第11話 祭り

 「クラッシュ、その子誰だ?魔物……か?」

 

 父さんがアカネのことを指差しながら、そう問いかけてくる。

 

 「うん!森の中で見つけたんだ!アカネっていう名前を付けたんだ!コイツが居なければこの村まで帰ってくることは出来なかったよ」


 「そうかそうか!じゃあアカネはクラッシュたちの仲間だな!」


 仲間……


 俺はアカネをそういう目で見たことが無い。

 "人間と魔物"の間に、どうしても壁を感じてしまうからだ。


 だが、アカネは命を掛けて俺たちを守り、この村まで案内してくれた。

 感謝はしている。


 「これからも俺のことを守ってくれよ」

 「わん!」

 

 アカネは幸せそうな顔で俺の声に応えた。

 

 「そうだ!村のみんなのために、魔物の肉を持ってきたんだ!食べよ!」

 「お前、魔物と戦ったのか!?」

 「う、うん」


 そう問いかけてきた父さんの表情、声色から心配していることが窺える。


 「俺も、村のみんなの役に立ちたくて、元凶の魔物を倒してきたんだ」

 「そうか、強くなったんだな、身も心も。村の人のために動けるようになったなんて、父さん感激だぞ!」

 

 そう言った父さんは俺の髪をワシャワシャして、俺とリューを抱き上げた。

 

 父さんの感触や匂い、声が俺を安心させる。

 

 「よし!じゃあ今日は祭りにしよう!これだけの肉があれば、みんなの腹も満たせるだろう!」

 

 それから俺たちは、村のみんなに魔物を倒したことを明かし、今夜祭りを開催することを呼びかけた。


 村の人たちは安堵の表情を見せ、その表情が俺に達成感を与える。


 この人たちのためなら、どれだけでも頑張れる。

 心からそう思った。


 「リュー、ありがとう!リューのおかげで生きて帰ることができたよ!」

 「私こそありがとう。何があっても守るって言ってくれてすごく嬉しかった。」

 「これからも、リューのことは守るよ!何があっても守りきるから!」

 「うん!ありがとう!」


 満面の笑みでお礼を言うリューは、今まで見た何よりも綺麗で、思わず見惚れてしまう。

 改めてこの子が好きなのだと実感する。


 「クラッシュ、どうしたの?」

 「えっ?あー、いや、なんでもない!」


 今はまだ、この気持ちを伝えるわけにはいかない。


 〜数時間後〜


 「みんな!聞いてくれ!もう聞いたと思うが、クラッシュが元凶の魔物を討ち取った!もう飢餓に苦しむことはない!ここまで死者が出なかったのはみんなの協力のおかげだ!本当にありがとう!今夜は祭りを楽しむぞ!」


 「「「おおーー!!!!」」」


 「じゃあ、魔物を討ち取ったクラッシュとリューから一言ずつ頂こう!」

 

 えっ??


 ひとの前に出て喋ることなどなかった俺が?


 でも、この村の人には伝えたいことが沢山ある。

 

 「え、えっとー、まず、村のみんなには感謝を伝えたいです!俺たち子供の為に食糧を分けてくれてありがとうございます!俺たちはその恩返しをしたくて、みんなの笑顔が見たくて、森の中へと魔物を狩りに行ってきました!魔物を倒したのは俺たちだけの力じゃなくて、みんなの力です!本当にありがとうございました!」


 うわべだけの言葉ではなく、心から感謝できると言うことがこんなに気持ちの良いこととは。

 

 「「「うおおお!!!!」」」


 俺の言葉に、村のみんなが声で応える。

 

 この村が、好きだ!


 「じゃあ次、リュー!」

 「はい!」


 父さんが司会のようにリューを呼び、みんなの前に立たせる。


 「クラッシュも言ってましたが、私たちのために限られた食糧を分けてくださり、ありがとうございました!私はこの村が大好きです!」


 パチパチパチッ!


 と村全体から拍手の音が飛び交う。


 「じゃあ、このワニを食べるぞ!」


 そう言った父さんがワニを引き摺ろうとするが、ワニが動く気配はない。


 「お、重っ!!クラッシュたち、これどうやって運んできたんだ!?」

 「アカネが1人で運んできたけど」


 そのワニそんなに重いのか?

 アカネどれだけ力持ちなんだよ。


 運びきれないと思った父さんはその場で身を切り離していく。

 【勇者覇気】を纏った俺の拳が砕けるほど硬い鱗を豆腐のように切っていき、レベルの違いを見せつけられる。

 

 俺も少し強くなったと思うが、まだまだ父さんには敵わない。

 

 ワニは塩焼きにしたり、そのまま食べたり……

 色々な方法で調理していく。


 村の人たちは、本当に幸せそうな顔で、ダンスを踊ったり、腹踊りをしたり、一年前と同じような活気を取り戻した!


 その光景を見た俺は、思わず目に涙が溜まる。

 

 自分の行動によって人が笑顔になる。

 それがこんなに幸せなことだなんて……


 昨日とはまるで別物の村の雰囲気を見ていると、この村を、みんなを守りたいと思った。


 まだ、俺の知らない他人の為に行動しようとは思わない。

 だが、自分の知っている人なら、命を掛けてでも守りたいと思えた。


 「クラッシュ、何泣いてるのよ」

 「リュー……って、リューも泣いてるじゃん!」


 話しかけてきたリューの目には涙が浮かんでいた。

 

 「だって、昨日までの、村の人たち、本当に苦しそうな顔をしていて、それが、見て!あんなに笑顔で幸せそうにしてるのよ!」


 リューの目線の先には笑顔で溢れかえっている村が目に映る。

 

 この人たちの為に行動してよかった、心からそう思う。

 こんなに自分以外の人が喜ぶ姿を見て、自分まで嬉しくなるなんて……


 自分でも感じる!


 この世界に来る前の、クズなサラリーマンだった時より、人としてのココロを持つことができていると。

 成長していると。

 どれだけクズで薄情な人間でも、キッカケさえあれば変わることが出来るんだ!


 そのきっかけをくれたのは、父さん、母さん、リュー、この村の人だ。

 俺を変えてくれたこの人たちだけは、絶対に守ってみせる!

 

 「わん!」


 決意を決め、手をグーに握りしめた俺の思いを共有したように、アカネが大きな声で吠えた。

 

 「お前も、俺に着いてきてくれるか?」

 「わん!」


 こうして見てみると、魔物や動物も、少しだけ可愛いかもしれない。

 コイツらにも、ちゃんと意思があるんだな。


 「クラッシュ、肉は食べた?」

 「母さん、うん!沢山食べたよ!」

 「よかった!」


 母さんはそのまま俺に近付き、抱きしめた。


 「ほん、とうに、しん、ぱい、したんだから」

 「ごめんね!ほら、泣かないで!」


 母さんはボロボロと涙を流し、俺を強く、強く抱きしめた。


 「ふふっ、流石私の息子ね!」


 息子……


 母さんも、俺を本当の子供のように思ってくれていることを知り、とても嬉しくなる。

 血は繋がっていなくても、俺は母さんを世界一の母親だと思っている。

 

 「よし!まだまだ祭り楽しむぞ!」


 

 何時間にも渡る祭りは終わり、あと片付けをすることになった。

 もちろん俺も参加しようと思ったのだが、

 

 「クラッシュくんは休んでて!君のおかげで満腹だよ!」

 「そうだよ!クラッシュくんは今日の主役なんだから!」


 などと言われ、リューと一緒に村の外に散歩しに行った。


 「祭り楽しかったね!」

 「そうだね!」


 2人の間には30センチほど、詰めたくても詰められない距離がある。

 この気持ちを伝えるまでは……


 「あっ、怪我は大丈夫?」

 「うん、大丈夫だよ!クラッシュこそ、手と足骨折してるじゃん、大丈夫なの?」

 「大丈夫だよ!」


 いや、強がった。

 手も足もとっても痛い!

 

 今俺は木で作った杖のようなものを持って歩いているのだが、それでも痛い。


 村の人にも、両親にも、とても心配された。

 

 その時はアドレナリンが出ていたのか、痛みも少なかったが、今になってとても痛くなってきた。


 「でも、魔物も出て来なくなったし、ゆっくりと休めるね!」

 「そうだな!」


 リューの言葉一つ一つにドキドキする。

 そう思いながらリューの隣を歩く。


 数十分歩いた後、まだ祭りの余韻が残る村へと戻った。


 ******


 クラッシュたちが魔物を倒し、森を去った後、森では異変が起きていた。


 原因はクラッシュが投げて割った黒色のガラス玉のようなものだ。


 ガラス玉のようなものから黒色の煙が溢れ出し、近くに生えていた木々をからしていく。


 ⦅クックック、誰ですかねぇ、私の魂を解放したのは⦆


 森には不気味な声が響き渡った。


 その異変に、クラッシュたちはまだ、気付いていない。

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