第24話 弁明しよう!

 アリスとともに家に帰った僕は、レイラに淹れてもらった紅茶を飲みながらここ数日起きたことを彼女に伝えた。


 エルフの里を無事に救うことができたこと。

 彼らを村に迎え入れることになったこと。

 その時になしくずし的に婚約を結ばされたこと。


 アリスは不機嫌そうにしながらも、僕の話を最後まで聞いてくれた。

 レイラはいつも通り冷静にしていたけど、アイシャさんはこっちを見ながらハラハラした表情を浮かべている。

 うん、レイラが特殊なだけで普通はそういう反応になるよね。


「……話は分かったわ。つまりあんたから求婚したわけじゃないってことね?」

「それはもちろんだよ。僕にその、結婚なんてまだ早いし」


 僕はそう弁明する。

 こっちの世界では僕くらいの年齢で婚約者がいることも珍しくはないんだけど、とても今の僕は結婚そんなこと考える余裕はない。

 とにかく今はこの村を大きくして、みんなが安心して住めるようになることが最優先。僕個人が幸せになるのはその後の話だ。


「じゃあどうするの? 結局結婚の話は受けるの?」

「一旦返事は保留にしてもらってる。まだ僕には早いし、そんな余裕はないからね」


 断ってしまうとエルフの人たちとの間に生まれた絆にヒビが入ってしまう。だから現状は今の状態をキープすることになったんだ。

 まあ毎日のように二人から距離を詰められているので、断るという選択肢が段々なくなっている気がするけど。


「ふうん……なるほどね。まあいいんじゃない。あんたも王族なんだし、政略結婚の一つでもしないと箔がつかないでしょ」

「え? 反対しないの?」

「私は女神教を信仰しているのよ? 当たり前じゃない」


 女神様を信仰する女神教は、多くの人と愛を育むことを推奨している。

 勇者であるアリスがその考えを持っていることは確かに推測できる。でもじゃあなんで怒ってたんだろう?


「私が気に食わないのは、私より先にぽっと出のエルフと婚約したことよ! 私はそんなこと言われたことないのに……」

「え、それで怒ってたの?」


 まさかそんな可愛い理由で怒っていたとは思わなかった。

 でも考えてみれば、僕の方から彼女に好意を伝えたことはあまりなかったかもしれない。もしそれでアリスが不安になっていたのなら……反省だ。

 そんな状態で知らない人と婚約したと聞いたら、確かに嫌な気持ちになるよね。


 僕は向かいに座るアリスの手を握り、思っていたことを伝える。


「不安にさせてごめんね。アリスにはちゃんと、場所とタイミングを整えてからお願いしたかったんだ。まだその時まで時間がかかると思うけど……もう少しだけ待っててもらえる?」

「――――っ!!」


 僕の言葉を聞いたアリスは目を丸くしたあと、顔が真っ赤になる。

 たぶん僕の顔色も赤くなっていると思う。


「ふ、ふ~ん。まあそういうことなら仕方ないわね。まあ確かに? 好き過ぎると気軽にそういうことは言えないわよね。まったくもう、本当に仕方ないんだから」


 そう言いながらもアリスの声色は嬉しそうだ。

 どうやら彼女の納得のいく返事はできたみたいだ。


「言っとくけど完全に許したわけじゃないから! ちゃんとその時までにマシな言葉考えときなさいよ!」


 アリスはそう言うと、軽い足取りで帰っていった。

 緊張していた肩の力が抜け、へにゃっとテーブルの上に上半身を倒す。つ、疲れた……。


「アリスちゃん、嬉しそうでしたね。丸く収まってよかった」

「テオ様にあそこまで言わせたんです。あれでまだ文句があるようでしたら剣を抜くところでした」


 今まで黙っていたアイシャさんとレイラがそう話し始める。

 レイラの剣が抜かれる前に話が終わって本当に良かった。二人が戦ったら村がめちゃくちゃになってしまう。


「ところでレイラさんは婚約の件に関しましては特に思うことはないんですか?」

「っ!?」


 突然爆弾をぶち込むアイシャさんに、僕は驚き飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。

 なんでこのタイミングでそんなことを聞いちゃうの!? 再び緊張して体が固くなるけど、レイラは意外にも冷静にその疑問に答える。


「確かに私はテオ様を心の底から愛しています。しかしあくまで私はテオ様のメイド、従者です。テオ様の意向に反対するようなことはしません」

「はあ……そうなんですね」


 レイラの返答は従者としてはまっとうで正しいものなんだと思う。

 でもそう答えられるとなんだか少し寂しい。僕に嫌なことがあるならちゃんと言ってほしいな。


「あ、そうだ。気になっていたんですが、テオくんとレイラさんの出会いってどんな感じだったんですか? レイラさんって確か昔は冒険者だったんですよね。それがなんでメイドさんになったんですか?」

「……そうですね。そろそろ貴女には話してもいいかもしれません。テオ様もよろしいですか?」


 レイラの言葉に僕は「うん、いいよ」と頷く。

 アイシャさんはもう大切な仲間だ。昔話くらい全然しても大丈夫だ。


 レイラは僕の向かいに座ると、昔を懐かしむような表情を浮かべながら話し始める。


「それではお話しましょう。私とテオ様の運命の出会いの話を」


 アイシャさんと僕は、レイラの話に耳を傾ける。

 そう、あれはまだ母上もまだ生きていて、父上との仲も悪くなかっ時の話だ――――

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