第10話 無力
レイラが操られていることに気がついたテオドルフ。
彼女を操っている者が誰なのかは分からなかったが、このままでは絶対によくないことが起きると、それだけは分かった。
(急いでこの首輪を外さないと……!)
テオドルフは首輪に手をかけようとする。
今ならまだ大事になる前に止められる。しかしテオドルフの手はレイラにパシッと弾かれてしまう。
「
少し赤くなった手を痛そうにさするテオドルフ。
見た目こそ華奢な印象を受けるレイラであるが、その力は並の冒険者を遥かに凌ぐ。身体能力はただの子どもであるテオドルフでは、逆立ちしたって敵うはずがない。
「失礼します」
レイラは短くそう言うと、痛そうにするテオドルフを無視して人混みの中に消えていく。その背中を見ながらテオドルフは焦りを募らせる。
(このままじゃまずいよね……でもいったいどうすればいいの!?)
国王誕生祭に現れた、洗脳された凄腕の剣士。なにかよくないことが起きようとしているのは明白であった。
狙いは国王ガウス、王妃イザベラ、もしくは来賓の誰かであろうとテオドルフは当たりをつける。先ほどの反応からして少なくとも自分は標的ではないと彼は思った。
「足止めはできても数分、首輪を触るのは拒否されちゃったし……やっぱり父上に言うしかないのかな……」
いくら好かれていないとはいえ、テオドルフはガウスの息子である。
何が起きているかを話せば、それなりの対応はするであろう。この城にはたくさんの兵士がいるし、ガウス自身も『ギフト』により強大な力を持っている。
いかに優れた戦士であるレイラとはいえ、それら全てを相手取ることは不可能であろう。
ガウスに報告すればレイラの暴走は止めることができるように思えた。しかし、
「……いや、駄目だ。たとえ洗脳されていたとしても、父上はレイラさんを許さない」
ガウスは敵と認識したものに情け容赦がないことを、テオドルフは知っていた。
前に臣下の一人が裏切った時には、弁明を聞き入れることなく処刑していた。愛する妻の命を狙ったとあれば、制裁はその時以上のものとなるだろう。
レイラと過ごした時間は短いが、それでもテオドルフの数少ない知り合いの一人である。死んでほしくはなかった。
それになにより、彼女が死ねば悲しむ人がもう一人いる。
「母上……」
王妃イザベラはレイラのことを気に入っている。当然深く悲しむだろう。
それにレイラが操られることになったのは、元を正せばイザベラがレイラに接触したことが原因だ。そのせいで操られ、そして罪を着せられ処刑される。
きっとイザベラは自分のことを責めるだろう。それが原因で体調が悪化し死んでしまうかもしれない。
「そんなこと、僕がさせない……!」
テオドルフは小さく呟き、決意する。
父を頼ることなく、この事件を解決して見せる、と。
「でもどうしよう……いくら
テオドルフはレイラの実力を実際に目の当たりにしている。
人並み外れた腕力と目にも留まらぬ速度。そして見とれてしまうほど研ぎ澄まされた技の数々。
いくら『
「拘束する物を作って……だめだ。手錠でも壊されるだろうし、そもそもそんな隙あるわけがないよね」
必死に策を練るテオドルフだが、考えれば考えるほど絶望感が深まる。
やはり自分では駄目なのか。悲嘆に暮れながらふらふらと歩いていると……
「あ、やっと見つけた! こんなとこでなにふらふらしてんのよ、テオ」
「へ……?」
突然名前を呼ばれ、テオドルフは俯いていた顔を上げる。
するとそこには彼の数少ない友人の一人がいた。
「あ、アリス!? 戻って来てたの!?」
「当たり前じゃない。国王陛下の誕生祭なんだから」
勇者の力に目覚めた少女、アリス。
テオドルフの友人である彼女も国王誕生祭に参加していた。
王都の中で勇者としての修行を受けることが多かったアリスだが、ここ最近は王都の外でモンスターを相手に修行をすることも多くなっていた。しかし今日は国王誕生祭ということで戻ってきていたのだ。
「はあ、面倒くさい修行が休めるのはいいけど……このひらひらした動きにくい服を着なきゃいけないのがイヤね」
普段は動きやすい服装をしているアリスであったが、今日この日はかわいらしいドレスに身を包んでいた。
普段とは違いギャップのある彼女の格好にテオドルフは少しドキッとしてしまうが、すぐに自分の置かれている状況を思い出し表情が暗くなる。
それに気づいたアリスはむっとして唇を尖らせる。
「なによ、せっかくおめかししているっていうのに、褒めてくれないの?」
「あ、ごめんね。凄い似合ってるしかわいいよ、うん」
「う~ん……なんかいまいち心がこもってないわね」
「そ、そんなことないよ」
取り繕うテオドルフだが、アリスは野生の勘でそれが嘘であると見抜く。
そして彼が嘘をつくほどの『なにか』が起きていることも同時に勘づいてしまう。
「まったく……なにしょぼくれた顔してんのよ。らしくないわよ」
アリスはそう言うとテオドルフに近づき、真剣な表情で彼に語りかける。
「隠そうとするなんて水臭いじゃない。私に言ってみなさい、私がなんとかしてあげるから」
勇者アリスはそう言い放つと、頼もしい笑みを浮かべるのだった。
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