第18話 新しい仲間
エルフの里からの引っ越し作業は、スムーズに行われ大きなトラブルもなく終わった。
これも全てアンナローゼさんとエレオノーラさんの尽力のおかげだ。
二人が指揮を取ってくれたおかげで準備、移動共に特につまずくことはなかった。
ルカ村の受け入れ態勢も早くに整った。こっちはアイシャさんが先頭に立ち、村人と共に行ってくれた。
「アンナローゼさん。こっちの家の建設は終わりましたので、先に越してきたエルフの人たちは入れますよ」
「ありがとうございます旦那様。あ、それと一つお願いがあるのですが……」
「お願いですか?」
おずおずと『お願い』と口にするアンナローゼさん。
一体どうしたんだろう?
「夫婦になるのですからアンナローゼなどとかしこまって呼ばないでください。私のことはどうぞ気軽にアンナと呼んでください。妹もぜひエレオノーラではなくエレナとお呼びください」
エルフの長となってしまった僕は、なし崩し的に二人の旦那さんということになってしまった。
いくらこの世界が奥さんをたくさん取ることを推奨しているからといって、簡単に「はい」と受け入れることはできない。ひとまず一旦答えは保留にしてほしいといったんだけど、アンナローゼさんは完全にその気になっていた。
なんとエレオノーラさんもその気になっているから驚きだ。嫌われていたと思ったんだけど、本当に分からないものだね。
「えっと旦那さんになるかは分かりませんが……呼び方は分かりました。エルフの人たちの移動をお願いしますね、アンナさん」
「はい、かしこまりました♪」
アンナさんはそう言うと、上機嫌に去っていく。
うーん、これからどうなるんだろう。
「順調そうだの、テオドルフ」
アンナさんと別れると、ルーナさんが話しかけてくる。
住民の移動の時、護衛としてついてくれたのでかなり走っているはずだけど疲れた顔ひとつ見せていない。
「もう仕事は終わったのか?」
「ひとまずは。あ、でもまだあれが残っていますね」
あることを思い出した僕は、
「……なんだそれは?」
「これは世界樹の『種』です。イルミアさんから託されたんです」
エルフの里にそびえ立っていた世界樹はその役目を終えた。
そこでその魂であるイルミアさんは次の世界樹の種を僕に託したんだ。僕にはこれをちゃんと育て上げるという使命がある。
「なるほどこれが……。確かに中に神性を感じる」
「人が多い場所に植えてほしいと言われました。村の中央の広場に植えようと思っているのですが、大丈夫そうでしょうか」
「ふむ、あそこであれば問題ないだろう。日も当たるし活気もある。きっと世界樹も喜ぶことであろう」
フェンリルのお墨付きをもらった僕は、さっそく村の中央の広場にやって来た。
遊ぶ子どもたちに踏まれないよう、囲いを作ってその中心部に種を植えることにする。
「神の
白金色の鍬を取り出し、地面をよく耕す。
既にこの場所も耕して瘴気を浄化しているけど、無駄にはならないはずだ。
「よいしょ……と。これくらいでいいかな。あとは肥料でもあればいいけど」
普通の肥料でもいいけど、世界樹を植えるんだからいいものを使いたい。
なにかいいものあったかな、と考えているとルーナさんが口を開く。
「ふむ、であれば竜の骨を使うのはどうだ?」
「竜の骨ですか? 確かにありますけど」
この村を襲った飛竜と地竜の素材はまだまだ余っている。
「竜の骨は砕けば良質な肥料になる。やってみるといい」
「本当ですか? やってみます!」
ルーナさんの助言を受けて、僕はさっそく
「でも結構硬いよね。どうやって砕こうかな」
少し考えた僕は、あることを思いつく。
そうだ、
試しに竜の骨に集中してみると、頭の中に『骨粉肥料(竜)』と表示される。うん、これならいけそうだ。
「
能力を使うと竜の骨が一瞬でバラバラになる。
ちなみに鑑定を発動すると次のように表示された。
・骨粉肥料(竜) ランク:A
竜の骨から作られた良質な肥料。少量まいただけで肥沃な土地になる。
竜の体には大いなる力が宿る。竜が死に土に還ると、その土地には新たな森が生まれると言われている。
なんだか凄い説明が出てきた。
ルーナさんの言っていたことは本当だったんだね。これなら世界樹の肥料として申し分ないはずだ。
「これをまいて……と。せっかくだから
そう言って僕はもう一本骨を取り出す。
手にずしりとくる重量感。これでもかなり小さい方だ。
竜の骨より立派なそれは、この村を襲った巨大な亀、アダマンタートルの骨だ。
あれほどの巨体を支えているんだからその骨の密度と重さは桁違いだ。
・骨粉肥料(アダマンタートル) ランク:SS
山の如き巨体の亀の骨より作り出された至高の肥料。少量まいただけで最高の土壌になる。
悠久の時を生きるアダマンタートルは、生きる大地である。その肉体には強い大地の力が秘められており、その力を得た植物は強く育つようになる。
おお、鑑定したらさっきより凄い説明が出た。
しかも大量にできたので、全部まいておこう。
「後はまたしっかり耕して、と」
「はは、これほどの物を一気に使い切るとは思い切った奴よ」
「え。なにかまずかったですか」
おかしそうに笑うルーナさんを見て、僕の手が止まる。
さすがに全部使うのはまずかったかな?
「いや、まずいことはない。だがその骨はとんでもない貴重品だ。それを肥料に……くくっ」
「まずくないならいいじゃないですか」
「はは、すまん。面白くてな」
僕は頬を膨らませてすねながら土を耕す。
アダマンタートルの素材が貴重品なのは分かるけど、使わなければただの置き物だ。ベスティア商会にも一度に大量は売ることができないので、使える時に使わないと。
「最後に種を植えて水をかけて、と。これでいいですかね」
「うむ。世界樹は育つのがゆっくりであるが、これだけ整った土壌であれば翌日には芽が出るかもしれないな」
ルーナさんの言う通り、すぐに芽が出ると嬉しいな。
納得しているとはいえ、エルフの人たちは新しい村に来て不安なはずだ。でも世界樹が生えればきっと不安も緩和されるはず。
だから早く育ちますように。
僕はそう祈りながらその日の作業を終えるのだった。
◇ ◇ ◇
次の日。
疲れてぐっすりと寝ていた僕は、ドタバタとした音で目を覚ました。
「た、大変テオくん! 起きて!」
「わふっ!」
「へ?」
アイシャさんとシルクに揺さぶられて、僕は起きる。
二人とも慌てている様子だ。シルクはただ興奮しているだけにも見えるけど。
いったい朝からどうしたんだろう。
「ふあ……どうしましたか?」
「いいから外に来て! そしたら分かるから!」
「わふわふ!」
アイシャさんに手を引かれ、寝巻きのまま外に出る。
すると……
「いったいどうし……って、ええ!?」
なんと広場には立派な巨木が生えていた。
なんか葉っぱがキラキラしてるし、神聖な感じがする。間違いない、あれは世界樹だ。
「朝起きたら急にあの木が生えてたの! 引っ越してきたエルフさんたちはお祈り始めるし、私なにがなんだか……」
「わふっ!」
そうだ、まだ世界樹の種を植えたことはアイシャさんに言ってなかった。
昨日は忙しそうだったから明日にでも話そうと思ってたけど、どうやらそのせいで驚かせちゃったみたいだ。
「でもここまで大きく育つなんて想像つかないよ……」
この土地の肥沃さ、そして世界樹の強さに驚きながら僕はアイシャさんに世界樹のことを説明するのだった。
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