異世界新正義伝説 アネーサ
藤﨑 涼
プロローグ ―嘆きの星と傷多き希望―
遥か彼方の何もない場所で、『 』の意思によって一つの惑星が創造された。
その星は岩石に覆われた何もないただの塊だったが、永い年月を経て輝きに彩られていき、ある時、その星に生物が誕生した。
『 』は愛する星が生んだその命を祝福し、生まれてくる尊い産声を慈しみ、儚く消えていく最期の灯りを愛した。
膨大な時の中で、生と死を繰り返していき、やがて生物は進化していく。
環境に適応し、様々な種に別れた生物は個性を獲得した。
その中でも、知能を得たものは大きく成長していく。
火を発見し、言語を作り、技術を発展させて、文明を築いた。
そして、その種は星を統べる王となり、種族は繁栄を極めたが、彼らは平和を放棄し、やがて、同じ種族同士で争いを始めた。それは自身たちを育んだ星をも巻き込み、他の生物と自然は、戦火の炎によって大きく減少していく。
『 』は哀しみ、激怒した。
輝く彩色を失い死にゆく星を哀れみ、愛する星を巻き込む種を憎んだ。
そして、『 』は自らが命を生み出し、星を救うためにその生命を遣わせた。
地上に降り立った生命は、星を支配するその種と文明を滅ぼし、生き残った数多の生物を進化させ、平和を願うよう知能を与えて、言語を統一すると、再び争いが起こらぬよう世界に禁忌の理を残し、涸れ果て死に逝く大地へ自らの命を捧げて、生命は使命の死に殉じた。そして、生命によって星は生気を取り戻し、死に逝く大地から輝きが甦ったのであった。
再び命に溢れた輝きの星は、暗き宇宙を照らし、『 』は生命へ深く感謝し、その尊い懇心に涙した。
そして、数百年の時が経ち、知能を得た種は新たな文明を築き、生命の世界再生の影響によって発生した、新たな法則を探求していった。
ある時、生命によって残された禁忌を悟り、その理を解いた種族が現れた。
その種族は自らを神と自称し、星を統べることを目的に大きく繁栄したが、その神たちの思想の違いから諍いとなり、それらは世界の座を賭けて世界を巻き込んだ争いを始めた。
生命の命の懇心は無駄に終わり、『 』は星の未来に諦観した。
その星の数ある因果の一つ、辿るその先の破滅を見据えて。
そして『 』は生物に失望し、愛した滅びの星と、かつては慈しんだ醜い命を捨てて、絶望に綴る可能性を切り放し、その運命の糸は因果の束から離れていった。
『 』に見捨てられた星は輝きを失っていく。
それでも彼らは争いをやめず、星を穢しつづけた。
やがて神を自称する者たちはその世界の全てを分断して、自身に恭順する種族だけを統べて国家を樹立、古代の文明を滅ぼした生命を擁立し、悟りえた理を都合よく解釈した教義を布教した神たちは、それを大義だと騙り、種族を煽動して破滅の戦争を続けた。
各国の神が世界の覇権を求めて争う中、神の教義を肯定しない種族たちもいた。
その中でも『森人』と呼ばれる種族は、生命により授かった知恵で平和を唱えていたが、それらの言葉は一部の種族にしか受け入れられなかった。
そしてその活動を邪魔に思う神によって、森人と教義に懐疑的な種族たちは様々な国から迫害を受け、数を減らしながらも、少なくなった自然へ逃げ延び、辛うじて生き残ることができた。
そんな彼らは、いつも絶滅の不安を抱えていた。
神の正気を疑えば迫害されて殺されてしまう。
神の狂気を信じれば、戦場に赴かされ殺されてしまう。
そして、逃げても神の戦争に巻き込まれ殺されて死んでいく。
残された家族は涙し、神へ恨みをもった誰かは戦いに赴き、そして死んで逝く。
負の連鎖が続く神の教義に、平和を愛するものたちは絶望し、暗黒の未来に怯えた。
だから、彼らは運命に祈った。
暗闇を照らす光を渇望し、悲しみの無い未来を信じて祈った。
だから、彼らは運命に願った。
多くの絶望を退かせ、世界に光輝く奇跡を信じて願った。
その祈りは世界を超えて、その願いは光を凌駕し、奇跡は嘆く弱者の声を聞いて、世界に救いの希望をもたらすと信じて。
数多の想いをのせた漂う因果の糸は、その希望に縋ってあてもなく彷徨い、次元を超え、時空を渡り、平行する星の可能性へ辿り着く。
そして、黒衣を纏った傷だらけの手がその糸を掴んだ。
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