閑話2 女神の喫茶店
「……あれ? ここはどこ……?」
ある日、気がつくと僕は見覚えのない場所に座っていた。
そこはどこかの『喫茶店』のように見える。クラシックで小綺麗な、ちゃんとした喫茶店だ。
そこの一席に僕はなぜか座っていた。
「えーと、確か僕は寝たはずだけど……」
レイラに連れ去られ、凄い目にあった後、僕はへとへとで寝たはず。
そして気がついたらここにいた。どう見てもここは僕の部屋じゃないし、僕の村の中でもない。
「ということはヘスティアさんに呼ばれたのかな? でもいつもの場所と違うよね」
僕をこの世界に呼んだ女神ヘスティアさん。
彼女はたまに僕を不思議な空間に呼んでは、力を与えたり貴重な物をくれたりしてくれる。
いつも寝ている時にそれをしてくれるから、今回もそれなのかと思ったけど、今日は雰囲気が違う。呼ばれる時はいつも周りが真っ白な不思議空間だけど、今回は屋内だ。いったいどうなっているんだろう。
周りを観察しながらそわそわしていると、喫茶店の扉ががちゃっ、と開いて中に誰かが入ってくる。
「あ! やっと来た! 待ってましたよテオくん!」
そう言ってぱたぱたと近づいてきたのは、女神のヘスティアさんだった。
どうやらここに呼んだのはヘスティアさんみたいだ。だけどこの場所と同じように、彼女もまたいつもと様子が違った。
「こんにちはヘスティアさん。あの、その服装は……」
「あ、気づいちゃいました? どうですか、似合いますか?」
そう言ってヘスティアさんはその場でくるりと回って着ている
手にはおぼんを持っていて、その上にはアイスコーヒーが置かれている。
「はい。可愛らしくてとってもお似合いです」
「ほんと? やった♪」
ヘスティアさんは嬉しそうにガッツポーズを取ると、アイスコーヒーを僕の前のテーブルに置いたあと僕の隣に座ってくる。
この人、神様にしては親しみが持てやす過ぎる。他の人がヘスティアさんを見たらびっくりするだろうなあ。
「どうして今日はいつもと違う場所なんですか? それにヘスティアさんの服装もいつもと違いますし」
「テオくんが頑張ってるから、私もいつもより特別に労わないとダメだと思ったの。テオくんはメイドさんが好きみたいだから、じゃん! メイドさんになってみました! ふふ、人間の服を着るのは初めてだけど、可愛くて気に入っちゃった」
ヘスティアさんはそう言いながら体を密着させてくる。
自分がメイド好きと思ったことはなかったけど、確かにいつもよりドキドキする。もしかしたら気づかぬ内にレイラにメイド好きという性癖を植え付けられていたのかもしれない。お、おそろしい……。
「それにしても大活躍ですねテオくんは! エルフを助け、世界樹まで救ってしまうなんて! テオくんを召喚した私は鼻が高いです、えっへん」
「そんな。みんなが頑張ってくれたおかげですよ」
「謙遜のしすぎですよ、テオくんは他の人ではできないことをしてくれてます」
「そうだよ。君の凄さはこの私も認めるところだ」
「わっ!?」
突然ヘスティアさんの逆隣から声がして、僕は驚く。
いそいでそっちを見てみると、そこにはもう一人の女神様、アテネさんがいた。赤い髪をした彼女は、なぜかヘスティアさんと同じようにメイド服を着ていた。
「こんにちは。アテネさんもいらっしゃったんですね」
「ああ。こんな格好ですまないね、ヘスティアが無理やり着せるものだから」
「ヘスティアさんがその服を作ったんですか?」
アテネさんは僕の質問に頷く。
「ああ、ヘスティアは窯の神。火と創造を司る神なんだ。服を作るくらいお手の物というわけだ。こう見えてこのぽんこつ女神は神の中でも上位の能力を持っているんだ」
アテネさんの言葉にヘスティアさんは「えへへ……」と照れる。
どうやらぽんこつの部分は聞こえてないみたいだ。
「私にはこんな可愛らしい服似合わないと言ったんだけどね。見苦しいものを見せて申し訳ないよ」
「え? そんなことないですよ、とてもよくお似合いですよ」
確かに中性的な見た目でキリッとしているアテネさんがメイド服を着るのは意外だけど、全然似合っているし、可愛らしい。
なので僕は素直な感想を言ったんだけど、アテネさんは驚いたように目を丸くした後、薄く笑みを浮かべる。
「……へえ、そうやって他の子も落としてきたわけだ。可愛い顔して末恐ろしい子だねキミは」
「え? どういうことですか?」
「こういうことさ」
そう言うとアテネさんは顔を寄せてきて、なんと僕の頬にキスしてくる。
突然のやわらかい感触に僕は驚き、体をびくっと震わせる。
「え、え!?」
「ふふ、可愛い反応だ。ヘスティアやアリスが夢中になるのも頷ける。私の加護を渡すだけに留めておくつもりだったけど、もう少し楽しんでもいいかもしれないね」
「ちょっとアテネ!? 私のテオくんになにしてるの!!」
二人の女神様は僕の腕をつかんでぐいぐいと引っ張り合う。
まさか神様に取り合いされる日がくるとは思わなかった。やわらかいものが体のあちこちに当たって凄いドキドキしてしまう。
「とにかく! 今日はとっても頑張ったテオくんを私たちが労います! ふひひ、たくさん可愛がってあげますからね……!」
「顔が怖いよヘスティア。しかし……今日ばかりは私も興が乗ってきた。未来の英雄様にご奉仕させてもらうとしよう」
「え、いや、あの……」
ずい、と近づいてくる二人。
その後僕はとても美味しいケーキやコーヒーを食べさせてもらったり、膝枕してもらったり、キスされたりハグされたりと、二人の女神様にたっぷり甘やかされたあと、元の世界に帰ったのだった。
あ、そういえば帰り際に
これついでに渡すようなものじゃないと思うんだけど……まあいいか。
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