第六章 懐かしの再会
第1話 再会しよう!
「おはようございますテオドルフ様!」
「うん、おはよう」
朝。いつものように村の中を散歩しているとエルフの村人に挨拶される。
彼らもすっかりこの村に慣れて、楽しく暮らしているみたいだ。
エルフはとても勤勉で、もといた人たちと一緒に村を発展させようと頑張ってくれている。植物に詳しい彼らは野菜の栽培技術も高くて助かっている。
新世界樹のおかげで土地も元気になっているみたいだし、いいことずくめだ。
「うん、こっちも異常はなさそうだね」
そう言うと、隣で歩いていたフェンリルのシルクが「わふっ!」と元気よく答える。
朝はこうやってシルクと一緒に散歩し、村の見回りをするのが日課になってきた。たまに瘴気が残っている土地が見つかったり、ゴーレムが故障したりしてしまっているので、そういうのを見つけたら対処しているんだ。
他にも家や道が壊れていたら、修繕している。
村の人たちとのコミュニケーションにもなるし、我ながらいい日課を作れたと思う。
「ふう、ある程度見て回れたから最後に世界樹に行こうか」
「わふ」
僕たちは最後に村の中心部にそびえ立つ、ニュー世界樹に向かう。
世界樹はすっかり大きく成長して、村のシンボルと呼べるものになった。今じゃエルフだけじゃなくて他の村人たちもお祈りをするようになっている。
世界樹の前には僕の石像があるので、まるで僕にお祈りをしているように見えてしまい、なんだか恥ずかしい気持ちになるけど……まあそれでみんなが少しでも安心できるならいいか。
聖樹の巫女、アンナさんの話によると、もうすぐ世界樹に
「世界樹も異常なさそうだね……ん?」
世界樹の側に来た僕は、ある人物を見つける。
その人は世界樹の前に鎮座している僕の石像の前でなにかをしていた。
「アイシャさん? なにをしているんですか?」
「へ?」
呼ばれたアイシャさんが振り返る。
僕の家にいる時はメイド服を着ている彼女だけど、今日はいつもの洋服に身を包んでいる。アイシャさんは僕に気がつくとぱっと顔を明るくして「あ、テオくん!」と嬉しそうに言う。
「おはよう。今日も見回りご苦労さま」
「はい。アイシャさんはなにをしていたんですか?」
「ふふ、テオくん石像を綺麗にしていたの。ほら、ピカピカでしょ?」
見ると確かに僕の石像はピカピカに磨かれていた。
なんかお供え物もしてあるし、本当に神様みたいな扱いをされている……。
「あの、綺麗にしてくれるのはありがたいですけど、やらなくても大丈夫ですよ? 僕の石像なんてあっても仕方ないですし」
「そんなことないよっ! テオくんはすっごい人なんだから、ちゃんとそれが伝わるようにしないと!
それにほら、こんなに凛々しくて可愛く作ってもらったんだから、綺麗にしとかないともったいないよ。ね?」
「うう……分かりました」
アイシャさんの熱意に押し負け、僕は言葉を引っ込めてしまう。
レイラの影響か、アイシャさんも最近ぐいぐい来るようになった気がする。時々熱い視線を感じることもあるけど……気のせいだよね?
「でもアイシャさんは他の仕事もあるのに、大丈夫なんですか? 少し働き過ぎじゃないですか?」
「そんなことないよ。朝は野菜のお世話に羊さんたちのお世話。道の掃除を少しして、後は世界樹さんの周りを綺麗にするくらいかな? それが終わったらメイドのお勉強まで少しお休みできるし……」
「いや働きすぎですよ!」
僕のツッコミにアイシャさんは「?」と首を傾げる。
特殊な能力こそ持ってないけど、アイシャさんもスペックが高いよね。村のまとめ役もそつなくこなしているし、今の村になくてはならない存在になっている。
「あ、そうだ。私が育ててるお野菜、最近すっごく育ちがいいの! 今度テオくんにも食べてほしいなっ」
「へえ! ぜひ今度食べさせてください」
などと他愛もない話をしていると、遠くからドタドタとこちらに向かってくる足音が聞こえてくる。
「テオドルフ様! こちらにおられましたか!」
「え?」
見ると門番をしている兵士の一人がこちらに走ってきていた。
慌てている様子だけど……なにがあったのかな? もしかしてモンスターが来たとか? 僕は少し
身構える。
「どうしましたか?」
「実は馬車が一台、正門にやって来て……」
「珍しいですね。なんの用でしょうか」
「それが……その者はテオドルフ様に会いに来たと申しておりまして」
「僕に?」
想像もしてなかった言葉に、僕は驚く。
いったい誰が会いに来たんだろう? 父上や兄のニルスが会いに来るとは思えない。他に知り合いはほとんどいないし、想像がつかない。
「分かりました。ひとまず会いに行きます」
「了解です!」
考えても分からない、僕は会いに行くことに決める。
アイシャさんと別れ、シルクと一緒に正門へ向かう。正門にはゴーレムのゴームもいる。いざという時はなんとかしてくれるはずだ。
「あれです!」
正門に向かうと一台の馬車が目に入る。
見た目こそ目立たない普通の馬車に見えるけど、よく見るとその造りはしっかりしている。偉い人がお忍びで乗っているのかもしれないね。
そしてその馬車に乗っていたと思われる大柄の人が、門番の人となにやら話している。
背中を向けてて顔は見えないけど、堅牢そうな甲冑を身に着けているのは見て取れた。腰には剣を差しているし、騎士なのかな? いったいここになんの用だろう。
僕は話をしている二人のもとに急ぐ。
「あの、どうされましたか?」
「あ、テオドルフ様! この人がテオドルフ様に会いたいと……」
門番の人が僕の名を呼ぶと、騎士の人が「なに!?」と大きな声を出す。
あれ? この聞き覚えのある声は……。
「うおおおお!! 久しぶりです殿下ぁ! 会いたかったですぞ!!」
「うわ!?」
騎士の人は僕の顔を見ると突っ込んできて、僕のことをぐわっと持ち上げる。
この野太い声と、豪快な愛情表現。そして暑苦しい顔は……間違いない。
「ガーラン!? どうしてここに!?」
「もちろん殿下に会うためです! 大きくなられましたな! 嬉しい限りです!」
約2年ぶりに会ったガーランは、変わらない笑顔を浮かべながら、そう言うのだった。
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