第17話 引っ越しの準備をしよう!

 無事世界樹から脱出した僕は、そこで待っていたレイラとルーナさんに抱きしめられてもみくちゃにされた。

 特にレイラはかなり心配してくれていたみたいで、体が潰れるんじゃないかと思うくらい強く抱きしめられた。


 そんな感動の再開をした僕たちは、エルフの里へと戻り今度は世界樹の中で起きたことをエルフの人たちに告げた。

 世界樹の中が瘴気で侵されていたこと、中にいたトレントを倒したこと、世界樹は新しく生まれ変わること、そしてエルフは新しく僕の村に来ることになったこと。


 それらの事実を急に教えられてエルフの人たちはかなり驚き困惑していた。

 まあいきなり引っ越すなんて言われたら困惑して当然だよね。納得してもらうには時間がかかるかなと思ったんだけど、世界樹の種を見ると彼らは僕の村に来ることをあっさりと納得した。


 あとでアンナローゼさんに聞いたけど、この種を託されたのが僕だということが大きいみたいだ。世界樹が選んだ人物に従うのは彼らからしたら当然ということらしい。

 本当に僕みたいなのが彼らの上に立っていいのかは分からないけど、こうなった以上はみんなに幸せになってもらうよう頑張るだけだ。


「おーい! こっちは終わったぞ! そっちはどうだ?」


 話し合いが終わるとすぐさま引っ越しの準備が始まる。

 この里には百人近いエルフが暮らしている。それだけの人数が一斉に引っ越すのだから大変だ。


 ここから村まではそこそこ距離があるので、何回かに分けて移動することになった。まずはアンナローゼさん含む数人が僕たちと一緒に村に来てもらう。

 そしてルカ村で受け入れ態勢を整えつつ、移動手段を増やしてまたこの里にやって来て残っているエルフの人たちを順番に運ぶ。馬車数台とそれを引くゴーレムを連れてくればそれほど難しくはないと思う。


 大変な作業にはなると思うけど、なんとかなると思う。


「明日の朝には最初の便を出すことが出来ると思います。よろしくお願いいたしますね」


 作業の途中でアンナローゼさんがそう話しかけてきた。

 まずは彼女と数人のエルフが来ることになっている。物はそれほど運ぶ必要はないので準備に時間はかからなかったみたいだ。

 エレオノーラさんは里に残り、二便三便の準備の指揮を取るらしい。彼女が残ってくれるならアンナローゼさんがいなくなっても準備は問題なく進むと思う。


「姉様、第二便で向かう者たちの選定ができました。確認してもらえますか?」


 アンナローゼさんと話していると、エレオノーラさんもやってくる。

 彼女は僕がいることに気がつくと、気まずそうに視線をそらす。うーん、前みたいに嫌われている感じはないけど、なんか避けられている。どうしてだろう?


 疑問に思っているとアンナローゼさんがその態度をたしなめる。


「駄目ですよエレナ。そんな態度を取っては」

「し、しかし……」


 しどろもどろになるエレオノーラさん。

 仲良くはなりたいけど、強引にやるのはよくないと思った僕はそれを止める。


「大丈夫ですよアンナローゼさん。無理に仲良くする必要はありませんから」

「そうはいきません。私たちは夫婦・・になる身。恥ずかしいからといって距離を取るのはよくありません」

「ですが無理やりはよくな……え?」


 突然出てきたある単語に引っかかり、僕は言葉が止まる。

 いま『夫婦』って言わなかった? だ、誰と誰の話をしてるの?


「あの、夫婦ってどういうことですか……?」

「あら、言ってませんでしたか? 聖樹の巫女は里長にならなくてはいけません。その座を他の者に譲る時は、新しいおさの妻にならなくてはいけないのです」

「ええ!?」


 完全に初めて聞いた事実に僕は驚愕する。

 エレオノーラさんが恥ずかしがっていたのはそういう理由だったの!?


「え、ちょっと待ってください。聖樹の巫女ってお二人ともそうですよね?」

「はい♡ ですので二人とも・・・・もらっていただけますと嬉しいです。王国は女神教を信仰してますから問題ありませんよね?」


 アンナローゼさんはにこやかに笑みを浮かべながらとんでもないことを言い出す。

 確かに女神教は一夫多妻制を推奨・・している。たくさんの愛を育んだ者が女神様に祝福されると言われているんだ。

だから貴族や有名な冒険者など、お金を持ってたり強かったりする人はたくさんお嫁さんがいる。僕の父上は奥さんが二人いたけど、それは少ない方で珍しいんだ。


 最初は僕も戸惑ったけど、こっちの世界で過ごす内に慣れてはきていた。でもいきなり奥さんが二人もできるなんてさすがに戸惑ってしまう。


「少し待ってください。ほら、エレオノーラさんも僕と結婚するなんて嫌でしょうし良くないんじゃ……」

「そんなことありませんよ。ねえエレナ?」

「……き、決まりだから仕方ない。納得はしている。まだまだ軟弱だが……頼れる奴というのは先の戦いで理解しているからな」


 エレオノーラさんは耳を真っ赤にしながら答える。

 まさか仲良くなるどころか結婚を認めるなんて、いったいいつ僕は好感度を稼いだんだろう。


「いきなりですので戸惑うのも無理はありません。婚姻の話は仲良くなってからで大丈夫ですよ、旦那様♪」


 アンナローゼさんは上機嫌にそう言うと、エレオノーラさんと一緒に去っていく。

 と、とんでもないことになっちゃった。いったいこれからどうなるんだろう……?

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