第9話 国王誕生祭

 ――――国王誕生祭当日。

 年に数度しかない王都を上げてのお祭りということで、王都は活気に満ち溢れていた。


 広場には出店が溢れ、市民たちは楽しそうに祭りを楽しんでいる。

 王城にも多くの来賓が訪れており、城に勤めている者はその対応に追われていた。


 そんな皆が楽しそうにしている中、退屈そうにしている少年がいた。


「暇だなあ……」


 眼下にうごめくたくさんの人を見ながらそうため息をついたのは、第三王子のテオドルフであった。

 パーティ用の服を着て、いつもより着飾ってはいるものの、その心は暗かった。


「母上は楽しんできなさいって言ってたけど、どうすればいいんだろう。人混みは嫌いだし、知り合いなんていないよ……」


 テオドルフは友人が少ない。いやほとんどいない・・・と言ってもいいだろう。

 普段の話し相手は母親のイザベラか騎士のガーランがほとんど。今日はその二人とも来賓の相手で忙しくテオドルフに構っている暇はなかった。


 なので今彼はこうして自室の窓から外をぼんやりと見ている。本来であれば王子として来賓と交流した方がいいのだろうが、それはあまり気乗りしなかった。


「でもこのままずっと引きこもってたらまた父上に小言を言われそうだし、そろそろ出ようかな……」


 面倒くさそうにしながらも、テオドルフは立ち上がる。

 彼と父ガウスの仲は、よいものとは言えなかった。テオドルフ自身は父とも仲良くしたいとは思っていたが、ガウスがテオドルフのことを遠ざけていたのだ。

 その理由はイザベラにある。

 元々体の弱かったイザベラであるが、テオドルフを出産してから一層その傾向は強くなった。一日のほとんどをベッドの上で過ごし、体は日に日に細くなっていった。

 もしテオドルフがいなければ、イザベラはこのようにはならなかったのではないか。口には出さずともガウスはそう思うようになってしまっていた。


 当然それがやつあたりであることはガウスも理解していた。しかしだからといって一度こびりついてしまったその感情は簡単には払拭できない。

 ガウスは他の二人の息子。特にニルスに目をかけるようになった。


 それに気づいていたイザベラは本来父親から受ける分の愛情も足してテオドルフに与えていたが、そのせいでニルスはテオドルフのことを憎む要因にもなってしまっていた。

 彼らの家族仲はゆっくりと、しかし確実に崩壊へと向かっていた。


「うわ、凄い人。潰されないようにしないと……」


 王城の庭園に出たテオドルフは、人混みに潰されないよう気をつけながら歩く。

 たまに知っている人物に会っては挨拶をして、別れる。まだ慣れないその作業を繰り返していく。


「ご機嫌うるわしゅう殿下。殿下もあと三年でギフトをいただけますな。いやあどのような素晴らしいお力を賜われるのでしょうか。今から楽しみです」

「はは……ありがとうございます」


 テオドルフは適当に流しながら会話を終わらせる。彼はあまりギフトに興味がなかった。父親に落胆されない能力であればいいなあ程度にしか思っていなかった。


 国王になることも興味がなかったので、どこか田舎にでも行ってのんびり暮らすことがなできないかなあなどとこの歳から思っていた。


「ふう、これで知っている人には挨拶できたかな……ん?」


 一通り挨拶を終え、休憩しようと思ったテオドルフは見知った顔を見つける。

 その人物はつい最近知り合った人物であった。テオドルフは彼女・・に近づき挨拶する。


「こんにちはレイラさん。来てくださったんですね」

「…………」


 テオドルフが話しかけたのは、冒険者のレイラであった。

 彼女は前回会った時の動きやすい格好とは違い、パーティ用の綺麗なドレスに身を包んでいた。そのドレスは彼女の美しさを更に引き立てており、それにつられた男性陣に何度も声をかけられていた。


 しかし違ったのは服装だけではなかった。

 元々感情の起伏が薄いレイラであったが、今日は輪をかけて無表情であった。

 まるで自分の意思がないみたいな、例えるなら『人形』のようなう印象をテオドルフは持った。


「あの、レイラさん?」

「……はい。こんにちは、殿下」

「あ、はい、こんにちは……じゃなくて。どうかしましたか? 気分が悪いとか……」

「……いえ、大丈夫です」


 レイラは返事をしてくれはしたが、目の焦点は合っていない。

 いったいどうしたんだろうとテオドルフは疑問に持つが、レイラはまともに取り合ってはくれない。

 テオドルフの心の中に言葉にできない不安な感情が湧く。その時彼はあることに気がつく。


(……? あの首輪なんだろう)


 レイラの首にかけられた鉄製の黒い首輪。

 煌びやかなドレスには到底似つかないそれにテオドルフは違和感を覚えた。


「あの、その首輪見せてもらってもいいですか?」

「……はい」


 断れるかもしれないと思ったが、レイラは彼の言葉に素直に従う。

 しゃがみ込んだ彼女に近づいたテオドルフは、その首輪に触れる。


(……なんだか嫌な感じのする首輪だね。いったいなんなんだろうこれ?)


 テオドルフはその首輪に集中する。

 すると突然自動製作オートクラフトの能力が発動し、その首輪の必要素材とその首輪の名前が頭に浮かんでくる。

 その必要な素材は『鉄』、『魔石』、『呪刻石じゅこくせき』。

 そしてその首輪の名前は『隷属の首輪スレイブカラー』であった。


「え……っ!?」


 呪刻石はその名の通り、呪い系の魔道具を作る際に用いられる素材である。テオドルフはこの時、目の前の女性が何者かの手によって操られていることに気づいたのだった。

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