第13話 防衛準備をしよう!

 テオドルフの「戦う」という言葉がローランに重く突き刺さる。

 その重さはゴブリンとの戦いという死線を一度乗り越えたからこそ得たものであった。


(利口な少年とは思っていましたが……見誤った! この短期間で王の風格を身につけるとは。これが領民を得た影響、ということでしょうか)


 ローランはテオドルフの評価を大きく変える。

 この少年は不思議な力を持っているだけではない、王位を継ぐに足りうる人物だと。


「テオドルフ様。戦を止めるよう進言したこと、お詫びいたします。ぜひ貴方の戦いをこの目で記録させてください」


 ローランの言葉に、テオドルフは頷いて返事をする。

 さて、どのような戦いになるか。ローランが楽しみにしていると、突然白髪の女性が上空からすたっとテオドルフの側に着地してくる。


「なにやら楽しそうなことになっているじゃないかテオドルフ。我の助けは必要か?」


 テオドルフの首に手を回しながらそう言ったのは、ルーナだった。

 突然現れた獣人に見える人物に、ローランたちは「誰だ?」とルーナのことを観察する。


「ルーナさんは戦わなくて大丈夫です。貴女にはそれより村人が避難する地下シェルターを守っていただきたいです」

「おや、寂しいことを言ってくれるじゃないか。我の力を信用していないのか?」


 からかうようにルーナがそう言うと、テオドルフはふるふると首を横に振ってそれを否定する。


「信用しているから一番大事なところをお任せするんですよ。貴女が村の人たちを守ってくだされば、僕たちも安心して戦えます」

「……ははっ! 言うじゃないかテオドルフ。いいだろう、今日のところは言いくるめられてやろう」


 豪快に笑ったルーナは、テオドルフの頭部に二度キスをすると、機嫌良さそうに村の中心部へ去って行く。


 その後ろ姿を見送ったローランは、テオドルフに尋ねる。


「あ、あの女性は何者ですか? 獣人……のように見えましたが、まとう雰囲気が獣人のそれとは全く異なります」


 その言葉にアンもこくこくと頷いて同意する。

 獣人である彼らはルーナの特異性にも敏感であった。


「彼女はフェンリルなんですよ。縁があって仲良くしてもらってます。ほら、あそこを駆けている小さな狼もそうなんですよ」

「フェンリル!? あの気高き神獣がこの村に住んでいるんですか!?」


 ローランは本日何度目になるか分からない衝撃を受ける。

 神獣は獣人にとって信仰対象ですらある、特別な存在。まさかそんな者に会えるなどと思っていなかった。


「先輩、これって」

「ええ、タマモ様・・・・にお伝えしなくてはなりませんね」


 こそこそと話すローランとアン。

 フェンリルを見つけたことは彼らの商会にとって重要なことだった。


「テオドルフ様! 間もなく地竜が射程圏内に入ります!」


 モンスターを観察していた兵士が叫ぶ。

 辺りに緊張感が走り、周囲の人物たちがテオドルフに注目する。


 まだ慣れているわけじゃない。緊張だって本当はしている。

 だがテオドルフはそれを顔に出さず、みなを鼓舞するように言葉を発する。


「みなさん! 勝っておいしいご飯を食べましょう! 大丈夫です、たくさん練習したから上手くいきます!」


 その少し気の抜けるようなテオドルフの言葉に、兵士たちは笑い、緊張が抜ける。


「それでは魔導砲・・・を準備してください! 射程圏内に入り次第、各自発射をお願いします!」


 テオドルフの指示に従い、兵士とゴーレムたちが魔導砲を起動する。

 それはローランすら知らない次世代の兵器。テオドルフが防衛の為に考え出した代物であった。

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