第27話 戦いの終わり
「むにゃ……んん……?」
深いまどろみの中から、僕は目を覚ます。
薄く目を開けると、辺りは少し暗い。
あれ? 朝じゃない?
えーと昨日は普通に寝て……ない。
いったいなにをしてたんだっけと、まだぼーっとする頭で考える。
確かローランさんたちが来て、その後に地竜と飛竜が襲ってきてって……そうだ!
「アダマンタートルは!?」
ガバっと起き上がり、周りを確認する。
するとそこでは……村の人たちが盛大に宴を開いていた。
「おい! テオドルフ様が目を覚ましたぞ!」
「大丈夫ですか? お体は痛みませんか?」
「これ食べてくださいよテオドルフ様! 美味しいですよ!」
一斉に村の人たちが詰め寄ってきて、僕は「わ、わ、わ」と慌ててしまう。
ど、どうしようと思っていると、騒ぎを聞きつけたレイラがこちらにずんずんと近づいてくる。
「あ、レイラ。おはよ……」
言葉を言い終わる前に、レイラはガバっと僕を抱きしめる。
びっくりして逃げそうになるけど、レイラの体が震えていることに気がつき、それをやめる。
「よかった……本当に……」
「レイラ……心配かけちゃってごめんね」
そう言ってしばらく背中をなでていると、レイラは体を離す。
顔はいつも通り無表情だけど、目の下が少し赤くなっている。よほど心配させちゃったみたいだ。気をつけないと。
「えっと、起きて早々だけど。あれからどうなったか教えてくれる?」
「はい。もちろんです」
レイラは僕が気を失ってからのことを話してくれる。
アダマンタートルは無事僕の最後の一撃で倒すことができたそうだ。そして僕の意識がない間に、大解体作業が始まり、腐りやすい部位から回収されたという。
ちなみに村には魔石を使って
さすがにアダマンタートルの全てを運ぶことはできなかったみたいだけど、明日も頑張ればなんとかなりそうだ。
「まだお疲れでしょう。アダマンタートルのお肉でスープを作りましたのでぜひご賞味ください」
「うん、いただくよ」
もらったお皿の中には、アダマンタートルのお肉以外にも村で取れた野菜がごろごろと入っていた。じゃがいも人参玉ねぎ、どれも元の世界にもある野菜ばかりなので馴染み深い。
だけどこのアダマンタートルのお肉は初めてなので少し怖い。
おそるおそる透明なスープの中にスプーンを入れて、お肉と一緒に食べる。すると、
「……っ! おいしい!」
そのお肉は臭みがまったくなく、口の中でほろほろと解けていく。スープは野菜と肉の旨みが溶けていて、そこに香草のアクセントが加わってとても美味しかった。
アダマンタートルの肉は硬くてクセが強そうなイメージがあったけど、全然そんなことなかった。レイラが下処理と調理をしっかりやってくれたおかげもあると思うけどね。
疲れていた僕はガツガツと食べ進み、一瞬で完食してしまう。
「ありがとう。とっても美味しかったよ」
レイラにお礼を言って、僕は立ち上がる。
まだ疲れが残ってるけど、まあ歩くくらいなら平気そうだね。
「大丈夫ですか? まだ休まれた方が……」
「大丈夫、せっかくの宴だから僕も少し見て回りたいんだ」
「……かしこまりました。あまり無理せず、疲れたらすぐに休んでくださいね」
レイラの言葉に頷いて、僕は歩き始める。
村の人たちは宴を楽しんでいるみたいだった。お腹いっぱい食べて、騒いで。子どもも大人もみんな笑顔だ。
そしてみんな僕を見る度に笑顔でお礼を言ってくれる。
みんなの幸せそうな顔を見ていると、村を作って本当によかったと思える。
「テオドルフ様、ご無事なようでなによりです」
そう話しかけてきたのは商人のローランさんだった。そういえばこの人が来てから立て続けにモンスターが襲ってきたんだった。
せっかく来てくれたのに、全然おもてなしできてなかったね。
「わざわざ来ていただいたのに、慌ただしくてすみません。いつもここまでではないんですけど……」
「いえ、とんでもありません。竜の素材を融通していただけるようになりましたので、私としてはむしろ喜ばしいです」
ニコニコと笑みを浮かべるローランさん。
商人はたくましい。
「そういえばアンさんの姿が見えませんが……」
「あいつでしたら……あちらに」
ローランさんの視線の先には、村の人と一緒になって宴を楽しむアンさんの姿があった。もうすっかり村の一員みたいに馴染んでいる。コミュ力が高い……!
「部外者なのにはしゃいでしまって申し訳ありません。強く言って聞かせますので」
「いえ、楽しんでくださっているならなによりです。ローランさんもあまり気を張らず楽しんでくださいね」
「寛大なお言葉、ありがとうございます」
その後、少しだけ商談の話をしてローランさんと別れる。
彼らはまだ村に滞在できるみたいなので、細かい話は後でいいだろう。
「テオ! 目を覚ましたのね!」
歩いていると、急にアリスがやって来て抱きついてくる。
しばらくそうしていた彼女だったけど、途中で恥ずかしそうに離れる。意外と照れ屋なところもあって可愛い。
「もう大丈夫なの?」
「うん。ほらピンピンして……いたた」
「ちょっとあんま無理しちゃダメよ。あんたは体が強いわけじゃないんだから」
「ははは、ごめんね」
そこまで話して、僕たちは無言になる。
きっとアリスも僕と同じでアダマンタートルと戦う前のことを思い出してしまったんだ。レイラ以外の人からあんな風に好意を向けられたのは初めてのことなので、とても恥ずかしい。
前は普通に話せてたのに、今はそれが難しい。
「えっと……そうだ、アリスのおかげで助かったよ。勇者の加護がなかったらきっと勝てなかった」
アリスから貰った『勇者の加護』を鑑定で調べると、次のように出た。
勇者の加護
魔を滅する勇者の力。神の力を上手く扱えるようになる。魔族や悪魔に対して強い力を発揮できるようになる。
大事なのは『神の力を上手く扱えるようになる』のところ。
この力は女神さまから貰った『
アダマンタートル戦ではこれが凄い役に立った。
「ふうん……それなら良かったわ。ま、あんなに恥ずかしい思いをしたんだから少しくらい役に立ってくれないとね」
アリスはそう言うと、僕から視線を外しながら、そっけない感じで裾を掴んでくる。
「そ、そんなに役に立ったなら、もう一度その、してあげてもいいわよ?
顔が見えないように明後日の方向を向いているけど、耳が真っ赤になっているので恥ずかしがっていることがよく分かる。か、可愛すぎる……。
「えっと、じゃあ……お願いしようかな」
「しょうがないわね! と、特別なんだから感謝しなさい!」
アリスに連れられ、彼女が寝泊まりしている家に入った僕は、たくさん加護をもらうのだった。
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