5月31日

 真っ青な空に雲がポツポツと浮かんでいる。こんなに綺麗に晴れたのは久しぶりだ。

 いつもの道をゆっくり辿れば太陽の光を気持ちよく浴びられた。木陰になっている石段を上り神社に到着すると、自然とアカリを探していた。

 あまりにも静かな境内に彼女の姿はなかった。授与所には紙が結ばれたペンが置かれており、落胆する。これで終わりか、と。

 落ち込む気持ちを払おうと、参拝をする。あの空模様とは違い、一向に気分は晴れない。

 授与所へ行き、ペンを回収しようとしたところで違和感を覚えた。

 結ばれている紙が違う。

 俺は確か、書くものが無かったからノートのページを破って手紙にしたはずだ。しかし今ペンに結ばれている紙は薄い黄色をしている。

 慌てて紙の結びを解き開いてみると、ファンシーな柄の便箋に丸い文字で文章がしたためられていた。

 

 スイへ

 この間はごめんなさい。

 もし良かったら来週6月7日の放課後に

 ここに来てください。

 話したいことがあります。

 勝手でごめんなさい。

 灯より

 

 予想通り、手紙はアカリからのものだった。ごまかしの1つもない、真っ直ぐな手紙だ。

 ごめんなさい、ごめんなさいと手紙の最初と最後で2回も謝っている。俺だって悪かったんだ、彼女ばかり謝るのはどうにも心苦しい。

 手紙の返事を書こうかと思案したが、今回は見送ることにしてアカリからの手紙とペンをブレザーのポケットにしまった。

 直接会って話す機会がある。ならばその時に話そう。

 俺は晴天のように爽やかな気分で神社を後にした。

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