第28話 ログインボーナス

 アダマンタートルとの戦いを終えた日の夜。

 疲れた体をベッドに預けた僕は、すぐに夢の世界へと落ちていった。


 そして気がつくと……周囲が真っ白な空間にいた。

 この場所には見覚えがある。もしかして、


「ぱんぱかぱーん! また会えましたねテオくん! 待ってましたよ!」

「わっ! 女神様!?」


 突然現れ、僕に話しかけてきたのは以前一回会ったことがある、女神様だった。

 僕はこの人のおかげでこの世界に転生し、そして『自動製作オートクラフト』の力を得た。


 他にもこの人には女神の加護に鑑定能力、そして神金属ゴッドメタルまで貰ってる。……よくよく考えたら貰い過ぎな気もする。ちゃんと感謝しないとね。


「見てましたよテオくんの活躍は! いやあさすが私が見込んだ子なだけはあります。フェンリルを助け、ゴブリンに襲われていた人たちを救出。竜を追い払っただけじゃなくてあんな大きな亀まで倒しちゃうなんて! 私も鼻が高いです、えっへん」


 女神様は腰に手を当て、大きな胸を張る。

 まさか多くの人に信奉されている女神様がこんな親しみやすい性格をしているなんて知ったら、みんなびっくりするだろうね。


「お褒めの言葉、ありがとうございます。でも僕はみんなの力を借りただけです。特に女神様から貰った力がなければ、なにもできませんでした。本当に感謝しています」

「テオくんはなんと謙虚なんでしょう! うう、愛しすぎる、このまま天界に監禁したい……」


 なにやら恐ろしい言葉が聞こえた気がするけど……気のせいだよね?

 女神様がそんなこと考えるはずがない。レイラじゃないんだから。


「その子がテオドルフくんかい? なるほど、確かにヘスティア好みの可愛らしい子だね」


 急に声がしてそちらを見てみると、そこには赤い髪の女性が立っていた。凛々しい顔つきの、綺麗な女性だ。この人は誰だろう?


「あ、紹介するねテオくん。彼女はアテネ、私の大親友で女神の一人よ」

「そうなんですね。初めまして……って、女神!?」


 女神様の言葉に、僕は声を出して驚く。

女神様が二人もいるなんて聞いたことがない。女神様は唯一神で、他に神は存在しないというのが女神教の教えだ。


 王家に『ギフト』を授けるのも、勇者に『勇者の力』を授けるのも、同じ女神。そう教えられてきたのに。


「あはは、驚いちゃうよね。地上では私たちは一人だって教えられてるだろうから」

「しかしわたしたちは一人ではない。きみたちと同じく、複数いるのだよ」


 まさかの事実に呆然とする。

 地球生まれの僕ですら驚くんだ、異世界生まれの人はもっと驚くだろうね。


「でもなんで女神様は一人だと思われてるんですか? 誰かの陰謀……とかですか?」

「いいえ、私たちが複数いるというのは、わざと隠しているの」


 女神様……ここでは僕に力をくれた方、アテネ様がヘスティアと呼んでいた方の女神様が説明してくれる。


「私たちは仲がいいけど、信奉してくれる人同士が仲良くしてくれるとは限られない。神の数だけ宗派ができて、宗派それ同士は争いを起こしてしまう」

「ゆえに私たちは一人であることにしたというわけだ。宗派が同じであれば、争いは減る。もちろん完全に争いをなくせるわけじゃないけどね」


 二人の女神様の言葉に、僕は「なるほど……」と納得する。

 今でさえ女神様を信奉する者同士で小競り合いはある。複数の神様がいるなんてわかった日にはその争いは更に激化するだろう。それを見越して二人は自分たちが一人であると偽ったんだ。


「改めて挨拶をさせてもらおう。私は『戦』の女神、アテネだ。勇者の力を与える役目を担っている」

「僕はテオドルフ・フォルレアンです。よろしくお願いします、アテネ様」

「ああ、よろしく、テオドルフくん。それと『様』だなんてかしこまらなくていいよ。仲良くしようじゃないか」


 そう言ってアテネ様、じゃなくてアテネさんは僕と握手してくれた。

 まさか女神様と仲良くなれるなんて、緊張する。


「あー! アテネずるい! 私の方がテオくんと先に知り合ったのに! ね、ね、私のことは『ヘスティア』って呼び捨てにしていいからね♪」

「いや、流石にそれはできませんよ……」

「むーっ!」


 ヘスティアさんは可愛らしく頬を膨らませて怒る。

 そうされても無理なものは無理だ。神様を呼び捨てにする勇気は僕にはない。


「ひどいわテオくん。勇者の子とはあんなことやこんなことまでしてたのに、私とは仲良くしてくれないんだ!」

「え、ちょ、見てたんですか!?」


 ヘスティアさんの言葉に、僕は焦る。

 するとアテネさんがおかしそうに笑いながら教えてくれる。


女神わたしたちに隠し事はできないよ。ふふ、それにしても意地っ張りなアリスがあそこまで心を許すとはなかなかやるね」

「うう、恥ずかしすぎる……」


 しばらく僕は羞恥心にもだえ苦しんだ。

 まさか見られているなんて……。


「とにかく! 最近テオくんは頑張ってます! それを労うために今日は呼びました!」

「労う……ですか?」

「はい! まずはログインボーナスです!」


 どこで覚えたのか、ヘスティアさんは俗っぽい言葉を言いながら僕に白く輝く鉱石を手渡してくれる。


「これって神金属ゴッドメタルですか!? ありがとうございます!」

「私のへそくりです。大事に使ってくださいね。それと……」


 ヘスティアさんはすすす、と僕の右隣りに来る。

 するとアテネさんも左隣りに来て、僕は女神様に挟まれる。


 そして二人は同時に僕の頬に「ちゅ」とキスをしてきた。


「え!?」

「ふふ、加護の更新です♪ これからも大変なことが続くと思いますが頑張ってくださいね」

「アリスによろしく伝えておいておくれ。彼女は頑張り過ぎるところがあるから、支えてあげてほしい」


 二人がそう言うと、段々意識が遠のいていく。

 どうやらここにいられる時間も終わりみたいだ。


 僕は二人の女神様に「はい、頑張ります」と返事をして、元の世界に戻っていくのだった。

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