第2話 日常
男は明かりのついていない暗い研究室で頭を抱えながら1人呟く
「あいつらは何もわかってない、私がどれだけこの国に貢献してきたと思ってる」
くたびれた白衣を翻し、肩まで伸びたボサボサの髪の毛をはらい、空になった水槽のようなものを睨みつける
「検体F205がうまく適応してくれれば、あいつらも見返せたが、、、役立たずなゴミめ、身体的な変化が何も現れんとは、、」
思い立ったように突然部屋の隅の暗がりに向かって怒鳴る
「予算が削減されたのであればこの星から新たな検体を探すしかない、、おい!D81!今すぐ新たな検体を探してこい!」
「かしこまりました、モーサス様」
初めからそこにいたのか、はたまた今現れたのか、
黒いローブを纏ったそれは、暗闇からぬるりと出てきて返事をすると、すぐにまた消えた
「この星の人間では望みは薄いかもしれないが何もしないよりはましだ、、」
そう呟きモーサスは部屋を後にする
〜〜〜〜
「さすがリッキー!やっぱ力だけはすごいな!」
ニコニコしながら小柄なシーフィ族のコイルが感嘆する
ネズミのような上半身に羊のような下半身、手は4本指の奇妙な奴らだ
新しいバイトとして運送業のバイトをしているリッキーこと中田理玖、地球との重力の違いか、全てのものが軽く感じ、重いものでも簡単に運べるため、輸送のバイトはちょうどよかった
それ故に今までやってきたバイトでは、力の加減が分からずさまざまなものを壊してはクビになってきたリッキー
「ひでえな〜力だけとか言うなよ、、ちょっとは気にしてんだ!」
不貞腐れたような顔を浮かべ返事をする
見た目はトラックだがホバリングして浮いている乗り物に荷物を積み終わると、また倉庫にある残りの荷物を取りに戻る
「え、逆にそれ以外にできることあるの?!」
ニヤニヤしつつも仕返しを恐れて、シーフィ族の特徴である蹄のついた足でコツコツ後退りするコイル
その時、俺は苛立ちから運んでいた大きな荷物を一つ落としそうになるが、落ちる速度が地球と比べると若干遅いからか、容易にキャッチできた
「おいおい、大事な荷物なんだから気をつけてくれよ?」
社長のノルドがそこらに生えているような草を咥えながら現れると、ニヤニヤしながら言う
彼もシーフィ族だ
「わかってますって!俺はもうこれ以上あとがないんですから」
そこに紅一点、カレイラも配達から帰ってきた
黒のタンクトップに黄緑のつなぎを腰に巻きつけたような格好だが、それ以外の服装を職場の人間は誰も見たことがない
「ま〜たリッキーがなにかやらかしたの〜?またクビにならないように気をつけるのね!」
無邪気な笑顔を見せながらからかうようにカレイラが言う
キムール族であるカレイラは見た目はほとんど地球人と大差ないが、肩まで伸びたくせっ毛の髪からコウモリのように大きな耳が覗き、肘から先はフワフワの毛に覆われている
これは彼らの特徴で、体になにがしかの動物が混ざったような見た目をしている
ただ、カレイラのように動物部分が少なく地球人に近い形は珍しいらしい
「どいつもこいつもからかいやがって、今に見てろ、この力でのしあがってやるよ!」
リッキーは吐き捨てるように言う
するとすかさず後ろからノルドがリッキーの肩に手を置き言う
「のしあがるんならちょうどいい、ここの配達先にカレイラと一緒に行ってくれや」
ノルドが満面の笑みを浮かべながら伝票を見せる
「こ、ここって商業地区にある、あの150階建てでエレベータがないって言うあの、、」
冷や汗をかきながら言うリッキー
「のしあがるんだろ?」
満面の笑みのノルド
「意味が違いますよ!・・・あーもう行けばいいんでしょ!カレイラ!いつものとこ!今日は俺も一緒にってさ!」
カレイラが入っていった倉庫に向けて叫ぶ
気の抜けた返事と共にカレイラがやってくる
「あと最近商業地区だと変な噂も聞くから気をつけてな、なんでも強い眠気を感じたと思うと羽交い締めにされて連れてかれるんだと、
ただ、こっからがおかしなところだが、次に目が覚めた時には何事もなく、路地裏に寝かされて外傷もなにもないっていう奇妙な話らしい」
カレイラとリッキーが出発の準備をしていると
あごをこすりながらノルドが言う
「も〜怖いこと言わないでくださいよ!・・ま、でもリッキーがいるから安心かな!何かあったら頑張ってね力持ちさん!」
少し怖がりつつもいつもの調子のカレイラが言う
「いたく他力本願だな・・まあいいや、じゃあ社長、行ってきますねー」
ホバリングしたトラックに乗り込み、アクセルを踏み込む
少し上下に揺れるが、その後安定して進み、目的地である商業地区の階段地獄を目指す
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