第2話 ガーランと話そう!

 王国騎士、ガーラン・エイガス。

 王妃である母上のお付きの騎士だったガーランは僕とも親交が深く、母上が存命の時はよく相手をしてもらっていた。

 しかし母上が亡くなって少しすると、ガーランは王都から地方都市に飛ばされてしまい、それ以降会うことはなかった。

 できれば僕のお付きの騎士になってほしかったけど、母上が亡くなり、発言権がなくなった僕にガーランを引き止めることはできなかった。


 もしかしたらもう会うことはないのかもしれない。

 そう思っていたのに、ガーランはここにやって来た。父上やニルスがそんなこと命じるわけがないし……いったいなんで?


「ははは! しかしまだ体は軽いですな! ちゃんと食べておられるのですか?」

「ちょ、がーらん、目が」


 持ち上げられたまま、ぐるぐると回られ僕は目を回す。

 それに気づいたガーランは「おっと、すみませぬ」と回るのをやめて下ろしてくれる。この雑なスキンシップの取り方は変わらないなあ。


「えっと、ガーランはなんでここに? 確か地方の都市に配属されたんだよね?」

「はい。一度は王都を追われ、国境沿いの警備をしておりました。しかし殿下をお護りするが我が使命。王都に戻るべく、武勲を上げ出世街道を爆走しておりました!」

「僕のためにそんなことを……ありがとうね、ガーラン」


 ガーランは僕のせいで地方に飛ばされた。だから僕のことを恨んでいてもおかしくないと思っていた。

 だけどガーランは僕のために王都に戻ろうと頑張ってくれていたんだ。それを聞いて目頭が熱くなってしまう。


「私は順調に武勲を上げ、あと数年も経てば王都に戻れるほど出世しました。しかしそんな矢先、ある情報を耳にしたのです。そう、殿下あなたが王都を追放されたと」

「あ……」


 そうだ、せっかくガーランは王都に戻ろうと頑張ってくれたのに、僕が王都から離れてしまった。これじゃあいくら頑張ってもガーランの目標は達成できない。

 王都に戻ることはできても、北の大地に行くことはニルスが絶対に阻止するだろうからね。


「私は書面にて陛下に請願しました。殿下の側につけてほしいと。しかしその願いは聞き入れてもらえず却下されました。もしそれをしようとしたら『騎士爵』を取り上げるとまで言われました」


 騎士から『騎士爵』を取り上げると言うなんて、あまりにもひどすぎる脅迫だ。

 平民の出であるガーランが『騎士爵』を取るのは並大抵の苦労じゃなかったはず。それを奪うなんて死ねと言っているようなものだ。

 さすがに父上がそこまで言うとは思えないから、おそらくニルスが書状を横取りして勝手に返事をしたんだと思う。相変わらず姑息なことをする。


「そうだったんだ……ごめんねガーラン。騎士爵を捨てるなんてできるはずがないよね」

「いえ、捨ててきました」

「うんそうだよね、ここまで来てくれただけでも嬉し……って、ええ!?」


 ガーランのまさかの言葉に僕は声を出して驚く。


「う、うそ!? 爵位なんて一度捨てたらもう手に入るものじゃないんだよ? それなのに捨てたって……」

「殿下、騎士とはほまれなのです。弱きを助け、悪しきを挫く。そのために私は騎士になりました。しかし今の王国に誉はありません。貴族は裏で怪しげな連中と手を組み、王都も腐敗しつつある。地方都市など悲惨です。多くの民が飢えや病で苦しんでいます」


 ガーランは苦虫を噛み潰すような表情で言う。

 確かに地方の都市や村の現状はよくないと聞く。アイシャさんたちも飢饉や野盗の出現で村を追われて北の大地まで逃げてきたしね。


「騎士であることを捨てたことに、名残惜しさはあります。しかし後悔はございません。王国騎士であり続けることよりも殿下、あなたに仕えた方が誉ある行いができると私は思っています」


 ガーランはそう言うと、僕の前にひざまずく。


「ですのでどうか今一度、私をあなたの剣にしていただけませぬか」

「ガーラン……ありがとう。僕でよければ、うん。よろしくお願い。力を貸してほしい」

「ありがとうございます殿下。このガーラン、この命に代えましても貴方をお護りすることを誓います」


 こうして僕の村に、また新しい仲間が加わった。

 ガーランは戦闘経験豊富な剣士だ。戦闘訓練を指導するのも上手なはず。これでこの村ももっと強くなるはずだ。


「そういえば僕が北の大地にいるってどうやって知ったの? 父上からの書状に書いてあったの?」

「いえ、殿下がどこに追放されたかは秘匿されておりました。私が助太刀に行くことを危惧されたのでしょう。ですので今回は、ある方に力をお借りしました」

「ある方……?」


 誰だろうと首を傾げると、ガーランは馬車に近づき扉を開ける。

 するとその中から、ある人物が姿を現す。

 その人は20歳前後の男性で、整った顔立ちをしている。長い金髪を一つにまとめ、動きやすそうな格好をしている。

 来ている服は飾り気のない、質素なものだけど、その立ちふるまいや顔立ちからは気品を感じる。


 門番の人たちは「誰だ?」と不思議そうにしているけど……僕はその人に見覚えがあった。

 その人は僕のことを発見すると、嬉しそうに近づいてくる。


「やあ、久しぶりだねテオドルフ。元気そうでなによりだ。こうして会うのは何年ぶりだろうか」

「……お久しぶりです、パトリック兄さん・・・。なんでここに?」

「ふふ、かわいい弟に会うのに理由がいるかい?」


 僕、そしてニルスの兄であり、フォルニア王国第一王子のパトリック・フォルレアンは笑みを浮かべながらそう言うのだった。

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