第20話 石像

「あの、これって」

「おっとすみません説明が遅れました。これは実際におさの活躍を見たアンナローゼ様とエレオノーラ様から話を聞き作りました、テオドルフ様等身大石像になります」

「いや、これが僕の石像だっていうのは分かるんですが」


 聞きたいのはそこじゃなくて、なんでこんな物があるのかだ。

 村の広場の中心に自分の石像があるなんて恥ずかしすぎる。


おさの勇姿をお聞きしたらいても立ってもいらず作ってしまいました。我ながら会心の出来です! いつお披露目しようと悩んでいましたが、新たなる世界樹様を見て今しかないと思い設置しました! ふふ、我ながらいい仕事をしてしまいました……!」


 エルフの職人さんが言うと、周りのエルフもうんうんと頷く。

 どうやら彼らから見てもこの像はいいものらしい。まいった、これじゃあ撤去してなんて言えない雰囲気だぞ。


 困っているとアンナさんが前に一歩出てくる。

 みんなの暴走を止めてくれないかなと一縷の希望を彼女に託す。


「旦那様は世界樹イルミア様に選ばれた身。その像は世界樹の根元にあるのが相応しい。よい仕事をしてくれましたね」

「ははっ!」


 アンナさんの言葉に職人さんは誇らしげに跪く。

 終わった。僕の像は残るの確定だ。心の中でシクシクと泣いていると、


「騒がしいと思えば……なんですかこの像は」


 現れたのはメイドのレイラだった。どうやら朝ごはんの片付けを済ませてやって来たみたいだ。

 ちなみに彼女はアンナさんたちとの婚約を聞いた時「そうですか」と短く答えただけだった。そのことについてどう思っているのかはまだ知らないし、聞けない。


「助かった……レイラも言ってよ」

「はい、お任せください。いいですか? この像は欠陥があります。まずテオ様と身長が2cm違います。本物はもっと小さく愛くるしいです」

「……え?」


 思わぬ発言に僕は気の抜けた言葉を出す。

 まさか像のダメ出しをし始めるとは思わなかった。


「まつ毛も短いですね。これではテオ様のまつ毛はもっとバチバチに長いです。輪郭はもっと丸くしましょう。足はもっと華奢に。それと……」

「鼻ももう少し細く、でしょう?」


 突然アンナさんもダメ出しに参加し始める。

 レイラさんとアンナさんの視線が交差し、バチッと火花が散る。ど、どうなってしまうんだ……辺りに緊張感が漂う。


「……ほう、よく見ていらっしゃいますね、アンナローゼ様」

「妻として当然です。ご安心ください、この像は私が責任を持って監督し完成させます。まあそれでも旦那様の可愛らしさを100%再現することは不可能でしょうが」

「ええその通りです。よく分かっていらっしゃる」


 なぜかレイラとアンナさんは歴戦の戦友のように語り始める。訳がわからないよ。

 まあ喧嘩とかにはならなくてよかったけど。


「像はもういいけど……あんまり人の邪魔にならないようにしてね」

「はい! お任せくださいおさ!」


 無駄にいい返事を受けながらその場を立ち去ろうとする。

 するとアンナさんが僕の側にやって来て、耳打ちしてくる。


「旦那様、少しご用がありますので夜に私の家にお越しください。妹と一緒にお待ちしております♪」

「へ? わかりました」


 アンナさんは僕の返事に満足したのか、にこっと笑みを浮かべると像の方に去っていく。

 いったい用ってなんのことだろう? エレナさんもいるみたいだし……気になるね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る