は、一足早く叶先輩の部屋を堪能することにする。
「さすが学校一の美少女、部屋も美しいわ……この部屋のにおい、箱詰めにして持って帰りたい」
さすがにしないが。
「……ん? なんだあれ?」
そのまま部屋を見渡していると、勉強机の隅に置かれた一冊のノートに目が留まった。
先輩は字もきれいなんだよな……表紙にタイトルが書かれてある、どれどれ……ん?
「『目指せ!彼に好かれる私☆大変革・成長記録ダイアリー』……??」
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