第22話 羊に会おう!

 僕の村にエルフが来てから早いもので一週間の時が過ぎた。

 種族が違えば問題も起きるかもしれないと、最初は少しだけ心配だったけど大きな衝突もなくみんな平和に過ごしている。


 村の中心部にそびえ立つニュー世界樹もすくすくと成長していて、その周りはみんなの憩いの場となっている。

 世界樹の力のおかげか、なんだか村の中にいると元気が湧いてくる気がするし、空気もおいしく感じる。いいことづくめだ。


 というわけでエルフのみんなの受け入れもほぼ終わったので、僕はさっそく次の仕事に取りかかっていた。


「こ、こんにちは」

『メー』


 僕の挨拶に鳴き声でそう返してきたのは、一頭の羊であった。

 普通の羊ではない、金色のもこもこした毛の綺麗な羊だ。日の光を浴びてきらきらと輝いている。みんなたくさん毛を蓄えてて凄いもこもこしている。

 その不思議な羊は三十頭ほど僕の前にいる。


「凄い毛の量ですね……」

「凄いのは量だけではない。金毛羊ゴルドシープの毛はその質も最上級だ。これを服の素材にすればどんな極寒の地帯でも問題なく行動できる。耐衝撃性能も高く、下手な鎧より頑丈だ」


 そう答えたのは双子のエルフの妹のエレナさんだった。

 エレナさんはまだ僕に対してツンツンしている部分があるけど、前よりはたいぶ優しくなってきた気がする。加護を渡そうとする回数も日増しに増えている気がする。


「でも助かりましたよ。村で動物は飼いたいと思っていましたので」


 エルフの人たちは特殊な動物を複数飼っていた。どの動物も普通は人前に姿を表さない希少な種類らしい。彼らはエルフに守って貰う代わりに、毛などを提供して一緒に暮らしていたんだ。

 そしてその動物たちももちろんこの村に連れてきてもらっている。今日はエレナさんにその家畜たちを紹介してもらっているんだ。



「確かにきらきらしてて綺麗な毛ですね」

『メエ』


 そうだろ、と言わんばかりに金毛羊ゴルドシープが返事をする。

 彼らは知能が高いらしく、こちらの言っていることをある程度理解できるらしい。


「でもなんでこんなもこもこなんですか? 毛刈りはあまりしてないんですか?」

金毛羊ゴルドシープは気難しい性格をしていて、中々毛刈りをさせてくれない。そんなに毛が生えていたら自分も邪魔だろうに……困ったものだ」


 試しにその毛を触ろうとすると、金毛羊ゴルドシープはぷいっと体をそらしてそれをかわす。触られることすら嫌みたいだね。

 うーん、確かにこのままじゃ生活しづらそうだ。羊毛は色々なものに利用できそうだし、こんな珍しいものベスティア商会も欲しがるだろう。なんとかして刈ることができないかな。


「あ、そうだ。今朝おいしいニンジンが取れたんです、いかがですか?」

『メ?』


 次元収納インベントリからニンジンを一本取り出し、金毛羊ゴルドシープの前に出す。

 すると金毛羊ゴルドシープは興味深そうにニンジンをくんくんと嗅ぐ。


「おい、ニンジンで釣るつもりか?」

「流石にそう簡単にいくとは思ってませんよ。でも仲良くなるきっかけにはなるかもしれないじゃないですか」


 エレナさんの問いにそう答える。

 今日は無理だとしても、信頼を築いていけば毛を刈らせてくれるかもしれない。それに一緒の村に住む以上、彼らも仲間だから親切にするのは当然だ。


 金毛羊ゴルドシープはしばらくニンジンをしばらく嗅いだあと、むしゃりとニンジンをかじる。すると、


『ンメ~~~~!!』

「わっ!?」


 目をカッと見開き、大きな鳴き声を出す。

 鳴き終わるとすぐに残りのニンジンをがつがつと平らげてしまう。そしてすぐさまおかわりを催促するように頭をぐりぐりと押し付けてくる。


「わ、わ。まだあるから落ち着いて」

「こんなにがっついている金毛羊ゴルドシープ、初めて見たぞ。そんなに美味しかったのか?」



 エレナさんの言葉に金毛羊ゴルドシープは『ンメ~』と答える。

 よほど美味しかったみたいだ。どうやら彼らは美食家グルメみたいだね。他の金毛羊ゴルドシープたちも騒ぎとニンジンの匂いを嗅ぎつけて押しかけてくる。


「待って! みんなの分あるから!」

『メー』

『メエ』

『ンメエ~』

『メ』


 柔らかい羊毛にもみくちゃにされながら、僕は彼らにニンジンを配り終える。

 ふう、中々に大変な作業だった。でも喜んでもらえて良かった。たくさん作った甲斐があったよ。


『メエ』

「へ?」


 一仕事終えて地面に座り込んでいると、金毛羊ゴルドシープの一頭が近づいてくる。

 この羊は最初にニンジンをあげた子かな? その羊は僕のことをじっと見つめてくる。

 なんとなく触るのを許されている気がしたからゆっくりと手を伸ばしてみる。すると羊はじっと動かず僕が触るのを許してくれた。肌はさらさらしていて、毛はもこもこで気持ちいい。


「触らせてくれてありがとう。少しは信用してくれたのかな?」

『ンメ』

「色々至らないところもあると思うけど、なるべく早く君たちが村に馴染めるよう頑張るよ。一緒の村に住んでいる君たちを僕は仲間だと思ってるから。だからなにか困ったことがあったら遠慮なく頼ってね」

『…………』


 僕の言葉に金毛羊ゴルドシープは答えず、じっと目を見つめてくる。

 どうしたんだろうと首を傾げると、その羊は僕の隣に座り込む。


 なにをしてほしいんだろうと困惑していると、それを見てエレナさんが驚いたように声を出す。


「これは驚いた……まさか金毛羊ゴルドシープがこんなに早く毛刈りを許すとは」

「え? そうなんですか?」

「ああ。金毛羊ゴルドシープは毛刈りを許した人間の横にそうやって座り込むんだ。気が変わらない内に刈るといい」

「え、そうなんですか?」

『メ』


 早くしろ、とばかりに金毛羊ゴルドシープは鳴く。

 僕は「ありがとう!」と笑顔で言い、自動製作オートクラフトでハサミを作りさっそく毛刈りを始めるのだった。

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