第12話 作戦決行

 ――――正午過ぎ。

 テオドルフたちが裏で動いている間に、王城では国王ガウスが姿を現していた。


 王城上部のバルコニーに現れた彼は、眼下の来賓に挨拶を始める。

 挨拶の内容は自分の誕生祭へ来てくれたことへの感謝や、王国の益々の発展を約束するといった、ありきたりなものであった。

 ガウスの後ろには王妃のイザベラも控えており、誕生祭の会場を確認していた。


(テオドルフはうまくやっているかしら……?)


 イザベラはそれとなくテオドルフの姿を探すが、人が多いため見つかることはなかった。

 一方、来賓たちが集まっている会場では、一人の女性が機を窺っていた。


「…………」


 イザベラを討つよう命令されていたレイラは、この時を待っていた。

 普段人前に姿を現さないイザベラを襲うことができる機会は限られている。側に国王のガウスがいるという状況ではあるが、イザベラを狙うには絶好の機会であった。


 前夜の内に会場に隠していた剣を取り出すレイラ。

 心の中では必死に抵抗するが、魔眼と首輪の力により体は勝手に動いてしまう。


 来賓たちがガウスとイザベラに注目する中、レイラは剣を構える。

 足に力を込め、神速の一撃を放とうとしたその瞬間、それは起きた。


「なんだ!? 花火?」


 突如「パン!」という音と共に、空に火花が浮かび上がる。

 色とりどりの花火に来賓たちの目は奪われ、彼らは歓声を上げる。しかし花火を上げる予定など知らなかったガウスや王国の兵士たちは突然のことに困惑する。


 そんなその場にいた全員の視線が空に釘付けになる中、誕生祭の会場を大きな影が高速で駆け抜ける。

 その影はまっすぐにレイラのもとに向かい、剣を持った彼女の腕を押さえつける。


「……っ!?」

「またお会いできて嬉しいですぞレイラ殿。お楽しみの中悪いですが……少しお時間をいただきます」


 そう言って笑みを浮かべたのは、騎士のガーランであった。

 レイラは抵抗しようとするが、ガーランの剛腕は彼女の動きをしっかりと封じていた。


 このままではイザベラを逃してしまう。焦ったレイラは腕を振りほどくのを諦め、蹴りでガーランを攻撃しようとするが、その瞬間足元の石畳が形を変える。


「――――っ!?」


 突然の自体に困惑するレイラ。

 ちょうど人二人分通れるほどの穴が床に空き、レイラとガーランは組み合ったまま落下する。

 そして落ちた後はすぐに穴は塞がれ、二人がいた痕跡は会場になにも残らなくなる。


「いだっ!」


 会場の下に位置する大きな部屋に落下したガーランは受け身を取り損ない痛そうな声を出す。一方レイラは掴まれていた腕の拘束が緩んだ隙に抜け出し、距離を取る。


「ふふ、これでイザベラ様を狙うことはできまい。上手くいきましたな、殿下」


 立ち上がったガーランが得意げに言うと、彼の後ろからテオドルフが姿を現す。

 緊張している様子だが、その目には強い決意が見て取れる。


「アリス殿が魔法の花火で注意を引いている間に、殿下の力でレイラ殿を閉じ込める……正にチームワークの勝利といったところでしょうか」

「ガーランのおかげだよ。自動製作オートクラフトで穴を作ったところで押さえつけてなきゃ簡単に逃げられちゃっただろうからね」


 テオドルフは今回の作戦を立てるにあたり、自分の『自動製作オートクラフト』の能力をガーランに話した。

 なぜそのような力を持っているのか、普通なら気になるところであるが、ガーランは深く聞くことはしなかった。


「さて、後はあの首輪を壊してしまえば全て解決ですかな? 私一人でどうにかできるかは分かりませぬが……頑張るとしましょう」


 ガーランはあらかじめこの部屋に用意していた剣と盾を手に取り、構える。

 するとレイラも手にした剣を構え、迎撃の体勢を取る。


「――――参る」


 ガーランはそう言うや、その巨体に見合わぬ速度で踏み込み、斬りかかる。

 その一撃に情け容赦はまったくなかった。手加減をすればテオドルフやイザベラに被害が及んでしまう。それを回避するためであれば、たとえ相手が知り合いであったとしても容赦するわけにはいかない。


「はあああっ!!」


 ガーランは雄叫びを上げながら何度も斬りかかる。

 しかしレイラはその攻撃を冷静に見極め、回避し、さばいていた。洗脳状態にあっても彼女の剣士としての実力は衰えていなかった。

 彼女はガーランの動きを見極めると、攻撃後の隙を突き、鋭い斬撃を放つ。


「ぐ、さすがに速い……!」


 大盾でなんとかレイラの攻撃を防御するガーラン。もしあと少し防御が遅れていたら首を斬られていたかもしれない。

 少しでも対応を誤れば、死に繋がる。ギリギリの戦いに額に汗が浮かぶ。


 そしてその戦いを間近で見ていたテオドルフもまた、手に汗を握っていた。

 彼の役割は自動製作オートクラフトの能力でレイラをこの場に閉じ込めること。その役割はすでに果たしているのでこの場から離れてもよいのだが、テオドルフはまだ自分になにかできるのではないかと考えていた。


「――――ッ!」

「が!?」


 レイラの鋭い剣閃が奔り、ガーランの持つ大盾にヒビが入る。

 彼女の持つ剣は質の高い名剣であるが、ガーランの持つ盾は一般的な王国騎士が使う物であり、その品質には大きな差があった。

 そのせいでガーランの盾の耐久力は限界を迎えていた。


「はは、これは少し……まずいかもしれぬな……!」


 ガーランは戦いながら強気に笑うが、戦況は悪化の一途をたどっていた。

 レイラもガーランの盾が限界を迎えつつあることには気づいている。ヒビが入った箇所を執拗に攻撃し盾を破壊にかかっている。


「おわっ!?」


 なんとか攻撃を耐え凌いでいたガーランであったが、猛攻に耐えかね体勢を崩す。

 それと同時にレイラの鋭い攻撃が大盾に命中し、ついに盾は壊れてしまう。


 盾がなくなればレイラの猛攻を受け止めることは不可能。眼の前まで迫りくる凶刃を見据えながらガーランは死を覚悟する。しかし、


「ガーラン構えて!」


 背後から投げかけられる声。

 ガーランはその声に従い、壊れた盾を構える。それは考えて行った行動ではなく、騎士として反射的に行った動作であった。


 そしてその声を放った主は、ガーランの背中に飛び乗り自らの力を発動する。


自動製作オートクラフト大盾おおだて!」


 壊れた素材を再利用し、大盾が再び姿を取り戻す。

 新品同然の姿となった大盾は、再びレイラの剣を受け止め騎士とその主を守る。


「ガーラン! 僕も戦う! いくら武器や防具が壊れても僕が直すから!」

「……っ! はは、これはなんと心強い。負ける気がいたしませぬ!」


 ガーランは心底楽しそうに笑うと、背中にテオドルフを乗せたままレイラとの戦いに臨むのだった。

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