第26話 我らグラックブッチ防衛隊!ですわ!

-説明しよう!グラックブッチ・パワードとは!

 巨大悪魔軍団と対抗するため、秘密裏に作られた

 操縦できる巨大ゴーレムなのである!


「国王陛下、説明口調で言われても何の事だか…」


呆れた様子で目の前で片手を左右に振るエル。

しかし国王は止まらない。


「いいんじゃよ、エルちゃん

 いつかはバレる時があったのじゃろう、それが今じゃ」

「…?」


首を傾げるエル。

当然ながらゴーレムの搭乗員なぞなった覚えなんて無かった。


国王は周囲を見渡しながら言い放つ。


「皆の者聞いてくれ、エルフォールを不正に学院に入学させたのはワシだ。

 しかし、これも必要な事だったのだ!」


その様子を、イルドワンは鼻で笑った。

「何が必要な事だ、大体ゴーレムなぞ…」


「お主が知らぬのも無理は無い。

しかし聞け、お主の息子ウィル君も

 …搭乗員候補なのじゃからな」


「…は…?」


思わぬ真実に、イルドワンは言葉が途切れる。


そして、その言葉を待っていたと言わんばかりに…

ウィルがその場に現れた。


「トォーーーーッ!」


何故か上から、叫びながら

飛び降りてやってきた。


国王とイルドワンの間に挟まるように着地すれば

国王がウィルを手で差しながら話す。


「紹介しようイルドワン、

 グラックブッチパワード操縦者候補1号、

 ウィルパーソン君じゃ」


無言でウィルがうん、と頷き、着地した状態からファイティングポーズをとる。



ぽかーん、という音が似合う程の沈黙が周囲を包んだ。



エルは、特に顎が外れそうな程口を広げていた。


(…あのウィルが…ボケに回ってる!?)


先ほどまで輝かしいウィルとの思い出に浸っていたエルも、

これには思わず目が冴える。


そして、その空気に絶妙に開いたをエルは見出していた。


まるで、国王がエルの為に用意した空いたスペースかのように。


しかしエルは一抹の不安を感じた。それは…

エルはこの話を知らないという事であった。


(そういえば私…滑稽話集に書いてあるネタしか…

 やったことありませんわ…しかし…!)


エルは涙で滲んでいた視界を拭けば、キリ、と観客を見る。

その視線は、エルに対して期待の眼差しを向けている。


その眼差しは…自分の中のお笑いスイッチを押し上げた。


(ウィルがやるなら…私だって!)


心の中のお笑い魂が…今再び燃えている。

今、ノらねば、いつノるのか。


国王がその気配に気付けば、振り返ってエルを手で差す。


「さらにこちらが…

 グラックブッチパワード操縦者候補2号、

 …エルフォールちゃんじゃ」


「ちょあぁーーーー!!!!」


エルは国王を見れば頷いて、叫びながらウィルの隣に立ち、

見様見真似でファイティングポーズをとる。


すると、貴族達の後ろから甲高い声が聞こえてくる。


「やぁーーーーーっ!」


貴族達がなんだなんだ、と道を開ければ、

大広間の中央に向かって誰かが走ってくる。


その姿は…ドレスを着替えたグラーフの姿が見えた。


(グラーフ様まで!?)


そして、中央にいるエルとウィルに合流するように、

エルの隣に立てば拳を構える。


国王はグラーフを手で差し、同じように説明する。


「最後にこちらが…

 グラックブッチパワード操縦者候補3号、

 グラーフちゃんじゃ」


「…なんだ、お前等…ふざけているのか!?」


思わぬ事態に、イルドワンは動揺を隠せない。

話の展開はもはや、婚約破棄どころではなくなっていった。


「ふざけてなどいない!」


国王は大声で否定する。


そして数歩ほど下がれば、3人を紹介するように宣言した。


「イルドワン、ここにいる3人で…

 グラックブッチ防衛隊を結成する!」


「…はぁ?」


間抜けな声がイルドワンから洩れる。



しかしそんな反応なぞ気にも留めず…、

ウィルが両の拳を握り込み、ポーズを取って叫んだ!


「グラックブッチ防衛隊1号!

 キーファブッチ・ウィルパーソンッ!」


そしてエルはくるり、とターンし、

両手を上に伸ばしてポーズを取り叫んだ!


「同じく2号!

 ストランドフェルド・エルフォールッ!」


続けてグラーフもぴょん、とジャンプし、

片手を地面につけ、反対の手を横に伸ばしポーズを取り叫んだ!


「同じく3号!

 ウノアール・グラーフッ!」


3人が叫び終えると、

ウィルが合図するように、さらに叫んだ!


「3人合わせて!」


3人がそれぞれポーズをとる。

中央のエルは低い姿勢で左右に腕を伸ばす、

ウィルとグラーフはエルを挟んで左右対称になるように

横に腕を伸ばしているポーズを取った。


「「「グラックブッチ防衛隊!!!」」」


そして、息ピッタリに3人の叫び声が

大広間中に響き渡った。


あまりのピッタリ具合に、

ちらほらと拍手やら「おぉ…」と感嘆の声が上がる。


控えていた国王が、締めと言わんばかりに

説明口調で再び話しはじめる。


「-こうして、グラックブッチ防衛隊は結成された!

  しかし巨大悪魔軍団はすぐそこに迫っている!

  この大陸の未来は君たちに託された!

  戦え!グラックブッチ防衛隊!

  負けるな、グラックブッチ・パワード!」


「…けるな…」


最後まで説明し終えた後、

掠れるような声がイルドワンから聞こえてきた。


煽るように、国王が耳に手を当てて聞き返す。


「あ?なんじゃって?」


そしてイルドワンは、今日一番の叫び声を上げた。


「ふぅざけるなぁあああああああああああ!!!」


思わずその場にいた全員が耳をふさぐほどの声量。

ビリビリと広間の柱や壁がしばらく鳴っていた。


ようやっと収まったかと思ってイルドワンの表情を見れば、

その顔は真っ赤に染まり、湯気が頭から沸き立っていた。


「何が防衛隊だ!?息子まで巻き込んで!

 こんな茶番を見せて…どういうつもりだ!!説明しろ!!」


ずん、ずんと足音を鳴らして国王に詰め寄る。


しかし、国王はホッホッホ、と笑い飛ばした。


「茶番じゃと?つまり、ワシの言っておる事は嘘じゃと?」

「ああそうだ!誰が信じるんだ、搭乗型ゴーレムなぞ!」


勢いよく啖呵を切り、国王の眼前に迫った時、

ギロ、と国王の目が光ったのをイルドワンは見た。


その眼光に、イルドワンはぞく、と背筋に悪寒が走った、が

次の瞬間には、国王の目はいつも通りの優しい目になっていた。


「そうかそうか、やはりバレたか…そうじゃ、全て嘘じゃ」

「このタヌキが…バレバレの嘘をつくんじゃない!

 こっちは真剣な話をだな…!」


イルドワンは説教するかのように国王に詰めようとするが、

国王は無視し、つかつか、と取り囲んでいた貴族達に近寄っていく。

するとその貴族に質問をし始めた。


「お主も嘘だと思ったか?」

「…え、…あぁ…はい」


たじろぎながらも嘘だと答えた。


次々と国王は嘘だと思ったかと貴族達に尋ねていく。


「嘘だと思ったか?」「はい」

「お主も?」「ええ、はい」

「信じようとは?」「思いませんでした」


誰に聞いても、嘘だと思ったと答える。


当然だ、荒唐無稽な嘘だと誰もがわかっていた。


「お、おい…聞いているのか!」


イルドワンの掛け声は無視された。


数人の貴族に尋ねていけば、

国王は貴族の一人にこんな質問をした。




「よもや不正入学を信じるなんてことは無いじゃろうな?」




そして聞かれた貴族もこう答えた。




「ええ、




(…はぁ?)

イルドワンはその瞬間、腰が抜けそうになった。


国王が次の貴族にも質問を投げかける。


「お主はどうじゃ?」

「ええ、私も信じません」


同じように、首を横に振る貴族。


絶好のタイミングで、

不正入学を暴露するという

爆弾を投下したはずだった。


だが、この4人の寸劇で…全てが覆された。


慌ててウィルの方を見る。

すました顔で、国王が尋ねていく貴族達を眺めていた。


国王は気にも留めず貴族達に質問を繰り返す。


「お主も信じるか?」「いいえ、まったく」

「お主も」「ええ、信じられませんわ」

「どれが信じられない?」「不正入学から防衛隊まで全てですわ」


一通り聞き終えれば、国王がイルドワンの所にゆっくりと近づいていく。


「イルドワン」

「…な、なんだ」


国王は、満面の笑みでイルドワンに言い放った。





「楽しんでもらえたかのう?」





「ぐぅ…ぅ…!タヌキ爺め…!」


押し殺すように言葉を漏らしながら睨みつける。

その顔は今まで以上に真っ赤だった。


はた、と我に返れば、周囲の視線に気付く。


今となっては、イルドワンは…

噂話を本当だと信じ込み、恥を掻いた親として

哀れみの視線を周囲から注がれていた。


「ーーーッ!失礼するっ!」

「おおっと、どこに行くのかのう」


思わずその場から去ろうとした所、

国王に腕を掴まれる。


振り払おうとするが、しっかりと掴まれて中々払えない。


「…今日は、帰るとする。またお会いいたしましょう…国王陛下」


挨拶して帰ろうとするが、まだ腕は掴まれたままだった。


「そう言うでない…お主とどうしても話がしたいという奴がおるんじゃ」


「は…?」


話?誰が?と聞こうとした所に、

廊下から…低く、響くような声が大広間に届いてくる。


「…イィィィルドワァァァァン…!」


その声と同時に、カーン…カーン…と金属の音が廊下から鳴り響く。

そしてそれを聞いた一同は気付いた。


その金属音がだんだんと近づいてきている事を。


廊下をじっと眺めていれば、…そこには…

つい先刻程前に、牢屋に連れて行かれた男。


その男が、巨大な斧の柄で廊下を叩きながら歩いてやってきている。


「…息子に危害を加えようと画策しただけにとどまらず…

 牢屋に幽閉するとは…やってくれたなぁ!?」


先ほどまで顔を赤くし、怒りに震えていたイルドワンの表情が、

だんだんと、青く、生気を失っていく。


そして、力なく、名前を口にした。


「…ベック…」


ストランドフェルド・ベック、通称、親バカベック。

国王やイルドワンを囲んでいた野次馬貴族達も、

ベックの威圧に気圧され、蜘蛛の子を散らすように道を開けていく。


「おかげで…おかげで…」


カーン、と斧でフロアを叩き、立ち止まる。


斧を握る手は、ギリ、と音を立てる程に強く握られていた。



「おかげで…娘の晴れ舞台を見逃したわぁあああああ!!!!!」



「ひ、ゆ、許して!あ、ああああああああ!!!!」


情けなく泣き叫ぶイルドワン。

最期に見た光景は、ベックの顔が、悪鬼を通り越して、

地獄の神にも見える程、怒りに満ちた表情で

斧を振るう瞬間であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…ウィル…それに…グラーフ様…」


大広間でベックが暴れているのを後目に、

3人は野次馬達から離れて集まっていた。


エルの語り掛けに、グラーフはうん、と頷き、

ウィルは微笑みで返事を返した。


エルは勢いよく頭を下げ、涙を零した。


「ありがとう…2人とも…!」


床に水滴が落ちる。


イルドワンが不正入学について暴露した時、

エルは、間違いなく終わりを悟った。


だが、国王の機転、

そしてウィルとグラーフの協力によって

その難を逃れる事が出来た。


「礼なら国王に言え、俺はそれに乗っかっただけだ」

「でも…!」


顔を上げて、ウィルの方を見る。

エルの顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。


「はは、酷い顔だ。全て丸く収まったんだから

 笑ってくれ、エル」


ウィルが頬を撫でて微笑みかける。


「…はいっ!」


エルは心地の良い返事を返せば、

ぐしぐし、と涙を拭いて、満面の笑みを作った。


そこに割って入るようにグラーフは声をかけた。


「しっかし、不思議ですわ。

 ウィルパーソン様があんなにイキイキとボケるなんて」


確かに、とエルが頷いてウィルの方を見る。

ウィルといえば、学院では鉄仮面だの傍若無人だの

酷い言われ方で馴染みのある冷徹なイメージがあった。


しかし、舞踏会の途中から一皮むけたように、

笑顔が絶えない好青年となっている。


さらに、先ほどイルドワンに対して意気揚々と

防衛隊の名乗りとポーズをやってのけた。


「ああ、それについてだが…エルを見て学んだ事を実践しただけだ」

「私の…?」


自分を指差して首を傾げる。

しかし、喜劇やアドリブドタバタ舞台をやった覚えはあっても

防衛隊の真似なぞした覚えなんて無かった。


ウィルは、今は幕が下りた舞台を眺めながら語る。


「ああ、笑いには"溜め"…といっていいのか

 笑うための"火薬"が必要なのだろう。

 そしてハリセンや叫び等の起爆剤で爆発させる

 すると笑いが起こる…だろ?」


笑顔でウィルは語り始める。

そして確認するように、エルの方を向いて首を傾げる。


「俺は火薬に徹するため、全力を出した。

 …エルのようにな」


にこ、と微笑みながら解説し終えれば、エルの肩にぽん、と手を乗せる。

それに対してエルはにこ、と微笑みを返しながら言う。



「…そこまで考えていませんでしたわ」



「考えてなかったのですの!?」


慌ててグラーフのツッコミが入る。

エルは本からの情報を真似て

天性の勘で笑いを作り上げていただけだった。


「ぷ…あっはっはっは!」

「…あはは!あっはっは!」


思わずウィルが爆笑する。

つられて、エルも笑い始める。


グラーフはそんな二人を見て、やれやれ、と首を横に振っていた。


「はーぁ…もういいですわ」


しかし、その表情はどこか満足そうに笑っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次回、最終回です


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