第16話 エルフを受け入れよう!

「い、いやいや! ちょっと待ってくださいよ!」


 突然の申し出に僕は慌て困惑する。

 今回はエルフの人たちと友好関係を結ぶのが目的だった。それなのにいきなり全員を迎え入れてほしいと言われるなんて。そんなのあまりにも想定外過ぎる。


「テオドルフさんの村は新たな住民を探していると聞きました。我々エルフにはその資格はないのでしょうか?」

「そ、そんなことはありません! 皆さんが仲間になってくれるのは嬉しいです。だけど……」


 だけど……なんだろう。

 考えれば彼らが仲間になることに不都合はない。みんないい人たちだし、迎え入れてもトラブルはなさそうだ。

 村は自動製作オートクラフトの力でいくらでも広く出来るし、住居も用意できる。考えれば考えるほど断る理由はなくなっていく。


 でもこのまま考えなしに受け入れるのは危ないと考えた僕は、熟考の末にある懸念点を思いつく。


「そうだ。僕がエルフの皆さんのおさになるなんてエルフの人たちが認めませんよ。皆さんお二人を慕っているんですから、急に僕みたいなただの人間が上に立つなんて不満が出るに決まってます」


 詳しくは知らないけど、聖樹の巫女はエルフの人たちにとって特別な存在らしい。

 その二人を差し置いて僕が上に立つなんて納得しないよね。


「それでしたら問題ありません。イルミア様によって世界樹の種を託された貴方は、我々聖樹の巫女と同等……いえそれ以上の存在と言ってもよいでしょう。里の者も喜んで従うと思います。ねえエレナ?」

「……ええ。あのトレントを討ち、世界樹を救った功績だけでもエルフにとっては英雄級の働き。本来なら私も反対する立場ですが……まあその点に関しましては、その、認めてやらんこともないです」


 エレオノーラさんはどこか恥ずかしそうにそう答える。

 まさか彼女にそう言ってもらえるなんて思わなかった。びっくりだ。

 どうやら今回の戦いである程度は認めてもらえたみたいだね。ずっと溝があったから素直に嬉しく感じる。


「そんなに難しく考える必要はありません。エルフだからと特別視せず、普通の人間と同じ様に扱ってください」

「……分かりました。あなた方を僕の村で受け入れます」


 熟考の末に僕はそれを受け入れる。

 もし僕が断ったら、エルフの人たちは瘴気がまだ残っているこの森で、世界樹の庇護なしの暮らしをすることになる。それはきっと厳しい生活になるだろう。

 彼らが僕が上に立つことを認めてくれるのであれば、断る理由はない。僕としても彼らが村人なかまになるのは嬉しいしね。


「それではテオドルフさん。これからよろしくお願いいたしますね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 僕とアンナローゼさんはそう言って固く握手をする。

 まさかこんな形で村人が増えることになるなんてね。想像もしてなかった。


「感謝します人の子よ。貴方に託して正解でした。よくやって下さいましたね」


 イルミアさんは僕の側にやってきて、微笑む。

 その様はまるで絵画の一場面のように美しい。この人も女神様たちと似たような、神的な存在なんだろうね。思わず手を合わせたくなる。


 そんな彼女の体は段々と薄くなってきてしまっている。おそらくもう少しで消えてしまうんだろう。そして今度は新しい世界樹に宿るんだ。


「ちなみにこの世界樹はどうなるんですか?」

「私という魂を失ったこの世界樹はゆっくりと朽ちます。ですがその過程で大地に根ざした瘴気を浄化していくでしょう。時間はかかりますが、この森はいつか再生されます。その時はぜひ、またこの地を訪れてくださいね」


 イルミアさんの言葉にアンナローゼさんたちの表情は明るくなり、頷く。

 彼女たちが故郷に帰れる時も、そう遠くないのかもしれない。


「それではしばしのお別れです。愛しい我が子たちをよろしくお願いいたします」


 イルミアさんはそう言うと、なんといきなり僕の頬にキスをする。

 驚いて呆気にとられていると、再び優しそうな笑みを浮かべ、ゆっくりと消えていった。


「……さて、それでは里に戻りましょうか。なにがあったかの説明と、引っ越しの準備をしなくてはいけませんからね」

「はい。僕もお手伝いしますね」


 アンナローゼさんの言葉にそう返す。

 次元収納インベントリには大きな物も収納できる。引っ越しにも大いに役立つはずだ。


「ふふ、イルミア様に先を越されてしまいましたね。これは私たちも頑張らないといけませんね」

「……くっ」


 意味深なことを言うアンナローゼさん。

 それを聞いたエレオノーラさんはなにやら恥ずかしそうにしている。


「どうしましたか?」

「いえ、なんでもありませんよ。さ、帰りましょうか」

「はい……?」


 こうして少しの疑問を残しながらも、僕たちは無事に世界樹の中から帰還するのだった。

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