第5話 里長に会おう!

 森の中で出会ったエルフの人たちに連れられ、僕たちは瘴気に侵されつつある森の中を歩く。


 先頭を歩くのはエレオノーラと呼ばれていたエルフの女性だ。

 どうやらここにいるエルフの中では、彼女が一番偉いみたいだ。


 ルーナさんには丁寧な態度を取る彼女だけど、人間ぼくたちにはかなり冷たい。

 他のエルフの人たちもやけに余所余所しいし、人間となにかトラブルでも会ったのかな? 色々と大変そうだ。


「着いたぞ。ここが我らの故郷、エルフの里イルファだ」


 そこは巨大な樹を中心として作られた村だった。

 人間の住む村とは違い木は伐採されてなくて、自然と共存しているように見える。木を家の一部として利用しているところもあるくらいだ。


 村の規模から見て、百人くらいのエルフが住んでいるみたいだ。

 仲良くなれるといいけど……上手くいくかな?


「姉さ……里長が会うと言っている。こっちに来い」


 エレオノーラさんに案内されて、僕たちはエルフの里の一番大きな屋敷に向かう。

 どうやらエレオノーラさんは里長の妹みたいだね。


 里長の屋敷に入ると、数人の屈強な男エルフが並んでいて、その一番奥に里長と思わしき女性のエルフがいた。

 エレオノーラさんと同じく金髪で綺麗な女性だ。

 だけど彼女と違ってとげとげした感じはなく、とても落ち着いていて柔和な感じの人だ。おっとりしていて、一緒にいるこっちまでリラックスしてしまいそうな……そんな感じがする。


「よくぞいらっしゃいました。ルーナ様に、お連れの方々。私はここの里長、アンナローゼと申します。よろしくお願いいたします」


 アンナローゼさんはそう言って恭しく一礼する。

 最初に会ったエレオノーラさんがああだったから心配だったけど、この人はとても友好的な感じがする。少し安心した。


 僕たちも同じ様に挨拶を済ませると、今まで黙っていたルーナさんが口を開く。


「それにしてもお主が里長になっているとはな。父はどうした?」

「……先代は瘴気の魔物との戦いで命を落としました。十年前の出来事です」

「そうであったか……つらいことを思い出させてしまったな。すまん」


 ルーナさんは悲しげに眉の端を下げる。

 アンナローゼさんは亡くなったお父さんの後を継いで里長になったみたいだね。まだ若いのに凄いことだ。


「それでルーナ様。今回はどのような御用で参られたのでしょうか? そちらの方々と関係がある……と考えてよろしいのでしょうか?」


 アンナローゼさんはちらりと僕たちの方を見て、質問する。


「そのことならこやつが説明する。任せて良いな?」


 ルーナさんの言葉に、僕はこくりと頷く。

 託された僕は、北の大地に村を作ったこと。エルフの人たちと仲良くなり、協力関係を築きたいことを説明した。

 それを黙って聞いてくれていたアンナローゼさんは、話し終わるとゆっくり口を開く。


「……話はわかりました。ですがテオドルフさん、あなたはなぜこの地に村を作られたのでしょうか? 知っての通りここは瘴気に侵されし地。人が住むには適しておりません」


 アンナローゼさんの指摘はもっともだ。

 それに僕は見た目がとても幼い。なんでこんな子どもが村を作ったのか、不思議に思って当然だ。

 僕が王子だという身の上話をしていいか悩むけど……隠しごとをしていたら永遠に仲良くはなれない。ふと見るとルーナさんは「大丈夫だ」と言いたげに僕に向かって頷いていた。

 腹を決めた僕は、自分のことを話し始める。


「僕は……フォルニア王国の第三王子です。僕は父上の命でここ北の大地を開拓しています」


 そう言うと、屋敷の中にいるエルフたちがざわつく。

 彼らの視線からは「驚き」と「不信感」を感じる。いきなり王家の者が来たんだから驚くのも当然だ。


 そんな中、アンナローゼさんの横で話を聞いていたエレオノーラさんが腰に差した剣を握り、一歩前に出てくる。


「王族だと……!? 貴様らは我らの最後の安住の地まで奪おうと言うのか! 許せん、やはりここで叩き斬ってやる!」


 鬼気迫る表情で剣を抜こうとするエレオノーラさん。

 その殺気に反応して、ルーナさんとレイラも戦闘態勢に入ろうとする。


 ど、どうしようと思っていると、アンナローゼさんがエレオノーラさんを手で制する。


「よしなさいエレオノーラ。客人に手を上げることは、私が許しません」

「し、しかし姉上! またあのような事態になってからではおそ……」

「私はやめろ・・・と言いました。分かりませんか?」

「う、ぐ……くっ」


 エレオノーラさんは悩んだ末、渋々剣を収める。

 そしてその場にいられなくなったのか、彼女は走って屋敷から出ていってしまう。それを見たアンナローゼは「はあ……」と悲しげにため息をつく。なにやら訳ありみたいだ。


 彼女はすぐに表情を整えると、僕の方を向く。


「……一つだけ聞かせてください、テオドルフ様。なぜ王国は今更この土地を開拓しようとしているのでしょうか」

「王国はこの土地を開拓しようとは思っていません。僕は……捨てられたんです。女神の力を得られなかった『無能』として」


 今でもあの時のことを思い出すと悲しい気持ちになる。


「だけど僕はここをみんなが笑顔で住める土地に変えようと思っています。この気持ちには王国も、国王も関係ありません。だから同じ土地に住む者として力を貸していただけないでしょうか、お願いします!」


 頭を下げ、僕は頼み込む。

 するとアンナローゼさんはしばらく考え込み、そして口を開く。


「彼らと私だけで、お話をしたいです。他の者は下がってください」


 アンナローゼさんの言葉に、他のエルフたちは「しかし……」と食い下がる。だけどアンナローゼさんは「これは命令です」と彼らを無理やり追い出してしまう。


 これで屋敷の中には、僕たちとアンナローゼさんだけ。いったいなにを話すんだろう?

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