第10話 SNS

 知らないアイドルグループだったので、検索ボックスへ入れる。大した意味はない。眠れない夜の暇つぶしだ。

 平均年齢24歳、11人組。きよらの知らない代表曲のYouTubeのページがすぐに見つかり、そこへ飛ぶ。元気な応援歌。聞き覚えはないが、耳馴染みのいい歌だった。フォーメーションを組んだ女の子たちが、代わる代わるアップになる。


 (……この子だ)


 唐突な出会いだった。

 慌ててメンバーの顔と名前の乗ったサイトを探す。更紗。24歳、獅子座のAB型。

 あの日、透のスマホで見た写真の少女。目を瞑っていたし、被り物をしていたのだが、確かだ。あの一瞬のことなのに、やけに印象に残っている。

 間違いない。

 

 布団に潜り、興奮を宥める。あの写真の正体がわかったところで何になろう。

 (更紗というのか)

 アイドルだったとは。やけに垢抜けていると思ったのだ。透の彼女じゃなかったことにホッとする。

 (いやだから、彼女の有無とかどうでもよくて)

 一度会っただけの男性の彼女の有無などどうでもいいのだ。透に、辿り着きたかった。透が、芸能人だったら良いのに。

 さすがに、そういう印象はなかった。

 

 更紗のInstagramへ飛んで、遡る。夏の花の写真を見せてもらった時に見た写真だからと、去年の夏頃の投稿までつらつらと、指先だけを動かして過去の写真を漁る。

 あったあった。あるもんだ。

 テーマパークの写真群の中で、透が気に入って保存したであろう伏目の一枚が見つかった。

 気分は名探偵である。

 この、48件のコメントの中に、彼はいるだろうか。


 しらみつぶしにそのコメント投稿を見たが、「いとうとおる」という名前の人はいなかった。非公開のアカウントが大半で、残りはファン活動のためのアカウントが多い。個人の特定をするのは不可能そうだ。

 (うーん……)

 更紗のXのアカウントも調べる。

 最新のポストは『おはよー!』。レス130件。いいね500件。これがアイドルにとって多いのか少ないのかわからない。

 『おはよう』の語尾が少し違うコメントが並ぶ。朝の挨拶はほぼ日課のようだ。ざっと見て、すぐに目に止まるものがあった。

 アイコンの写真が、この前見せてもらった、ルリビタキだった。オレンジの筋が脇腹に入った青い小鳥。

 ヘッダーもあの日見せてもらった赤紫の花、丸くてチクチクの、ノハラアザミだ。


 アカウント名は、11010ru。

 (……誕生日?二進法?)

 いや、いとうとおるのもじりだろう。

 手が震えた。

 一枚の写真から、辿り着いてしまった。

 更紗へのリプライしかしていないそのアカウントを熟読する。数件しかないので、苦労はなかった。

 おはように、おはようと返し、おやすみにおやすみと返す。そういうシンプルなアカウントだ。フォローは更紗と、更紗のメンバーだけ。フォロワーはいない。

 最初のリプライは、ほんの二週間前のことだった。更紗の病欠を知らせるポストへのリプ。

 そのリプをきっかけに動き出したアカウント。

 (……運命じゃん。)

 きよらはようやくスマホを手放し、眠りについた。

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