第4話 森に入ろう!

「テオ様、ここは根が多いのでご注意を」

「うん、ありがとう。大丈夫だよ」


 僕たちはうっそうとした森の中を、奥へ奥へ歩く。

 瘴気が侵食しているせいで、腐っている木も見かける。本当にこの森にエルフが住んでいるのかな? もうこの森からいなくなっている可能性もありそうだ。


「ここへ来たのは久方ぶりだが、ここまで侵食しているとはな。『世界樹』が無事だとよいのだが」

「世界樹、ですか?」


 ルーナさんが発した聞き覚えのないワードに、僕は聞き返す。

 ゲームではよく耳にした単語だけど、こっちの世界にもあったんだ。


「む、言っていなかったか。エルフの里には神力・・を宿した大樹、世界樹が存在する。この森が瘴気に抗えているのも、その世界樹の力というわけだ」

「なるほど、そうだったんですね」

「ああ……だが瘴気の侵食具合を見るに、その力もだいぶ弱ってしまっておるようだ。急いだほうが良いかもしれんな」


 目を細め、真剣な表情でルーナさんは言う。

 普段は見ない顔だ。ということは事態はかなり深刻なんだろうね。急がなきゃ。


「よし! それじゃあ歩く速度を上げて……わっ!?」


 突然レイラに手で制されて、僕は驚いた声を上げる。

 一体どうしたんだろう、と思っているとレイラは真剣な表情を浮かべながら、視線を上に向ける。


「なにか来ます……っ!」


 次の瞬間、木の上から人影がいくつも飛び降りてくる。

 目元以外を布で覆って隠している彼らの手には、短剣が握られている。レイラは素早く剣を引き抜くと、迎撃に入る。


「はっ!」


 鋭く振り下ろされる短剣を、レイラは剣で受け止める。

 戦闘に関して僕は素人だけど、相手の動きは鋭く正確に見えた。訓練を積んだ戦士のように見える。


「私たちに敵意はありません。剣を収めてください」

「そのような言葉信用できるか……!」


 レイラは謎の集団に引くように言うけど、相手は聞く耳を持ってくれない。

 どうしよう、相手がエルフなら敵対したくないのに。


 なんて思っていると、相手の一人が短剣を構えて僕に向かってくる。

 まずい。僕は急いで防御の準備を始める。


自動製作オートクラフト鉄檻てつおり!」


 長方形の鉄のおりを、僕を囲むように出現させる。

 当然僕は檻の中に閉じ込められるけど、四方が守られるため安全だ。相手の短剣は檻に当たって弾かれる。


「な!? なんだこの力は!?」


 自動製作オートクラフトの力を見た襲撃者は驚く。

 そっか、普段は知り合いの前でしか使わないから感覚が麻痺してたけど、この力は他の人から見たら不思議に見えるよね。


 檻に入ったことで安全を手に入れた僕は、戦闘の中止を呼びかけようとする。だけど、


「いつまで苦戦している。相手は人間なのだろう? 全員叩き斬ってしまえ」


 そう言いながら、一人の人物が前に出てくる。

 綺麗な金髪と鋭い目が特徴的な、綺麗な女性だ。その人は布で顔を隠しておらず、そのとがった・・・・耳がよく見える。間違いない、この人たちはやっぱりエルフなんだ。


「しかしエレオノーラ様、一度里長に判断を仰いだ方が……」

「人間など自分の欲のことしか考えてないクズばかり。姉様の判断など必要ない」


 エレオノーラと呼ばれたその人は、剣を引き抜き僕に向かって襲いかかってくる。

 さっきまでの襲撃者とはまとっている魔力の量も殺気の質も違う。この人は強い。


 急ごしらえの鉄檻じゃ斬られてしまう! と焦るけど、レイラが僕たちの間に入ってきて、僕を守ろうとしてくれる。


「テオ様に剣を向けるとは許せません……お覚悟を」

「聖なる森を土足で荒らす不届き者め。その罪、自らの血でつぐなえ!」


 二人は殺気マシマシで激突する……かに見えたけど、その刃が交わる直前である人物は割り込んでくる。


「そこまで。お互い刃を収めろ」

「「……っ!?」」


 割り込んだのは、フェンリルのルーナさんだった。

 ルーナさんからは青白いオーラのようなものが体から放たれていて、凄い威圧感を感じる。あれってもしかして話で聞いた『神力』かな? 魔力とも違う、なんか荘厳な感じがする。


 その圧に押されてか、相手のエルフも完全に止まってしまっている。

 するとルーナさんは彼女の方を見て、親しげに話しかける。


「久しいなエレナ。アンナは元気にしておるか?」

「そ、その喋り方にこの神力……まさかルーナ様ですか!?」


 そのエルフさんは、ルーナさんと顔見知りみたいだ。

 100年前にこの森に来たってルーナさんは言ってたけど、ということはこのエルフさんも100歳を超えてるってこと?

 エルフは歳を取るのが遅いって聞いたことがあるけど、本当なんだ。エレオノーラさんは18歳くらいに見える。


「こやつらは我の友人だ。お主の気持ちは分からんでもないが、刃を収めてくれ」

「……分かりました。ルーナ様の頼みであれば」

「ありがとう。それと里に案内してくれぬか? 里長と話がしたい」

「はい……では、そのように仲間にも伝えておきます。間違えて襲ってしまっては申し訳ありませんので」


 エレオノーラさんはひとまずそう言ってくれたけど、あまり納得していない感じだ。

 どうやら『人間』そのものに良くない感情を持っているみたいだね。


「ひとまずは里に行けそうだが、この分だとすんなりはいかなそうだな。我が庇うにも限度はある。気をつけるのだぞ」

「はい、ありがとうございますルーナさん」


 今回の目的は倒すのではなく、仲良くなることだ。

 前途は多難そうだけど、頑張らなくちゃ。

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