7月19日
「いよいよ明日は夏休み本番ですね!」
「木曜日からだぞ」
今日もまた神社にやってきた。先週同様、暑い。縁側に並んで腰を下ろし、ただ会話をする。
「それで夏休みの案なんだけどさ」
「ライネで言ってたのは流石になしな」
「う」
SNSで事前に話し合っていたのだが、アカリはこの間のコンビニを提案してきたのだ。わざわざ夏休みに集まって行くような場所じゃない。一方で俺が提案した隣街の駅前もアカリに却下された。
「でも電車使うのはさ、ほら慣れっていうか心の準備っていうかがさ。前も言ったけどあんまり知り合いとかいそうな場所って
先週もそんなことを言っていたような。しかしそうなると本当にここかコンビニくらいしか行く場所がないような。いや、突き詰めればあそこのコンビニだってこの間クラスの奴と遭遇した。
「じゃあ、ここから少し歩くけど向こうの通り、ええっと『
あそこは行きつけの本屋のある通りで、様々な店が軒を連ねる通りだ。普通の店もあるが、妙に専門的な店が多い。同じ学校の制服を見かけることもあるが、多くはない。
「うぅ、あそこも、いやでも」
迷っているな。別にどうしてもそこに行きたいわけじゃない。他も考えるか。
「そうだな、なら他には」
「や、そこにしよ!うん、できる!」
急にアカリが大きな声を出す。
「え?いいのか?」
「うん!慣らし!んで慣れたら次、駅にも行く!」
「大丈夫か?」
「ん!じゃ、いつ行くか決めよ」
駅にまで。彼女の中で何か決心がついたらしい。左手がカバンの中の翁の面を握っていたのは見なかったことにするべきか。
「ああ。俺はお盆以外なら大体空いてる。補習もやらずに済んだし」
「お、やったじゃん。おめでと!」
「アカリが教えてくれたからな。ありがとう」
「え、そう?まあ私のが先輩だし?勉強なんて何でも教えちゃうけど?えっへへ」
わかりやすく調子に乗る。見ているこっちまで顔が綻ぶようだ。最近、彼女はよく笑っている……気がする。
「で、アカリはいつ空いてるんだ?」
「私もお盆以外」
「なら天気予報見て決めてもいいな。暑いかもしれないけど晴れてる日にしよう」
「お、いいじゃん。そんじゃ、あとでライネすんね」
「ああ。次もあるなら、なるべく早い日のがいいよな」
「ん。てかさ、夏休みって何してんの?」
夏休みにしていたこと、か。寂しい話だが、これと言って話せるようなことはしていなかった。
「土日と変わらないな。本か、ネットか」
「えええっ!そっかあ。夏休み、あと3回しかないんだよ」
そこまで大袈裟に驚かれると、流石に少し凹む。
「進学すればまだあるんじゃないか?」
「それはそうかも知んないけどさ。んむう」
アカリはバツが悪そうに口を
「どうしたんだ?」
「学校行ってない私がとやかく言えないな〜って」
「いいだろ、別に」
「そっかな。そうかも。よし!夏休み、いっぱい楽しも!」
「ああ」
アカリの瞳が輝く。綺麗だなと、そう思った。
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