第13話 VSレイラ

自動製作オートクラフト、剣!」


 テオドルフがそう叫ぶと、ガーランの手にある折れた剣が新品の物に生まれ変わる。それを握ったガーランは盾で殴りつけ体勢を崩した後に力の限り斬りつける。

 レイラはその一撃を剣で受け止めるが、体重差に押されいったん後ろに退避する。


「ありがとうございます殿下、助かりました。怪我はされてませぬか?」

「うん! 僕は大丈夫から気にしないで!」


 ガーランの背に乗ったテオドルフが答える。ちなみにテオドルフは鎧の背中部分の形を自動製作オートクラフトの力で変形させ、乗りやすいようにしていた。


 テオドルフが加勢したことで、不利だった戦況は拮抗するまで盛り返していた。

 武器や防具を破壊してもたちどころに直ってしまうので、レイラは攻めあぐねていた。


 しかしガーランもまた、消耗していた。

 背中に子どもの重さがかかっていることは、怪力の彼にとってたいしたことではない。しかし守るべき対象を背負いながら戦うというのは、心がすり減るものであった。

 もしこの攻撃を防げなければ、背中にいる殿下に当たってしまうのでは――――と、戦いながら常に神経を使わなければいけなかった。そのせいで攻撃はいつもより慎重になり、こちらも攻めあぐねていた。


 そんな中、テオドルフだけは自分の力をいかんなく発揮していた。


(もっと役に立つんだ。もっと――――!)


自動製作オートクラフト石ブロック(小)!」


 レイラの足元に小さな石の塊が出現する。

 それ単体はただの石でしかなく、特殊な力は持っていない。いつものレイラであればひょいと避けて終わりだろう。

 しかし戦っている最中ではそうはいかない。ガーランとの戦いに集中していたレイラは突如足元に現れた石に足を取られてしまう。


「っ!?」

「隙ありぃ!」


 一瞬の隙を見逃さず、ガーランは大盾で思い切りレイラを殴りつける。

 寸前で剣を間に入れ防御するレイラであったが、その衝撃を受け止めきることはできず後方に吹き飛ばされ、置いてあった木箱の山に激突し激しく埃を舞い散らす。


「ははっ、やりましたな殿下」

「……うん」


 そう答えるテオドルフであったが、その顔は明るくなかった。

 確かに優勢になりつつはあるが、このまま戦いを続けていたらガーランとレイラのどちらかが命を落としかねないと彼は思っていた。

 狙うべきはレイラの首についている呪いの魔道具『隷属の首輪スレイブカラー』であることは分かるが、素早いレイラのそれを外すのは容易ではない。


「ガーラン、なんとかレイラさんの動きを止めることはできないかな?」

「ふむ、そうですな……」


 テオドルフの問いに、ガーランは少し考え込む。


「難しいですが、やってみましょう。お任せ下さい」


 ガーランはそう頼もしく言うと、レイラに向かって突進する。

 起き上がったレイラはそれを見ると、冷静に剣を構える。そして盾と剣で守られている隙間を見極め……鋭い突きを放つ。


「ぐ……っ!」


 ひゅ、という風を切る音と共に放たれたその突きは、なんとガーランの腹部に深く突き刺さってしまった。焼けるような痛みが腹部を駆け巡り、ガーランは痛そうに顔をしかめる。


「ガーラン大丈夫!?」

「安心して下さい殿下……むんっ!」


 ガーランはなんとその状態で盾と剣を捨てた・・・

 そして空いた左手でレイラの剣を握る右手をつかみ、逆の手で同じようにレイラの左手をつかんで動きを抑える。


「……っ!!」

「ふふ、こうされてはレイラ殿も動けますまい。我が鋼の腹筋による拘束、貫くことはできても動かすことはできませんぞ」


 レイラは必死に剣を抜こうとするが、ガーランの腹筋がしっかり刀身をつかんでそれを許さない。剣を離して逃げようにも、手を両手でしっかりと握られてしまっているのでそれも不可能。

 レイラはその場から動くことができなくなってしまった。


「殿下! 今です!」

「うん! ありがとうガーラン!」


 テオドルフは礼を言うとガーランの背を登りきり、レイラのもとへ急ぐ。

 両手が使えない今なら首輪をどうにかできるはず。そう思うテオドルフであったが、レイラは不測の事態にも冷静に対処する。


 抜けないのなら、押し込めばいい。

 レイラは剣を握る手を引くと見せかけ、逆に押してみせた。しかも手をひねりながら押したので、ガーランの腹部は大きなダメージを負う。


「ぐう!?」


 突然の痛みに呻くガーラン。

 そのせいで拘束が緩んでしまい、レイラの左手が自由になってしまう。


 レイラは空いた手を向かってくるテオドルフに伸ばし、首をつかんで捕まえる。


「が……っ」


 首を捕まれ苦しそうに顔を歪めるテオドルフ。

 首をつかむ力は徐々に上がっていく。このままではテオドルフの首がへし折られてしまうと思われた次の瞬間、部屋の扉が開き中にアリスが入ってくる。


「ごめん遅れた……って、なにやってんのよあんた!」


 テオドルフが首を絞められている場面を目撃したアリスは激昂し、レイラに向かって火球を放つ。

 レイラの顔めがけまっすぐと飛ぶ火球。両手が塞がっているレイラは避けることも防ぐこともできず、その火球を食らってしまう。

 アリスの放った火球は速度特化の魔法であり、たいした威力はない。しかしその攻撃はレイラの意識をテオドルフから離すことに成功した。


(今だ!)


 自分から意識が外れていることに気づいたテオドルフは、首をつかまれたまま手を伸ばし、レイラの首輪に手をかける。

 今この時もテオドルフは首を絞められているので、意識はだんだん遠ざかっている。それでも彼は必死に首輪を外そうとあがく。


「ぐ、硬い……」


 首輪をつかんで動かしてみるが、その首輪は頑丈でありビクともしない。他の二人ならともかくテオドルフの腕力で壊すのは不可能そうだ。


(やっぱり固く装着されてる、普通に外すのは無理だ。だったら……!)


 テオドルフは意識が遠くなっていくのを感じつつも、頭をフル回転させて状況の突破を図る。


自動オート……製作クラフト!」


 壊せないのなら、作り直せばいい。

 テオドルフは『隷属の首輪スレイブカラー』自体を素材とし、『隷属の首輪スレイブカラー』を作り直したのだ。

 作り直した『隷属の首輪スレイブカラー』は、同じ場所ではなくレイラの首から外れた場所に作った。そうなると当然首輪はレイラから外れることとなり、カランとその場に落下する。


 首輪が外れたレイラは目に生気が戻り、そしてその場に倒れる。


「レイラ殿!」


 急いでガーランがその体を受け止める。

 魔道具が外れたことでなにか悪いことが起きてないかと心配するが、レイラは無事なようであった。


「レイラさんは大丈夫?」

「はい、ご安心下さい。少し意識を失っているだけです」

「そう、それは……よかった」


 そう言ってテオドルフも意識を失うが、アリスが彼を受け止める。


「まったく無理しちゃって。世話が焼けるんだから」


 アリスはそう言いながらも、彼の頑張りを労うように彼の頭をなでるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る