第12話 王都
「クラッシュ、お前、王都に行ってみるか?」
「王都?」
祭りをしてから1ヶ月が経ち、村も今まで通り活気付いてきた頃、父さんが俺にそう問いかける。
王都って、都会だよな。
人がいっぱいいるってことだよな。
勇者である、忌子である俺が行ってもいいのか?
当然ながら恐怖がある。
差別されるだろうし、手を出される可能性もある。
でも、俺は勇者の悪いイメージを払拭してこの少年を救ってやりたい。
そして何より、俺自身が変わりたい。
だから、
「行く!」
「おお行くか!アカネとリューは連れてくか?」
「うん!リューに聞いてみる!」
近くで剣の訓練をしているリューの元へと行き、王都へ行くか聞いてみると、
「お、王都!?行くー!!」
と、目をキラキラさせて即答した。
というわけで、父さん、俺、リュー、アカネの4人で王都へと行くことになった。
村は森に囲まれているので、魔物のいる森を抜けなければ王都には行けない。
この1ヶ月で、怪我は大分治ってきたが、腕はまだ完治していない。
もし魔物と戦うことになったら、足を上手く使おう。
また怪我をすることになっても、リューを守りたい!
そう決意したのだが、森で出会った魔物は父さんが一撃で倒してしまい、俺やリューの出番はなかった。
【勇者覇気】を展開した俺よりも遥かに高い威力で魔物を屠っていく父さんを見て、俺ももっと強くならなければと思った。
俺たちは1時間ほどで森を出て、王都までの一本道へと辿り着いた。
一本道には馬車が停まっており、俺たちはそれに乗ることとなった。
父さん曰く、ここから王都までは馬車で2日かかるらしい。
てっきり日帰りで王都を訪れ帰るだけだと思っていた俺とリューは、思わず顔を見合わせて目を見開いた。
馬車に乗って数時間が経ち空が暗くなってきた頃、近くに魔物の気配を感じた。
今馬車が走っているのは辺り一面草原に囲まれた一本道だ。
すぐに姿が見えるだろうと思い、気配を感じる右前方に目をやる。
するとそこには、熊のような魔物がこちらを見て立っていた。
四足歩行なのに、二本足で立ち姿勢を高くしている。
「グオォォォォォオオオオ!!!!」
俺と目が合った瞬間、吠えながらこちらへと襲いかかってきた。
森の中で会った熊とは比にならないほどの迫力だ。
これが魔物と動物の差なのか。
背中には大きなツノのようなものが生えており、牙はとても鋭い。
体の大きさも5メートルほどあるのではないか?
だが、ワニの魔物と比べたらそこまで恐怖を感じない。
父さんは森の中でも馬車に乗ってからも、魔物の気配をずっと探り続けていたらしく、今はぐっすり眠りについている。
リューもアカネも、初めての馬車の旅に疲れたのか、身を寄せ合いながら眠っている。
「う、うわぁぁぁ!!」
「ヒヒイィィィン!!!」
馬車を操縦している人がその姿に怯え、その叫び声によって馬が暴れ出す。
「落ち着いてください!俺が倒します!【勇者覇気】!」
急いで【勇者覇気】を纏い、馬車から飛び降りる。
「クラッシュ!!」
馬車から父さんの声がする。
目を覚ましたのだろう。
「大丈夫!俺に任せて!!」
父さんの瞳にはとても心配しているような、何かを恐れているような色が浮かんでいる。
大丈夫だよ、父さん、俺も強くなったんだ!
「【勇覇蹴】!」
熊の魔物の前で高くジャンプし、頭に蹴りを入れる。
ワニの魔物と比べたらとても脆い。
頭を吹き飛ばし、返り血を浴びる。
ひと仕事終えた俺は馬車へと戻ったのだが、
「クラッシュ!いつの間にそんなに強くなったんだ!?蹴り一つであれだけの威力とは!流石俺の息子だ!」
と髪をワシャワシャされ、嬉しい気持ちになる。
その後はなんの問題もなく、王都までたどり着くことが出来た。
「で、でけぇ……」
王都【クライズオリジン】は想像の遙先をいく大きさで、その規模に圧倒された。
生き生きとした人々の声が入り混じり、街中賑わっていることが外壁の外まで伝わってくる。
「じゃあ父さんは【冒険者ギルド】に用があるから、ついて来るか?それとも王都を見て回るか?」
【冒険者ギルド】
ラノベで何百回も読んだ内容だ。
冒険者という魔物と戦ったり福利厚生を図る職業の人たちが集まる本部のようなところだ。
「リューどうしたい?」
「色んなところ見てまわりたい!!」
リューがあまりにも目を輝かせてそう言うので、王都を見て回る以外の選択肢は無くなった。
「そういうことなら、お前たちだけで王都を見て回ればいい!父さんがいなくても、リューを守ってやるんだぞ!」
「分かった!」
こうして中に入ると、
「「わぁぁぁ!!!!」」
「わん! わん!」
とても賑やかな城下町が広がっていた。
左右にはレンガ造の建物がずらっと並んでおり、その前には屋台のようなものが所狭しと軒を連ね、食べ物やら、飲み物やら、ブレスレットやら、宝石やら売っている。
まるで、祭りみたいだ!
きっと毎日がこうなのだろう。
町の人たちは老若男女、皆んな笑顔で楽しそうだ。
中には尻尾や耳を生やした人もいる。
多分そういう種族なのだろう。
少し進んでいくと、薄暗い路地裏でまだ幼い子供や女性たちが、首輪と手鎖をつけられて連れられている。
どう見ても尋常ではない雰囲気だ。
周りから声が聞こえてくる。
「あの奴隷可愛いな。買おうかな。」
「いやいや、あの手の奴隷は高いぞー。」
「戦闘用の奴隷も欲しいな。」
「確かに討伐が楽になるもんな。」
その声に、あの連れられている人たちは奴隷なのだと分かった。
酷くないか? と思ったが、異世界ではこれが普通なのだろう。
それを証明するかのように、他の人たちは気にも留めないで笑っているんだから。
「おい、あの髪色と瞳、勇者じゃないか……」
「うわっ、本当だ、初めて見た……」
「はやく追い出さないと、この国が滅びる……」
「勇者の分際でよく、王都に来れたわね……」
「恥を知れ……」
俺の姿がみんなの視界に入るやいなや、予想通りの反応だ。
放たれる言葉が、鋭い視線が、俺を打ちのめす。
ズキン、ズキン……
胸が痛い。
泣きたい。
あれっ、なんでこんなに痛いんだ……?
この前までは他人の言葉なんてどうでもいいと思っていたのに……
他人の言葉にこんなに傷つくなんて……
苦しい、痛い、怖い、泣きたい……
やはり俺は独りぼっちなのだろうか……
「クラッシュ、あっちも見てみたい!」
「えっ?あぁ、うん……」
リューはなんで普通に接してくれるんだろう?
俺を差別するような目で見る周りの人たちが正常なんだと思う。
村の人たちは俺のことを普通の1人の男の子として見てくれたけど。
今ここで俺に普通に接したら、リューにもヘイトの目が向くかも知れない。
それはリューも分かっているはずなのに。
「リュー、俺と一緒にいて苦しくない……?」
「全然!クラッシュといる時が1番楽しくて幸せなんだ!」
少し照れたようにそう言ったリューを見て、少しだけ元気が出た。
そうだ。ここにいる人たちは他人だ。
他人にどう思われたって関係ないだろう。
俺のことを知っている人がそばにいてくれるというなら。
そう思い、リューやアカネと共に王都を見て回った。
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