第11話 青空 ---透---

 みんなおはよー!北海道に来ております!


 朝から更紗が呟いていた。スノボをかまえて雪山に立つ写真をたくさん添えて。

 体調不良から回復した更紗は、一段と元気に活動している。今は新曲の宣伝期間で、メンバー数人ごとに分かれて地方を回っている。

 

 おはようございます。今日も更紗にとっていい一日にでありますように!


 呼び捨ては馴れ馴れしかっただろうか。アイドルとの距離感は難しい。

 元気な更紗を見たので、朝から特別に気分が良かった。

 透は、小さく切った、キュウリのサンドイッチを作る。鼻歌で新曲を歌い、完成したら、テーブルを拭き、ランチマットを敷く。

 テレビをつけて、更紗の曲をかける。歌もダンスもチアフルで、一日の始まりにちょうどいい。

 Instagramのストーリーには、空の写真が上がっていた。

 更紗は、空が好きらしい。

 よく美しい青空の写真をあげてくれる。コメントは書き添えられていない。

 対象物をねらって撮ることの多い透とは、視界の捉え方が違う。無限に広がる空を捉えるのは、透には難しいことだった。透の場合、空、特に雲ひとつない青空は、何か味気なく、撮影してもありがたみのないものになってしまう。

 彼女を見ると、自分と違うところがくっきりと浮かび上がって、それがかどれも大切なものと感じられ、他人を尊重しなくてはいけないなという気持ちに飛躍する。リスペクト、という言葉を、更紗に出会って初めて自分のものにした。

 東京は雨だった。

 カーテンを引き、病気で死に別れてしまう男女の映画を見る。あっという間に午前が終わる。

 泣ける映画はいい。

 更紗と出会う前は、絶対に見なかった種類の映画だ。いつの間にか、泣かせたいところで泣けるようになった。恋愛や友愛について、気後れするところがなくなったのが大きいのだろうか。

 自分も特別な出会いをどこかでする。そう信じたから。

 三十も過ぎたのに、子供っぽいロマンチストだ。自覚はあるので、他人に言ったことはないが、でも、まだ、これからだと思う。

 女の子に合わせて変わっていく自分を、最初は意外に思った。彼氏色に染まる女の子は多いが、女の子の趣味に合わせて自分を変えていくのは珍しいことだと思っていたからだ。

 ただ好きな相手を知りたいと思って、同じことをすると、物事は楽しい。楽しいと続く。続くと趣味になる。

 愛は偉大だ。

 人生は楽しい。

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