第15話 世界樹を救おう!

 塵となって消えるトレント。


 ふう、なんとかなって良かったと安心していると、世界樹の内部を覆っていた黒い瘴気が見る見る内に消え去っていく。瘴気の核となっていたトレントを倒したことで世界樹が力を取り戻したのかな? よかったよかった。


「テオドルフ様! ありがとうございます!」

「わ!?」


 急にアンナローゼさんに抱きつかれて、僕は驚く。

 彼女の胸はレイラよりも大きい。その包容力も比例して高いので中々抜け出すことは難しい。


 するとそれを見かねたのか妹のエレオノーラさんが珍しく助け舟を出してくれる。


「ね、姉様。困ってますからやめてあげては……」

「あら、貴女が異を唱えるなんて珍しいですね。もしかして妬いているのですか? それなら言ってくれれば代わりますよ?」

「な……!? なにを言ってるんですか! 誰がそんな奴をっ!!」


 エレオノーラさんは顔を真っ赤にして怒る。

 うーん、少しは見直してもらえたかと思ったけど、気のせいだったかな? 仲良くなれると嬉しいんだけど。


「トレントを倒したことで瘴気は消えましたけど、この大きな穴は消えませんね」


 なんとかエレオノーラさんから抜け出した僕は、辺りを見ながら言う。

 世界樹の中心部にはぽっかりと大きな穴が空いたままだ。瘴気が消えてもそれは変わらない。


「そうですね……これだけの大きな傷、治すにはかなりの時間がかかるでしょう。そもそも世界樹にそれだけの再生力が残っているかどうか……」


 エレオノーラさんは悲しげに目を伏せる。

 瘴気の元を倒せば全て解決すると思ったけど事はそう単純じゃないみたいだ。


 いったいどうすればいいんだろう。そう悩みながらふと上を見上げた僕は、あるものを発見する。


「なんだあれ……?」


 上から降ってきたのは、小さな光の玉。

 警戒する僕たちの目の前に降りてきたその玉は、一回強く輝くとその姿を人の形に変える。僕はその人の姿に見覚えがあった。


「イルミアさん……!」


 その人は僕が世界樹の頂上で出会った、この世界樹そのものと言っていい人だ。

 前に会った時は元気がない様子だったけど、今は少し顔色が良くなっている気がする。瘴気がなくなったおかげかな?


「よくぞ瘴気を払ってくださいました。本当にありがとうございます。貴方を頼って良かったです」


 イルミアさんは僕に向かってそう笑いかけると、次にアンナローゼさんたちの方を向く。


「二人もよく頑張りましたね。あなた方は私の誇りです」

「い、いえ! 私たちは聖樹の巫女として当然の責務を果たしただけです」


 アンナローゼさんが慌てたようにそう言うと、エレオノーラさんもこくこくと頷く。

 エルフの人たちは世界樹を信仰している。二人にとってイルミアさんは神様みたいな存在なんだろうね。


「イルミア様。私たちはこれからどうすればよいのでしょうか? どうすればあなた様を元の状態に治すことができますか?」


 アンナローゼさんが尋ねる。

 するとイルミアさんはしばらく黙った後、ゆっくりと口を開く。


「私が受けた傷は深い……残念ながらこの大穴を塞ぐほどの力は残っていません。元の姿に戻ることは不可能でしょう」

「そ、そんな! であれば私たちが頑張った意味は……!」


 エレオノーラさんが悲痛な声を上げる。

 治らない可能性もあるかもしれないと思ったけど、まさかそれが現実になってしまうなんて。まさかの事態に重い空気が流れる。すると、


「話は終わっていません。確かにこの樹木からだはもう治りませんが、それで世界樹わたしが終わるわけではありません」

「え……?」


 どういうことだろう、と思っているとイルミアさんが僕の前にふわふわと浮きながらやってくる。


「これを」


 手を前に出したイルミアさんは、僕になにかを手渡してくる。

 手で握れるくらいの大きさの、茶色くて丸い物。これは……


「種?」


 僕の言葉にイルミアさんは「はい」と肯定する。


「それは次の・・世界樹の種です。その種が芽吹き、育てば私は再びそこに宿ることができます。世界樹は過去にもそうやって転生し、場所を変え大地を見守ってきたのです」

「そうだったんですね……」


 この種に次の世界樹があると思うと、なんだか重く感じる。

 絶対にちゃんと育てないと。


「この種はどこに植えればいいのですか? やっぱりエルフの里の近くのほうがいいのですか?」

「いえ、この土地はまだ瘴気が深く根付いています。もっと肥沃な土地、そしてできれば人が住んでいる場所が望ましいです」

「そうなると……この近くだと僕の住んでいる村になっちゃいますかね」


 あそこなら瘴気は深く根付いてないし、浄化も済んでいる。

 人もこれから増えるだろうし、条件には合致している。だけど、


「そうしたらエルフの人たちは世界樹と離ればなれになっちゃいます。他の方法がいいのではないですか?」


 そう尋ねると、イルミアさんは首を横に振る。


「その必要はありません。そうですねアンナローゼ」

「はい。私たちの故郷は世界樹の膝下。世界樹が移動するのであれば、私たちもそこに移動すればいいだけのこと」


 アンナローゼさんはすらすらとそう答える。

 ま、まさかこの流れって……


「テオドルフさん。どうか私たちエルフもあなたの村に住ませていただけないでしょうか? 認めてくださるのならば、あなたをおさとし忠誠を捧げます」

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